魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三百五十九話 誰彼構わず八つ当たりだ

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「ふう、やっと帰ってこれたわい」


 わしは魔国の襲撃を退けてオダリムへと帰って来た。もうそろそろ朝じゃというのに、街のあちこちから宴会の声が聞こえる。オダリムの襲撃もなんとかなったみたいじゃな。
 そう思いながらいつものディーヌの宿……ではなく、ホウリに指定された別の宿に向かっていた。
 正直なところ、すぐにでも眠りたいところじゃが、ホウリに報告せん訳にはいかん。不本意ながらもホウリが指定してきた宿に向かっている訳じゃな。
 そんな事を考えながら、わしは指定された宿までたどり着く。扉を開けるとベルの涼し気な音が鳴り響いた。そして、奥から店員らしき奴がやってくる。


「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?」
「キムラ・ホウリに用がある」
「キムラ様のお知り合いでございますか。かしこまりました。301号までお越しください」
「うむ」


 わしは傍にある階段から3階まで上がる。それにしても質の良い宿じゃな。壁や天井、調度品も全て高価なものじゃ。店員の所作もしっかりしておるし、ここに泊まっても良いかもしれぬのう。
 3階まで上がり、手前の301と書かれている部屋を開ける。


「おう。お疲れさん」
「お疲れ様じゃ」


 薄暗い部屋には椅子に座っているホウリがおった。ベッドは2つあり、ノエルとミエルが寝ている。ロワは床に敷かれたマットレスに寝かされておる。


「大変じゃったみたいじゃな」
「ああ。全員、体力の限界まで頑張ってくれたよ。それよりも、魔法陣の傍に置いといた奴らはどうした?」
「みっちゃんにスキルを封じて貰ったわい。あれが主犯か?」


 わしがオダリムへと帰って来たとき、魔法陣の傍に男と女が寝かされていた。ホウリの言いたい事を察したわしは、みっちゃんと連絡を取り男のスキルを封じて貰った。


「ああ。男がオダリムに魔物をけしかけていた奴で、女が魔物をステータスで強化していた奴だ」
「ならば魔物の襲撃は終わったのか?」


 わしの言葉にホウリが頷く。


「操られていた魔物は逃げたりバリスタで倒されたりしている。明日には交易も再開できるだろうよ」
「やけにあっさりと決着が着いたのう?」
「結果だけ見ればそう感じるだろうな。だが、実際は紙一重だった」


 わしはホウリからオダリムの防衛の話を聞く。


「そんな強い奴らがおったのか。カスケットとかいう奴とは戦ってみたかったのう?」
「今まで戦ってきた中では一番強かっただろうな。フランなら苦戦しないだろうが」
「どのくらい強いんじゃ?」
「スキル無しのフランにダメージを通すくらいには強い」
「それはワクワクするのう」
「あいつを相手にワクワクできるのはフランだけだろうよ」


 魔国でも強い奴とは戦えたが不完全燃焼じゃ。カスケットと戦ってみたかったのう。


「くっ……そんなに強い奴がおると分かっておったらオダリムに留まっておったというのに」
「魔国でもアンシャントドラゴンと戦えたんだろ?しかも4体も」
「戦えたには戦えたんじゃがのう。街の防衛が主じゃから楽しむよりも、討伐のスピードを重視せざるおえんかったんじゃ」


 1体だけじゃったら適当に力を抜いて楽しむところなんじゃが。最後の1体まで減らしたところで、あの仕打ちはあんまりじゃ。


「その表情から察するに何か不満があったんだな?」
「そうじゃよ。あやつだけは絶対に許すつもりは無い」
「魔国への被害は無さそうで良かった」


 詳しく聞いても無駄じゃと判断したのか、ホウリが話を打ち切る。


「全部終わったんじゃから愚痴くらい聞いても良いのではないか?」
「本当に全部終わったんだったらいくらでも聞いてやるよ」
「ん?」


 ホウリの言い草に引っ掛かりを覚える。


「その言い方じゃとまだ終わっていないと聞こえるぞ?」
「現に終わっていない。まだ、倒すべきやつが残っている」
「まだ敵がおるのか」


 1カ月ほど戦いっぱなしで辟易しておったのに、まだ戦う必要があるのか。戦うだけなら楽しいが、その後の処理を考えるとげんなりする。


「で、何処のどいつじゃ?さっさとぶっ飛ばして終わらせようぞ」
「ところがそう簡単にいかない」
「どういう事じゃ?」
「まずは敵の能力について説明する。簡単に言うと、最後の敵の能力は洗脳だ」
「洗脳?」
「心当たりあるだろ?」


 洗脳に心当たり?洗脳された奴なんておったかのう?


「……あ!スミルの街で戦ったヤマタノオロチ!」
「その通りだ。あのヤマタノオロチが洗脳されていたと考えれば、動きが人間っぽかったのにも説明がつく」
「成程のう」


 そういえば、洗脳を使う奴は捕まえておらん。じゃから、ホウリはまだ終わっておらんと判断したのか。


「まずはそやつの居所から調べんとのう」
「居所は調べがついている」
「ふむ?ならば殴り込みに行けば良いのではないか?」
「短絡的すぎるだろ」
「失礼じゃな。わしは早く事を終わらせたいだけじゃ」
「本音は?」
「誰でも良いから八つ当たりしたい」
「だと思ったよ」


 ホウリの視線が冷たくなる。早期に決着が着けばなんでも良いと思うんじゃがな。


「俺だって早く終わらせられるなら、フランに暴れて貰った方が良いとは思ってる。だが、今回はただ暴れるだけじゃダメなんだよ」
「何故じゃ?」
「下手すると死人がでる可能性がでる」


 ホウリがいつにも増して真剣な表情になる。わしも面倒という感情を捨て、真剣に話を聞くと心に決めた。


「続けてくれ」
「そいつを調査したところ、身の回りの世話をしている女がいた。名前はレピス。1年前から八百屋で働いている」
「そいつも洗脳されていると?」
「ああ。レピスの様子がかなり不自然でな。ほぼ操られているのは間違いないと思っていい」
「自然に操るのは難しいということか」


 既に操っている奴がいるとなると、人質に取られる可能性もあるか。


「ならば、遠距離から不意打ちするか?それなら人質にする隙も無いじゃろ?」
「今までの情報から考えると、それが良さそうに思える。けどな、それも避けたい」
「なぜじゃ?」
「勘だよ」


 ホウリから出たとは思えん言葉に耳を疑う。


「は?勘?」
「ああ。恐らく、敵も不意打ちの可能性は考えてあるはずだ。それが何か分からないうちに攻めるのは不味い」
「ならばどうする?」
「相手の手の内を調べつつ、隙を探るしかないな」
「具体的な策は考えておるのか?」
「ああ。まずは───」


 ホウリは策を説明しだした。


「───って感じだ」
「……リスクが大きすぎる」
「確かにお前たちにも危険はある。だが、リスクを取らないと勝てる相手じゃ──」
「違う。お主が一番リスクが大きいと言っておるんじゃ」


 わしはホウリを睨みつける。そんなわしの反応も想定内だったのか、ホウリは表情一つ変えずに説明を続ける。


「大丈夫だ。死ななければどうとでもなる。この世界では四肢を欠損しても元通りになるしな」
「じゃが、死ぬ可能性もあるじゃろ?」
「前みたいに保険は用意しておく。だから、心配するな」
「……わしはな、お主だけに負担をかけるのは違うと思っておるんじゃ」


 わしの言葉にホウリが押し黙る。思えばわしの本心を言う機会は無かったか。折角じゃから言いたいだけ言ってやろう。


「お主は人よりも出来ることが多い。じゃから、わしとの戦いを任されておるわけじゃ。じゃが、それ以外にもノエルのことやオダリムの襲撃など、様々なことに手を尽くしている」


 寝る時間も1日5分と聞いておる。ホウリは問題無いような顔をしておるが、無理をしておるとしか思えん。


「そんなお主に死ぬ危険も押し付ける。わしにはそれが納得いかん」
「ありがとな」


 反論がくるかと思ったが、ホウリから出たのは感謝の言葉じゃった。


「な、なぜ礼を言う?」
「俺って普通じゃないだろ?だから、どれだけ無理をしても『ホウリだから問題ない』って言われることが多いんだよ。無理するななんて、あんまり言われないんだよ」
「じゃろうな」
「だからこそ、嬉しかったんだよ」


 そう言うと、ホウリは顔をほころばせる。あまり見たことがない優し気な笑顔じゃ。


「ありがとな。フラン」
「れ、礼は良い。無理しすぎなければそれで良い」
「けどな、これは俺が適任なんだよ」


 ホウリの表情が真剣な表情に戻る。


「誰かに変わりが務まる訳じゃない。どれだけ危険でも俺じゃないと出来ないんだ」
「……じゃろうな」


 わしが止めたところで考え直すとは思っておらんかった。こやつはそういう奴じゃ。


「分かった。ならば、もう何も言うまい」
「助かる。決行は明後日だ。準備しとけよ」
「うむ」


 こうして、わしらのオダリム戦は佳境を迎えたのじゃった。
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