蛮族女王の娘《プリンセス》 第3部【王国編】(完結編)

枕崎 純之助

文字の大きさ
121 / 129

第321話 命の危機

しおりを挟む
 ガイはプリシラの戦いぶりを静かに見つめていた。
 プリシラとの短い旅路たびじの間に、彼女の特訓に一度だけ付き合った。
 その時は彼の剣技を見様見真似みようみまねでやっているだけの彼女だったが、その後おそらく1人で練習したのだろう。
 プリシラの動きはかなり良くなっていた。

(だいぶ様になってきたな。対した戦闘感覚だ)

 自身の剣を他人に貸すなど初めてのことだったが、プリシラ以外にチェルシーの相手が務まる者は今ここにいない。
 シジマに右肩を銃撃されて負傷している現在はもちろん、五体満足の状態だったとしてもガイではチェルシーの相手をすることは出来ないだろう。
 やはりダニアの女王の血筋につらなる者たちは別格だ。

(プリシラ。勝て。勝って弟と共に故郷に戻れ)

 これからのダニアや共和国にとってプリシラはなくてはならない人物だと、短い付き合いの中で感じ取っていたガイは、彼女の勝利をいのりながらその戦いの行方ゆくえを見守るのだった。

 ☆☆☆☆☆☆

「ショーナ様が……」

 ヤブランは青ざめた表情でそう声をらす。
 プリシラとチェルシーの戦いを遠目に見ながら彼女は、少し離れたところに黒髪の女性が倒れているのを見たのだ。
 夜のやみの中で篝火かがりびに照らし出されたそれはショーナだった。
 彼女のそばには銀髪の女性が付いている。
 そしてヤブランのすぐ背後に立つジュードも、深刻な表情でショーナの姿を見つめていた。

(ショーナ。先ほどから君の気配が感じられないと思ったけれど……)

 気を失っているのか……あるいは考えたくないが死んでしまっているのか。
 ジュードは張り詰めた表情で仲間たちに声をかける。

「あちら側に移ろう。ショーナの様子が心配だ」

 そう言うジュードにヤブランはおどろきの表情を浮かべる。

「ショーナ様をご存知なのですか?」
「ああ。古い友人で……俺の恩人だ」

 そう言うとジュードはエミルとガイに目を向けた。
 2人ともうなづき、4人はプリシラとチェルシーの戦いに巻き込まれぬよう慎重にバルコニーのはしを移動してショーナの元へ向かう。
 途中でガイは落ちている1本の剣をそれがクローディアの物だとは知らずに拾い上げた。
 仮にプリシラが敗れてチェルシーがエミルを捕えようと向かってきたとしても、エミルを逃がす時間かせぎくらいなら出来ると考えてのことだ。

 そして4人はショーナの元に辿たどり着き、そこで力なく横たわる彼女の姿にハッと息を飲む。
 ショーナのすぐそばの石床は血で赤くれていた。
 そして銀髪の女が赤く染まった手拭てぬぐいでショーナの胸を押さえている。
 その銀髪の女性を見てエミルが声を上げた。

「ブライズさん!」
「よう。エミル。無事で何よりだ。他の連中はお仲間か? 悪いがこの黒髪女の手当てを手伝ってくれ。銃で撃たれて虫の息なんだ」

 そう言うブライズがその手に持ってショーナの傷口を押さえている手拭てぬぐいは、もう完全に血を吸って赤く染め上げられている。
 ヤブランとジュードはすぐにショーナの元へ駆け寄った。
 そして腰袋こしぶくろの中からそれぞれ新しい手拭てぬぐいを取り出し、ブライズと交代してショーナの傷口を押さえる。
 ショーナの顔は血の気を失って真っ白になっていた。
 ジュードはあせりを覚える。

(まずい……出血量が多い。とにかく血を止めないと)

 ジュードはヤブランに指示をして傷口に何重にも布を当て、手拭てぬぐいをきつくショーナの体に巻き付けた。

「布が足りない。持っている布を全部出してくれ」

 ジュードの言葉にヤブラン、ガイ、ブライズの3人は腰袋こしぶくろの中にある布類を全部ジュードに手渡した。
 荷物を持っていないエミルもそでを破り取って渡す。

(医師のいるところに連れて行きたいが、血が止まらないうちは下手に動かせない。ショーナの体力頼みか)

 ジュードとヤブランがショーナに付き添い、ガイはエミルを守って周囲を警戒している。
 その様子を見て自分に出来ることはないと悟ったブライズは言った。

「ここは任せた。ワタシはクローディアの元に行く。エミルのことを頼んだぞ」

 そう言うとブライズは鉄棍てっこんを手に立ち上がり、小走りにクローディアの元へ向かって行った。
 ジュードは黒髪術者ダークネスの力を用いてショーナの意識に呼びかける。

【ショーナ……ショーナ……戻ってこい。君が死んだらチェルシーはどうなる? 彼女を置いてくな。戻ってこい。ショーナ】

 ショーナからの反応はない。
 ジュードは彼女の生還を神にいのりながら必死に傷口を押さえ続けるのだった。

 ☆☆☆☆☆☆

 プリシラはこの好機をのがすまいと打って出る。
 不規則な攻撃にチェルシーは戸惑いながら懸命けんめいに応戦していた。
 ガイの剣は通常の長剣と比べると細身で軽いため、一太刀ひとたちからひるがえって次の一太刀ひとたちを繰り出すまでの間隔かんかくが短くて済む。
 プリシラが自慢の筋力でこれを使うと、その速さはより冴え渡ってチェルシーを苦しめた。

 そしてチェルシーの動きがにぶくなっているのをプリシラは感じ取る。
 未知の剣技に戸惑っているのみならず、チェルシーの表情は明らかにくもっていた。
 そこには迷いの色がにじんでいる。

(チェルシー……あなたは本当にクローディアをその手にかけたいの?)

 血を分けた実の姉を斬ろうとするその鬼のような心がプリシラには理解できない。
 先ほどエミルが敵となり襲ってきた時も、プリシラは弟を斬ることなど微塵みじんも考えられなかった。
 だがチェルシーの場合は自分とは事情が異なることもプリシラは理解している。
 ずっと離れ離れになっていたせいで、さびしく不幸な人生をいられたチェルシー。
 プリシラはそんな彼女の半生に思いをせる。

 うらむことでしか、憎むことでしか自分に生きる力を与えられなかったのだと思うと、プリシラはチェルシーをあわれに思った。
 だがその不幸を周りに伝播でんぱさせるようなチェルシーの生き方は誰も幸せにしない。
 チェルシー自身をも不幸にする破滅の道なのだ。
 プリシラは剣を振るう手を止めて息を整えながらチェルシーを見つめた。

「打ってきなさい。チェルシー。あなたの剣が復讐ふくしゅうのためにみがかれた剣ならば、それはアタシにぶつければいい。アタシが全部受け止める」
「……何ですって?」
「アタシの剣は一族を守るためにみがいてきた。あなたの復讐ふくしゅう心が強いか、皆を守りたいアタシの心が強いか、今ここで決着をつけようじゃないの」

 プリシラの言葉にチェルシーは静かに息を吐く。

「……そうね。あなたをねじせてクローディアを斬って全ては終わり。もう決着にしましょう。しつこいあなたとの戦いもいい加減うんざりだわ」
 
 そう言うとチェルシーは復讐ふくしゅうの刃をプリシラに向け、プリシラはそれを堂々と受けて立つのだった。

 ☆☆☆☆☆☆

「クローディア。大丈夫か?」

 ブライズはクローディアの元に駆け寄る。
 クローディアの胴に巻かれた手拭てぬぐいは、銃撃を受けた脇腹部分が赤く染まっていた。
 痛みが増しているようで、そのひたいには脂汗あぶらあせが浮かんでいる。

 ブライズは自分の袖口そでぐちを破り、それでクローディアのひたいあせぬぐってやった。
 今は他にしてやれることがない。
 クローディアの視線の先ではプリシラとチェルシーがそれぞれの剣を手に対峙たいじしている。

「あの2人を……止めないと」

 そう言って立ち上がろうとするクローディアの両腕をつかんでブライズは引き止めた。

「無理だ。今のおまえに出来るのは見守ることだけだ」
「でもブライズ……」
「よく見ろ。プリシラの姿を」

 ブライズの言葉にクローディアはプリシラの背中に目を向けた。

「あいつは命をかけておまえを守ろうとしている。誰かのために剣を振るう女の背中になっているだろう? 跳ねっ返りのじゃじゃ馬だった小娘が随分ずいぶん成長したもんだよ」

 ブライズの言う通り、プリシラの背中には若干じゃっかん13歳とは思えぬ覚悟と風格がただよっている。
 戦場で見慣れたブリジットの背中のようだとクローディアは思った。
 共に並び立つその姿を見るだけで勇気と安堵あんどをもらえる唯一無二の戦友。
 今、プリシラの背中には確かにブリジットゆずりの女王の雰囲気ふんいきが感じられた。

「……やっぱりブリジットの娘ね」
「ああ。あいつは今、女王になるための道を着実に進んでいる。プリシラを信じよう。もうこれからはあいつらの時代だ」
「……そうね。もうワタシたちの出る幕ではないのかもしれないわね」

 クローディアはそう言うと神に……いや、亡き母にいのった。

(母様……親不孝な娘でごめんなさい。いつかあの世に行ったらたくさん親孝行させてね。だから…‥今はあの2人を守ってあげて。お願いします)

 切なるいのりを胸にクローディアは未来ある若き2人の無事を心から願うのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

【リクエスト作品】邪神のしもべ  異世界での守護神に邪神を選びました…だって俺には凄く気高く綺麗に見えたから!

石のやっさん
ファンタジー
主人公の黒木瞳(男)は小さい頃に事故に遭い精神障害をおこす。 その障害は『美醜逆転』ではなく『美恐逆転』という物。 一般人から見て恐怖するものや、悍ましいものが美しく見え、美しいものが醜く見えるという物だった。 幼い頃には通院をしていたが、結局それは治らず…今では周りに言わずに、1人で抱えて生活していた。 そんな辛い日々の中教室が光り輝き、クラス全員が異世界転移に巻き込まれた。 白い空間に声が流れる。 『我が名はティオス…別世界に置いて創造神と呼ばれる存在である。お前達は、異世界ブリエールの者の召喚呪文によって呼ばれた者である』 話を聞けば、異世界に召喚された俺達に神々が祝福をくれると言う。 幾つもの神を見ていくなか、黒木は、誰もが近寄りさえしない女神に目がいった。 金髪の美しくまるで誰も彼女の魅力には敵わない。 そう言い切れるほど美しい存在… 彼女こそが邪神エグソーダス。 災いと不幸をもたらす女神だった。 今回の作品は『邪神』『美醜逆転』その二つのリクエストから書き始めました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

処理中です...