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特別なコイン
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どんどん濃くなってくる、アルロード様の香り。
発情期前には気にならなかったその濃厚な香りに、オレは震撼した。
「心配していたんだよ。元気な顔を見ることができて良かった」
やめて、喋らないで。
顔を見た時は平気だったのに。
艶があって心地いい声も、優しくてとろけるような甘やかな香りも、オレの脳みそを直撃してくる。ともすれば発情期の間脳内を占めていたあの妄想を思い出して赤くなってしまいそうな心を叱咤して、オレは口を開いた。
あの時みたいにオレを心配する言葉を聞き続けてしまうのはヤバい。
とにかく、なんかこう健全な話題にしなければ!
「あの! アルロード様、今日も凄かったですね! あんなに強そうな人の剣を一撃で弾き飛ばすだなんて。オレもう感激しちゃって」
「ありがとう。見ててくれたんだね」
苦肉の策で今日一番の推しポイントを本人に言ってみたら、思いの外嬉しそうに微笑んでくれた。
……アルロード様の照れ笑顔、最高に可愛い!
「けれど実はそう難しい事をしているわけではなくて、コツさえ掴めば意外と簡単なんだよ」
「簡単とか言うのはアルロード様くらいですって」
そう言ってドルフが苦笑する。対するアルロード様もなんとなくくだけた感じで、なんだか以前よりもお互いの間に流れる空気が軽い。
オレが休んでいる間に仲良くなったのかな? と思うと嬉しいような寂しいような、ちょっと微妙な気持ちになった。
「いや、本当に。力で押しても剣はなかなか飛ばないんだけれど、実は回転をかけてあげるといいんだよ」
「回転?」
「そう。でも危険な技であるのに変わりはないから、無理して真似したりしない方がいいと思うけれどね。二人とも、そんな事をしなくても充分に強いだろう」
「えっ」
「なぜそんなに驚いた顔をするんだい? 時々合同演習で一緒になるだろう? その時に見たけれど、二人ともかなり実力があると思う」
「いや、Aクラスのアルロード様に言われても」
そう言いつつもドルフだって嬉しそうだ。
「別に世辞を言っているわけではないよ。基礎も怠っていないと感じられるくらい体幹もしっかりしていて剣の速度も速い。ドルフは剣に重みがあるし、ルキノはスピードで相手を翻弄するタイプだろう? スタミナもあるし、二人ともAクラスでもおかしくない実力だと思う」
「……!!!」
声が出なかった。
まさか、まさかアルロード様からそんな風に言ってもらえるだなんて。
騎士科のトップ、天才と名高いアルロード様が、こんな、ちゃんとオレとドルフをしっかりと見て個性まで把握して評価してくれていたという事実が嬉しくて思わず顔がにやけてしまう。
「……っす」
さすがにドルフもかなり嬉しかったらしい。照れた時の「ありがとうございます」の短縮形「……っす」がその口から漏れた。
けれどさすがにアルロード様は分からなかったようで、小首を傾げている。
「アルロード様にそういっていただけて、オレ、すごい嬉しいです! ドルフも嬉しかったみたいで、ありがとうございます、って言ったみたいですね」
「あ、あれはそういう……」
「通訳すんな」
ドルフが若干恥ずかしそうにツッコミを入れるから、オレ達は楽しく笑いながら昼食を終えることができたのだった。
良かった。アルロード様と普通に食事できた。これならこれからも、アルロード様と一緒にいられるだろう。
そう、安心してたってのに。
「ルキノ!」
教室へ戻りかけたオレを、アルロード様が追いかけてきた。
「身体はもう平気なのか?」
「アルロード様……」
「ごめん、どうしても気になって」
ほんと、なんでこんなに優しいんだろう。
嬉しいのに、さっきよりもさらに濃く香ってくるアルロード様の匂いに無条件にドキドキしてしまう自分が悲しくて、めちゃくちゃ複雑な気持ちになってしまう。
「大丈夫です。本当にもう全然平気なんで」
「そうか、良かった」
オレの複雑な心境なんて知るよしもないアルロード様は、ホッとしたように笑って、そしてハッとしたようにポケットから何かを取り出してオレに手渡してくれる。
「これ、貰ってくれるかな」
「? なんですか、これ」
シックな革の……コインケースだろうか、小さいけれど格好良い革細工はとても上質そうで、手触りも抜群だ。
「中にね、特別なコインが入っているんだけど」
「あ、確かに……ていうか、この紋章」
剣とドラゴンのかっこいい紋章。これは確かアルロード様のヴァッサレア公爵家の紋章の筈。
「うん、うちの紋章だね。このコインはね、うちの家族から家の出入りを許された証なんだ。だからこのコインを持っていれば、いつでも邸の門を通して貰える」
「えっ」
「困ったことがあったら、いつでも尋ねて欲しい」
「……!」
言いながら、アルロード様は「ああ、時間だ」と踵を返す。
「あっアルロード様!」
「できれば持ち歩いて、失くさないでくれ!」
振り返ってそれだけ叫んでから、アルロード様はあっという間に走って行ってしまった。
手の中には小さくて格好良い革細工のコインケース。
どうしよう、すごい物を貰ってしまった。
呆然としているオレの耳に予鈴の音が響いて、オレも慌てて走り出す。
なんだか手の中が熱いような気がした。
発情期前には気にならなかったその濃厚な香りに、オレは震撼した。
「心配していたんだよ。元気な顔を見ることができて良かった」
やめて、喋らないで。
顔を見た時は平気だったのに。
艶があって心地いい声も、優しくてとろけるような甘やかな香りも、オレの脳みそを直撃してくる。ともすれば発情期の間脳内を占めていたあの妄想を思い出して赤くなってしまいそうな心を叱咤して、オレは口を開いた。
あの時みたいにオレを心配する言葉を聞き続けてしまうのはヤバい。
とにかく、なんかこう健全な話題にしなければ!
「あの! アルロード様、今日も凄かったですね! あんなに強そうな人の剣を一撃で弾き飛ばすだなんて。オレもう感激しちゃって」
「ありがとう。見ててくれたんだね」
苦肉の策で今日一番の推しポイントを本人に言ってみたら、思いの外嬉しそうに微笑んでくれた。
……アルロード様の照れ笑顔、最高に可愛い!
「けれど実はそう難しい事をしているわけではなくて、コツさえ掴めば意外と簡単なんだよ」
「簡単とか言うのはアルロード様くらいですって」
そう言ってドルフが苦笑する。対するアルロード様もなんとなくくだけた感じで、なんだか以前よりもお互いの間に流れる空気が軽い。
オレが休んでいる間に仲良くなったのかな? と思うと嬉しいような寂しいような、ちょっと微妙な気持ちになった。
「いや、本当に。力で押しても剣はなかなか飛ばないんだけれど、実は回転をかけてあげるといいんだよ」
「回転?」
「そう。でも危険な技であるのに変わりはないから、無理して真似したりしない方がいいと思うけれどね。二人とも、そんな事をしなくても充分に強いだろう」
「えっ」
「なぜそんなに驚いた顔をするんだい? 時々合同演習で一緒になるだろう? その時に見たけれど、二人ともかなり実力があると思う」
「いや、Aクラスのアルロード様に言われても」
そう言いつつもドルフだって嬉しそうだ。
「別に世辞を言っているわけではないよ。基礎も怠っていないと感じられるくらい体幹もしっかりしていて剣の速度も速い。ドルフは剣に重みがあるし、ルキノはスピードで相手を翻弄するタイプだろう? スタミナもあるし、二人ともAクラスでもおかしくない実力だと思う」
「……!!!」
声が出なかった。
まさか、まさかアルロード様からそんな風に言ってもらえるだなんて。
騎士科のトップ、天才と名高いアルロード様が、こんな、ちゃんとオレとドルフをしっかりと見て個性まで把握して評価してくれていたという事実が嬉しくて思わず顔がにやけてしまう。
「……っす」
さすがにドルフもかなり嬉しかったらしい。照れた時の「ありがとうございます」の短縮形「……っす」がその口から漏れた。
けれどさすがにアルロード様は分からなかったようで、小首を傾げている。
「アルロード様にそういっていただけて、オレ、すごい嬉しいです! ドルフも嬉しかったみたいで、ありがとうございます、って言ったみたいですね」
「あ、あれはそういう……」
「通訳すんな」
ドルフが若干恥ずかしそうにツッコミを入れるから、オレ達は楽しく笑いながら昼食を終えることができたのだった。
良かった。アルロード様と普通に食事できた。これならこれからも、アルロード様と一緒にいられるだろう。
そう、安心してたってのに。
「ルキノ!」
教室へ戻りかけたオレを、アルロード様が追いかけてきた。
「身体はもう平気なのか?」
「アルロード様……」
「ごめん、どうしても気になって」
ほんと、なんでこんなに優しいんだろう。
嬉しいのに、さっきよりもさらに濃く香ってくるアルロード様の匂いに無条件にドキドキしてしまう自分が悲しくて、めちゃくちゃ複雑な気持ちになってしまう。
「大丈夫です。本当にもう全然平気なんで」
「そうか、良かった」
オレの複雑な心境なんて知るよしもないアルロード様は、ホッとしたように笑って、そしてハッとしたようにポケットから何かを取り出してオレに手渡してくれる。
「これ、貰ってくれるかな」
「? なんですか、これ」
シックな革の……コインケースだろうか、小さいけれど格好良い革細工はとても上質そうで、手触りも抜群だ。
「中にね、特別なコインが入っているんだけど」
「あ、確かに……ていうか、この紋章」
剣とドラゴンのかっこいい紋章。これは確かアルロード様のヴァッサレア公爵家の紋章の筈。
「うん、うちの紋章だね。このコインはね、うちの家族から家の出入りを許された証なんだ。だからこのコインを持っていれば、いつでも邸の門を通して貰える」
「えっ」
「困ったことがあったら、いつでも尋ねて欲しい」
「……!」
言いながら、アルロード様は「ああ、時間だ」と踵を返す。
「あっアルロード様!」
「できれば持ち歩いて、失くさないでくれ!」
振り返ってそれだけ叫んでから、アルロード様はあっという間に走って行ってしまった。
手の中には小さくて格好良い革細工のコインケース。
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呆然としているオレの耳に予鈴の音が響いて、オレも慌てて走り出す。
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