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第322話 決着のとき
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「はあっ!」
プリシラは全神経を集中して剣を翻す。
ガイから借り受けたそれは片刃の剣であるため普段の両刃の剣とは使い勝手が違うが、刀身の軽さからプリシラの剣撃の速度は格段に速さを増している。
腕力はチェルシーのほうが強いが、今ならば速さはプリシラに分があった。
プリシラとチェルシーの剣が激しくぶつかり合い、夜の闇の中に火花が舞い散る。
手数はプリシラが多いが、一撃の押し込む力はチェルシーの方が強く、ジリジリと下がるのはプリシラだ。
だがプリシラは巧みに足を使ってすばやくチェルシーの側面に回り込み、攻撃を続けることでチェルシーに主導権を渡さない。
一進一退の戦いが続く。
しかしやはり運動量の多いプリシラの方が先に息が上がってきた。
それでもプリシラは動くことをやめない。
おそらくもう数分も立たずに決着がつくとプリシラは読んでいるのだ。
もう先のことは考えずに今すべての力を出し切るしか勝機はない。
(チェルシー。やっぱりあなたは強い。あなたとの差は簡単には埋まらない。でもほんの一瞬だけでも、あなたを上回ってみせる)
さらにプリシラの動きは速くなる。
もうプリシラ自身、限界まで速度を速めながら動いているため、足腰が悲鳴を上げる。
酸素を求めて肺が喚き立てる。
それでもプリシラは動き続けた。
限界を超えようとさらに速度を速めた。
それはほとんど人間の運動能力を凌駕するほどの超人的な動きだ。
さすがにチェルシーの顔が歪む。
「くっ! こ、このっ……」
チェルシーはプリシラの見慣れぬ剣筋とこれまでで一番の速さに対処し切れず、苦戦を強いられる。
彼女はひたすら守ることしか出来なくなっていた。
そしてとうとうプリシラの剣の速さに耐え切れなくなり、チェルシーは自身の剣をプリシラに叩き落とされてしまう。
「し、しまっ……」
「はあっ!」
プリシラはチェルシーの首に渾身の一撃を叩き込むべく猛然と剣を振るおうとした。
だが……その直前だった。
「ぐっ……」
プリシラは突如としてガクッと体勢を崩して地面に右膝を着いてしまったのだ。
(あ、足が……)
プリシラの右足に激痛が走り、痙攣を起こしている。
激しい痛みにプリシラは顔を歪め、立ち上がれなくなってしまった。
それを見たチェルシーはすぐさま落ちた剣を拾い上げる。
「肉離れね! それがあなたの限界よ! プリシラ!」
そう吐き捨てるとチェルシーは殺気を込めて鋭く突きを繰り出した。
渾身の一撃だ。
戦いを見守る周囲の者たちもプリシラが殺されると思い、たまらずに大きな声を上げる。
そしてプリシラ自身も……これで自分が死んだと思った。
だが……剣の切っ先がプリシラの喉に突き刺さる寸前、プリシラの体は宙を舞い、チェルシーの頭上を飛び越えていたのだ。
それは今まで見たことのないほどの超反応だった。
(えっ……)
プリシラ自身も驚くようなほとんど無意識の反応だ。
生命の危機を感じた彼女の生存本能が、その体を突き動かしていた。
残された左足だけでプリシラは信じられない力を見せ、チェルシーの突きよりも速く一瞬で飛び上がったのだ。
チェルシーはいきなり目の前からプリシラが消えたように感じたのだろう。
驚愕に目を見開いている。
プリシラは空中で身を翻してそんなチェルシーの背後に着地すると、相手が振り返る間もないほど速く剣を斜め上段から振り下ろした。
プリシラの振り下ろした剣はチェルシーの首の後ろから背中にかけてを斬り裂く。
「かはっ……」
背後からの強烈な一撃を受けてチェルシーは苦しげに声を漏らし、そのまま前のめりに倒れ込むと動かなくなった。
プリシラは荒い息をつきながら、その場にへたり込んでしまう。
もう右足は動かせない。
体力も限界だった。
「き……斬った……」
戦いの行方を見守っていたエミルが息を飲み、そう言葉を漏らす。
斬られたチェルシーはピクリとも動かない。
だがエミルの隣でガイは目を凝らした。
彼の目はプリシラがチェルシーを斬る瞬間を捉えていたのだ。
「いや……」
彼らの見守る先でプリシラはすぐに動き出し、腰袋から縄を取り出した。
彼女はそれでチェルシーの両手両足をきつく縛り上げていく。
その様子にエミルはハッとしてガイを見上げた。
ガイは頷いて短く言う。
「……殺してはいない」
プリシラはチェルシーの両手両足を縛り終えると、その背中をグッと手で押した。
すると……死んだように動かなかったチェルシーが息を吐き出したのだ。
「くはっ……うぅ……」
うつ伏せに倒れたままチェルシーは弱々しく目を開けると、苦しげに喘いだ。
プリシラにチェルシーが斬られる瞬間を固唾を飲んで見守っていたクローディアとブライズは大きく目を見張る。
2人はガイと同じくプリシラの最後の一撃をしっかりとその目にしていたのだ。
クローディアは口元に手を当て、その目に涙を滲ませながら声を漏らした。
「プリシラ……あの子……」
「ああ。見事なもんだ。自分が死なず、相手も殺さずに勝負に勝った。あれこそ女王の戦いぶりだぜ」
感嘆するクローディアとブライズの視線の先で、プリシラはチェルシーの体を離して石床に横たえると、手にしたガイの剣をじっと見つめる。
そしてガイに目を向け、感謝の眼差しで剣を掲げた。
(この剣のおかげでチェルシーに勝てた。彼女を殺さずに……済んだ。ありがとう。ガイ)
あの瞬間、チェルシーの背後を取り、剣を振り下ろすその刹那、プリシラは刃を返したのだ。
それにより鋭利な刃ではなく、斬れない峰の部分でチェルシーの背中を打った。
そのため斬られたかと思われたチェルシーの背中は、一滴たりとも血を流してはいない。
片刃の剣だからこそ出来た芸当だった。
もちろん剣は鉄拵えであり、プリシラの力でそれを振るえばとてつもない衝撃が走る。
そのためチェルシーの防具の背中部分は砕けて凹んでいた。
そしてチェルシー自身も立ち上がれないほどの痛手を負い、勝負は……決着を迎えたのだ。
プリシラの勝利だった。
「チェルシー。あなたは死ぬべきじゃない。生きることから逃げないで。戦士の誇りからも、自分がやってきたことからも、そして……クローディアからも逃げては駄目よ。もう一度……やり直せるわ。きっと。だから……生きてやり直しなさい」
プリシラは横たわるチェルシーの背中に、凛とした声で厳然とそう声をかけた。
その言葉はチェルシーにとってはこれまでの生き方を、復讐の道を否定する非情なものだ。
チェルシーにとって今後も辛い人生を強いることになる。
それでもプリシラはそう言った。
そうする以外にチェルシーが再び光の差す道を歩める方法がないからだ。
(はぁ……疲れた)
全身を重い疲労が包み込んでいる。
緊張感から解き放たれたことで、今になって体のあちこちが痛んだ。
プリシラはたまらずに座り込む。
右足が赤く腫れ上がっていて、内出血を起こしていた。
(多分……筋肉が切れている。チェルシーの言った通り、肉離れね)
これ以上はもう戦うどころか、満足に歩くことも出来ないだろう。
だがプリシラが顔を上げると、いつの間にかバルコニーには2人の女性が降りて来ていた。
また敵かとプリシラは息を飲んだが、それは修道服姿の赤毛の女と、黒髪の少女だ。
彼女たちはクローディアらを迎えに来た王妃ジェラルディーンの使いの者たちであった。
プリシラは全神経を集中して剣を翻す。
ガイから借り受けたそれは片刃の剣であるため普段の両刃の剣とは使い勝手が違うが、刀身の軽さからプリシラの剣撃の速度は格段に速さを増している。
腕力はチェルシーのほうが強いが、今ならば速さはプリシラに分があった。
プリシラとチェルシーの剣が激しくぶつかり合い、夜の闇の中に火花が舞い散る。
手数はプリシラが多いが、一撃の押し込む力はチェルシーの方が強く、ジリジリと下がるのはプリシラだ。
だがプリシラは巧みに足を使ってすばやくチェルシーの側面に回り込み、攻撃を続けることでチェルシーに主導権を渡さない。
一進一退の戦いが続く。
しかしやはり運動量の多いプリシラの方が先に息が上がってきた。
それでもプリシラは動くことをやめない。
おそらくもう数分も立たずに決着がつくとプリシラは読んでいるのだ。
もう先のことは考えずに今すべての力を出し切るしか勝機はない。
(チェルシー。やっぱりあなたは強い。あなたとの差は簡単には埋まらない。でもほんの一瞬だけでも、あなたを上回ってみせる)
さらにプリシラの動きは速くなる。
もうプリシラ自身、限界まで速度を速めながら動いているため、足腰が悲鳴を上げる。
酸素を求めて肺が喚き立てる。
それでもプリシラは動き続けた。
限界を超えようとさらに速度を速めた。
それはほとんど人間の運動能力を凌駕するほどの超人的な動きだ。
さすがにチェルシーの顔が歪む。
「くっ! こ、このっ……」
チェルシーはプリシラの見慣れぬ剣筋とこれまでで一番の速さに対処し切れず、苦戦を強いられる。
彼女はひたすら守ることしか出来なくなっていた。
そしてとうとうプリシラの剣の速さに耐え切れなくなり、チェルシーは自身の剣をプリシラに叩き落とされてしまう。
「し、しまっ……」
「はあっ!」
プリシラはチェルシーの首に渾身の一撃を叩き込むべく猛然と剣を振るおうとした。
だが……その直前だった。
「ぐっ……」
プリシラは突如としてガクッと体勢を崩して地面に右膝を着いてしまったのだ。
(あ、足が……)
プリシラの右足に激痛が走り、痙攣を起こしている。
激しい痛みにプリシラは顔を歪め、立ち上がれなくなってしまった。
それを見たチェルシーはすぐさま落ちた剣を拾い上げる。
「肉離れね! それがあなたの限界よ! プリシラ!」
そう吐き捨てるとチェルシーは殺気を込めて鋭く突きを繰り出した。
渾身の一撃だ。
戦いを見守る周囲の者たちもプリシラが殺されると思い、たまらずに大きな声を上げる。
そしてプリシラ自身も……これで自分が死んだと思った。
だが……剣の切っ先がプリシラの喉に突き刺さる寸前、プリシラの体は宙を舞い、チェルシーの頭上を飛び越えていたのだ。
それは今まで見たことのないほどの超反応だった。
(えっ……)
プリシラ自身も驚くようなほとんど無意識の反応だ。
生命の危機を感じた彼女の生存本能が、その体を突き動かしていた。
残された左足だけでプリシラは信じられない力を見せ、チェルシーの突きよりも速く一瞬で飛び上がったのだ。
チェルシーはいきなり目の前からプリシラが消えたように感じたのだろう。
驚愕に目を見開いている。
プリシラは空中で身を翻してそんなチェルシーの背後に着地すると、相手が振り返る間もないほど速く剣を斜め上段から振り下ろした。
プリシラの振り下ろした剣はチェルシーの首の後ろから背中にかけてを斬り裂く。
「かはっ……」
背後からの強烈な一撃を受けてチェルシーは苦しげに声を漏らし、そのまま前のめりに倒れ込むと動かなくなった。
プリシラは荒い息をつきながら、その場にへたり込んでしまう。
もう右足は動かせない。
体力も限界だった。
「き……斬った……」
戦いの行方を見守っていたエミルが息を飲み、そう言葉を漏らす。
斬られたチェルシーはピクリとも動かない。
だがエミルの隣でガイは目を凝らした。
彼の目はプリシラがチェルシーを斬る瞬間を捉えていたのだ。
「いや……」
彼らの見守る先でプリシラはすぐに動き出し、腰袋から縄を取り出した。
彼女はそれでチェルシーの両手両足をきつく縛り上げていく。
その様子にエミルはハッとしてガイを見上げた。
ガイは頷いて短く言う。
「……殺してはいない」
プリシラはチェルシーの両手両足を縛り終えると、その背中をグッと手で押した。
すると……死んだように動かなかったチェルシーが息を吐き出したのだ。
「くはっ……うぅ……」
うつ伏せに倒れたままチェルシーは弱々しく目を開けると、苦しげに喘いだ。
プリシラにチェルシーが斬られる瞬間を固唾を飲んで見守っていたクローディアとブライズは大きく目を見張る。
2人はガイと同じくプリシラの最後の一撃をしっかりとその目にしていたのだ。
クローディアは口元に手を当て、その目に涙を滲ませながら声を漏らした。
「プリシラ……あの子……」
「ああ。見事なもんだ。自分が死なず、相手も殺さずに勝負に勝った。あれこそ女王の戦いぶりだぜ」
感嘆するクローディアとブライズの視線の先で、プリシラはチェルシーの体を離して石床に横たえると、手にしたガイの剣をじっと見つめる。
そしてガイに目を向け、感謝の眼差しで剣を掲げた。
(この剣のおかげでチェルシーに勝てた。彼女を殺さずに……済んだ。ありがとう。ガイ)
あの瞬間、チェルシーの背後を取り、剣を振り下ろすその刹那、プリシラは刃を返したのだ。
それにより鋭利な刃ではなく、斬れない峰の部分でチェルシーの背中を打った。
そのため斬られたかと思われたチェルシーの背中は、一滴たりとも血を流してはいない。
片刃の剣だからこそ出来た芸当だった。
もちろん剣は鉄拵えであり、プリシラの力でそれを振るえばとてつもない衝撃が走る。
そのためチェルシーの防具の背中部分は砕けて凹んでいた。
そしてチェルシー自身も立ち上がれないほどの痛手を負い、勝負は……決着を迎えたのだ。
プリシラの勝利だった。
「チェルシー。あなたは死ぬべきじゃない。生きることから逃げないで。戦士の誇りからも、自分がやってきたことからも、そして……クローディアからも逃げては駄目よ。もう一度……やり直せるわ。きっと。だから……生きてやり直しなさい」
プリシラは横たわるチェルシーの背中に、凛とした声で厳然とそう声をかけた。
その言葉はチェルシーにとってはこれまでの生き方を、復讐の道を否定する非情なものだ。
チェルシーにとって今後も辛い人生を強いることになる。
それでもプリシラはそう言った。
そうする以外にチェルシーが再び光の差す道を歩める方法がないからだ。
(はぁ……疲れた)
全身を重い疲労が包み込んでいる。
緊張感から解き放たれたことで、今になって体のあちこちが痛んだ。
プリシラはたまらずに座り込む。
右足が赤く腫れ上がっていて、内出血を起こしていた。
(多分……筋肉が切れている。チェルシーの言った通り、肉離れね)
これ以上はもう戦うどころか、満足に歩くことも出来ないだろう。
だがプリシラが顔を上げると、いつの間にかバルコニーには2人の女性が降りて来ていた。
また敵かとプリシラは息を飲んだが、それは修道服姿の赤毛の女と、黒髪の少女だ。
彼女たちはクローディアらを迎えに来た王妃ジェラルディーンの使いの者たちであった。
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