魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三百五十八話 最後の弁当

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「ふぅ……ふぅ……」


 ロワが去った後、私は膝をついて体力を回復させていた。本当はロワについていきたい気持ちもあるが、歩けもしない状態で戦っても足手まといになる。今は体力の回復を優先しよう。
 回復に努めること数分、目を開けて立ち上がって軽く手足を動かす。立てるまでには回復したが、戦うのは無理だな。シン・プロフェクションガードも少しだけしか使えないだろう。


「ロワは時計台に行ったのだったな」


 時計台の方へ視線を向ける。
 なんだ?薄暗くてよく見えないが、時計台の文字盤が無くなっている?中にロワがいて何かを構えている?
 察するにあれが言っていた切札か。だが、ロワの顔は冴えない。何かアクシデントでも起こったのか?
 考えろ、何が起こっている?何か私に出来ることは無いか?


「MP不足?」


 ミントの事だ。整備不足ということは無いだろう。ならば、MPが不足している可能性が高い。
 私はカスケットを見上げる。カスケットは電撃に阻まれて動きを封じられている。あれは十中八九、ホウリとノエルの疾風迅雷だろう。だが、疾風迅雷は長時間は持たない。長くても30分ほどだった筈だ。
 ロワもそれは知っている。だからこそ、MPが溜まり切らないとロワは焦っているのではないか?


「私もMP集めに協力するべきか?……ダメだ」


 どうやってMPを集めているのか分からないが、MPを集める方法を確認して実践するには時間が足りない。それに、私が参加したくらいでは状況は変わらない筈だ。他に何か方法は無いか……


「……ん?」


 今、一瞬だけロワがこちらを見たような?何かを伝えたかったのか?


「……なるほど」


 ロワの考えがなんとなく理解できた。私は意識を集中させて両腕を伸ばす。そして、人差し指と親指で四角を作って狙いを付ける。
 あの魔道具がどのくらいの速度で攻撃できるのかは分からない。ならば、タイミングは早めの方がいいだろう。その合図を見逃さない様にしないとな。


「ふぅぅぅぅ」


 大きく息を吐いて心を落ち付ける。動きがあるまで我慢だ。
 時計台の方へと注視してタイミングを計る。
 待機していると上空の疾風迅雷が止んだのを感じた。どうやら時間切れみたいだ。
 ロワは……まだ戦意を失っていない。ならば私も共に戦おう。


「…………今だ!」


 ロワが魔道具をこちらへ向けた時を狙い、上空にシン・プロフェクションガードを出現させる。瞬間、魔道具がまばゆく光り、シン・プロフェクションガードが光弾を受け止める。
 なんだこの光弾は!?今まで受けた中で一番の威力の攻撃だぞ!?だが、これだけの攻撃を跳ね返せればカスケットも倒せるはずだ。気合で跳ね返せ!


「うおおおおおおおおおおお!」


 攻撃の威力が高いほど、跳ね返時間が長くなり、狙った所へ跳ね返すのは難しくなる。だが、私は気合でなんとか光弾をカスケットの方へと跳ね返そうと力を入れる。
 すると、時計台から青い光が放たれてカスケットの動きを止めた。今だ!


「くらえええええ!」


 光弾をカスケットの方向に向かって跳ね返す。文字通り目にも止まらぬ速さで跳ね返された光弾はカスケットへと命中し、上空へと大きく吹き飛ばしていった。


「よし、なんとか成功した……な……」


 そこまで見た私の体から力が抜けた。もはや膝を付くことも出来ず、地面へと倒れ伏す。
 どうやら、私が出来るのはここまでのようだ。


「あとは頼んだぞ……ロワ……」


 そこで私の意識は途切れたのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


【時はカスケットがオダリムへと出現した時間まで戻る】


「ノエル!疾風迅雷だ!全力で行くぞ!」
「うん!」


 俺達はカスケットの遥か上空で疾風迅雷の準備をする。結界を足場にしてゴールドウルフの捜索をしている時にカスケットが出現した。
 そして、カスケットが放ったエネルギー弾を見て、俺は全力で対処すると判断した。
 あのカスケットとかいう奴はヤバい。全力で攻撃しないと確実にオダリムが蹂躙されるだろう。
 あれほどの力を隠し持ってたか。MP発射装置でも倒しきれないぞ。俺達がギリギリまで時間を稼いで集まったMPをシン・プロフェクションガードで倍化できれば倒せるかもしれないが、かなり難しい。


「……いや、それしかないか」


 あいつらの技量なら出来るはずだ。今はあいつらを信じるしかない。
 むしろ、それで倒しきれなかった時に備えないとな。


「どうしたの?行かないの?」
「少しだけ待て」


 今は少しでも時間を稼ぐのが重要だ。今はバリアが割れてカスケットが体勢を崩している。体勢を立て直して攻撃をする瞬間に妨害した方が時間を稼げる。


「合図したら魔装を全力で使え」
「うん」


 カスケットが体勢を立て直してゆっくりと手を振り上げた。それを見計らって俺は足場にしていた結界から飛び降りる。


「今だ!」
「魔装!」


 ノエルの力が強くなったのを確認して、俺は全身に雷装を纏う。


「行くぞ!」


 足元に結界を出現させて、思いっきり蹴る。俺達の体は音速を越えてカスケットへと接近し、振り上げられている手を思いっきり蹴り飛ばす。
 手を蹴られたカスケットは体勢を少しだけ崩した。蹴った感触から察するに、炎装でもダメージは通らないな。雷装で邪魔することに専念するか。
 カスケットの周りに結界を張って、高速で移動する。カスケットは鬱陶しいのか、腕を振り回してくるが俺達に当たる事は無かった。
 速度はそこまででも無いのか。なら、妨害は成功しそうだ。問題はノエルの魔装がどこまで続くのかだ。
 ここまでの魔装の程度と時間を考えるに……あと31分41秒。シン・プロフェクションガードを使うとしてもMPを集めるのには時間が足りないな。なら、追撃も視野に入れて……
 そこまで考えながら、俺はカスケットに攻撃を加えていく。
 攻撃をすること数十分、横目で時計台へと視線を向けるとロワがカスケットへ狙いを付けているのが見えた。ミエルがいる方も見てたし、シン・プロフェクションガードを使うという発想は出ているんだろう。
 ミエルもロワの考えを察しているのかシン・プロフェクションガードを準備しているな。これなら何とかなりそうだ。
 妨害開始から30分20秒。そろそろ引くか。
 そう思った俺は結界を使ってカスケットよりも上空へと離脱する。


「はぁはぁ……」
「大丈夫か?」
「まだ、大丈夫……」


 上空へと避難した俺は結界で足場を作ってノエルを下ろす。
 ノエルは肩で息をしながら額に大汗を浮かべていた。やはり限界が近いみたいだ。ノエルが気絶すると、俺へのMPの供給も無くなるから、早めに離脱して正解だったな。
 ノエルは心配そうに結界から下を覗く。


「た、倒せたの?」
「まだだ。今はロワとミエルのコンビネーションでカスケットを攻撃しているところだ」


 俺はアイテムボックスからビー玉くらいの大きさの玉を取り出す。


「何それ?」
「俺の切札だよ」


 この爆弾にはトリシューラにも使われているブルーライトクリスタルが使われている。MPを込めるタイプの爆弾だが、込めるMPの量で爆破の威力を変えることが出来る。


「そして、込められるMPはほとんど際限がない」
「それで倒すって事?」
「直接ぶつける訳にはいかない。オダリムにも被害が出る」


 カスケットも倒せるほどの威力にすると、オダリムも無事では済まない。守るために壊すのでは意味が無い。それに、とある目的のためにも爆破で直接倒す訳にはいかない。


「じゃあどうするの?」
「ヒント、闘技大会」
「んー?あー、あれかー!」


 ノエルにはピンときたみたいだ。この会話はカスケットにも聞かれている可能性があるから直接的に話せなかったんだよな。ノエルの察しが良くて助かった。


「あと少しだけ頑張れるか?」
「うん!」


 ノエルを背負って結界からオダリムを見下ろす。そこには全身ヒビだらけのカスケットがトリシューラを受けているところだった。角度も良い感じだ。これなら草原に着地できそうだ。
 俺は爆弾にMPを込めていく。そして、MPを込め終わった爆弾を炎装を使って思いっきり上に投げつけた。


「行くぞ!最後だ!」
「うん!」


 ノエルが魔装を使い、俺は体中に炎装を纏わせる。そして、結界を消した瞬間、背後から爆風が俺達を吹き飛ばした。


『なんだ!?』


 カスケットが俺達の方を見て、回避しようとする。しかし、ダメージがデカいのか動けないようだ。
 俺は片足を突き出して飛び蹴りの構えを取る。


「セイヤアアアアアアアア!」
『ぬおおおおおおお!?』


 カスケットは辛うじて両手で防御の構えを取る。だが、ヒビの入った腕は徐々に崩壊していく。


『まだだ!俺達はこんな所で終わる訳には行かない!』


 その言葉と共にカスケットは体を輝かせる。すると、手応えが変わって固さが変わったように感じた。
 スキルで防御力を上げたか。俺たちのキックを受けきるには防御力が足りていない。


「うおおおおおおおおお!」
『はあああああああああ!』


 攻撃を受けている腕のヒビが更に大きくなっていく。このままでは砕かれるのも時間の問題だ。


『まだだ!俺が負けたら皆の未来が!』
「はあああああああああ!」


 仲間のことを考えているのか、防御力が更に上がった。だが、それでも俺達を防ぎきるには足りてい無い。


『あ、あああああああああ!?』


 もう何をしても防ぎきれないと察したのか、カスケットの叫びに絶望が混じる。同時に両腕も砕かれ胸にキックが直撃する。
 

『くそおおおおお!』
「これで終わりだ!」


 キックはカスケットの胸を蹴り砕く。
 

『うう……!』


 カスケットの体を貫通する瞬間、体内にいた人間をキャッチする。
 キャッチした後は、カスケットを蹴り砕き、そのままの勢いで草原へと向かった。
 魔物の群れでいっぱいだった草原だったが、キックの余波で多数の魔物が光の粒へと変わった。


「よっと」


 魔物をクッション代わりにして、俺は難なく草原へと着地する。炎装で燃えている所があるが、鎮火できるくらいの規模だな。


「……今度こそ終わった?」


 ノエルがフードの中から外を覗き込んでくる。


「ああ。この魔物たちもスキルが切れて逃げていくだろうよ」


 俺の言葉通り、周りにいる魔物たちは一目散に森がある方角へ逃げている。これでオダリムへの襲撃も終わりだろう。


「そっか、よかっ……た」


 その言葉を最後にノエルが俺の背中から滑り落ちた。どうやら、体力の限界らしい。
 俺は抱えていた奴を地面に置いて、ノエルを抱きかかえると頭を優しく撫でる。


「お疲れ様」


 その後、俺はノエルと助け出した奴を抱えてオダリムに戻ったのだった。
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