魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三百二十八話 あなたは段々眠くなる

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 ノエルちゃんとミエルさんが戦った後、僕はオダリムの街を歩いていた。街は夜だというのに人の数が多く活気がある。屋台にはお酒を飲んでいる人が目立っている。この街は眠らないのだろうか。
 そんなことをぼんやりと考えながら歩みを進める。すると、ベンチにホウリさんが座ってお酒を飲んでいるのを見つけた。


「それでよぉ、言ってやったんだよ。それはシチューじゃなくて裁判官だ、ってな」
「HAHAHAHAHA!面白い事を言うじゃねぇか!」


 隣のおじさんがホウリさんの肩をバシバシと叩く。一体何の話をしているのか気になるけど、聞きたい気持ちをグッと堪えて、ホウリさんの肩を叩く。


「それに、レバーじゃなくて……なんだロワか」


 振り向いたホウリさんは真っ赤な顔で呟いた。顔も緩み切っているし、これ相当飲んでないかな?僕が言うのもなんだけど、大丈夫だろうか。


「連れか?」
「ああ。ちょっと席を外すぞ」


 ホウリさんに肩を抱かれながら、別のベンチまで移動する。


「……それでどうした?」


 ベンチに座った瞬間、ホウリさんの顔がいつものように引き締まった。どうやら、酔って見えたのは演技だったらしい。


「実はホウリさんに相談したいことがありまして……」
「なんだ?」
「さっき、ノエルちゃんとミエルさんが特訓していたんですよ」
「それで?」
「そこで思ったんです。このままじゃ、ノエルちゃんに負けるのではないかって」
「なるほどな」


 ホウリさんが合点がいったような表情になる。


「ちなみに、ノエルの戦い方はどうだったんだ?何か変わった事はなかったか?」
「必殺技を生み出したって言ってました」
「どんな必殺技だ?」
「『ジャノキバ』とか『レインボーキック』ですね」
「詳しく話してくれ」


 僕は2人の戦いを詳しく説明する。


「───って感じですね」
「成程な。ノエルも考えたな」
「特にレインボーキックは凄かったです。同じ体勢で効果の違うキックを放つなんて、対処が難しそうです」
「聞いた感じだと、レインボーキックの真価は別になると思うがな」
「別?」
「詳しくは本人に直接聞いてくれ。今はお前の悩みについてだ」


 お酒を飲みながらホウリさんが話を戻す。


「要するにノエルとミエルの戦いを見て、ノエルに追い抜かれそうだと焦っている訳なんだな?」
「直接言われると凹みますね……」
「この程度の屈辱は我慢しろ」
「どうすれば良いんですかね?」
「まず、ノエルに抜かされそうだと言っていたが、それは間違いだ」
「そうなんですか?」


 良かった、てっきりこのままだといけないと思ってた。けれど、そんな事なんて無かったんだ!


「とっくにノエルに抜かされている」
「そんな事実は知りたくなかった!」


 ホウリさんの容赦ない言葉に、僕の心が抉られる。


「そんなにズバッと言わないでも良いじゃないですか!」
「冗談だよ。まあ、今のロワじゃノエルには勝てないだろうがな」
「やっぱりノエルちゃんの方が強いんだ!」
「話を聞け」


 ショックで手で顔を覆うと、ホウリさんから軽く小突かれた。


「ノエルに勝てないのは相性の問題だ。ロワはノエルに対して相性が悪すぎるんだよ」


 ホウリさん曰く、ノエルちゃんは魔装で一瞬で距離を詰めて来る。だから、遠距離から攻撃する僕とは相性が悪いらしい。ワープアローを使えば距離は取れるけど、銃で撃ち落とされる可能性もあるし、ワープのタイミングも読まれやすいしね。


「だから、相手に勝てないからって弱い訳じゃない。その辺りは間違えるな」
「うーん?なんだか納得いかない気がしますね?」
「世界で1番強いミエルでさえ、相性次第で負ける相手はいる。そういうものだと納得しろ」
「ミエルさんが負ける相手?そんなのはいるんですか?」
「俺が知ってる限りで3人はいる。勿論、フランを除いてな」


 フランさん意外の相手にミエルさんが負ける?そんなの信じられない。


「そんなものですかね?」
「分かりやすく言うと、俺はノエルに勝てるが、俺が強いかって言われたら微妙だろ?」
「ですね」


 ホウリさんは強いというか、ズルいって印象がある。勿論、強いんだろうけどノエルちゃんよりも力があると言われたら首を傾げてしまうだろう。


「今ので納得されたのも癪だが、そういうものだ。だから、ノエルに負けるとしても気にするな」
「じゃあ、僕って強いんですか?」
「平均よりは上だと思っていい」
「ノエルちゃんはどうですか?」
「上位100位くらいには入っているな」


 僕が平均より上で、ノエルちゃんが上位100位か。


「やっぱり僕って弱いんですか?」
「ああ」
「さっきと言っていること違いませんか!?」
「『冗談だ』って言っただろ?」
「悪い方の意味だって思わないですよね!?」
「まあまあ、これでも飲んで落ち着けよ」


 ホウリさんから差し出されたコーヒーを飲み心を落ち付ける。ふう、久しぶりにホウリさんの冗談を聞いたよ。
 僕の心が落ち着いたと判断したのか、ホウリさんが話を続けた。


「とにかく、今のお前は力不足だ。これからの戦いについてくるには、もっと力をつけなくてはいけない」
「ですが、どうすれば……」
「皆にあって、お前に足りないものがある」
「足りないもの?」
「戦闘経験だ」
「え?」


 思ってもいなかったことを指摘され、思わず声が漏れる。


「どういう事ですか?僕ってかなり戦ってると思うんですけど?」
「それは訓練だろ?俺が言っているのは実戦経験の話だ」


 確かに僕の実戦経験は少ない。なにせ、まともに戦えるようになったのがホウリさんに会ってから。まだ1年しか経っていない。


「ですが、それはノエルちゃんも同じでは?」
「ノエルはおつかいで結構戦っているんだよ」
「おつかいで戦うって何なんでしょうね」


 冗談みたいな響きだが、ノエルちゃんのおつかいは過酷だ。最初のおつかいが犯罪集団の壊滅だし、あの後も普通じゃないおつかいをやっているんだろう。


「そんな訳で、スターダストの中でお前が実戦経験に乏しい」
「それは僕に足りないものですか」


 確かに僕には足りない物が多い。けど、実戦経験という事ならば納得できるところが多い。


「では、すぐに実践経験を積まないと……明日の朝から街の防衛戦に参加させてもらえませんか?」
「ダメだ」
「何故ですか?」
「お前らは切札だって言っただろ?使いどころは慎重に決めたい。あと、理由は秘密だが、お前らに戦闘されると困るんでな」
「そうですか……」


 そこまで言われると、我儘を言うのも気が引けて来る。けど、このまま何も出来ないのも嫌だ。どうしようか。


「そこまで戦いたいのか?」
「え?」


 悩んでいる僕を見かねたのか、ホウリさんが話してくれた。


「勿論です。早く強くなって皆に追い付きたいです!」
「どんな過酷な戦いになっても良いのか?」
「はい!」


 今までかなりの数の過酷な戦いを潜り抜けて来た。今更、過酷な戦いになると聞いて怯むわけ無い。


「本当に良いのか?」
「勿論です!」
「そうか。ちなみに、今は弓と矢は持っているか?」
「え?どういうことですか?」
「良いから教えろ」
「弓は持ってますよ。矢は確認しますので、ちょっと待ってくださいね」


 矢筒を取り出して中を覗いてみる。


「普通の矢が30本、エンチャントの矢が10本、複製のトリシューラが2本ですね」
「思ったよりも少ないな」
「朝は戦うつもりは無いですからね」


 なんで、そんな事を聞くんだろうか。そう聞こうとした瞬間、僕の瞼が重くなってきた。


「あれ?なんだか眠たく……」
「一つだけ警告しておいてやる。人から貰ったものを無警戒に飲むのはやめとけ」
「へ?それって……」


 一服盛られた?パーティーメンバーに?なんで?
 そんな疑問を口にすることも出来ず、僕の意識は遠のいていった。最後に僕の目に映ったのは、ニヤリと笑っているホウリさんの顔だった。
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