忘れられない思い

プレゼント⑷

   ボクの誕生日当日は、ちょうど土曜日で朝からいいお天気になった。先生にはプレゼントはレンタカーを借りて、ドライブしたいと言っていた。「それは、プレゼントになるのか」って言われたから、その日一日ボクの我儘聞いてくださいと付け加えた。


「で、今日はどこに行きたいんだ？専属の運転手になるよ」

「あはっ、はい、お願いします。あ、でも疲れたら運転は代わりますからね。場所はナビに入れておきました。その通りに走ってください」

「なんだ。行き先は教えてくれないのか？」

「ふふっ。お楽しみです」



   1時間程、車を走らせて隣町まで行くと一気に緑色の景色が増えて、そこにある水族館に着いた。

「最初の目的地は水族館だったのか」

「はい。運転ありがとうございます。ここは少し小さめの水族館でけっこう穴場なんですよ」


   水族館の中は、土曜日であるにも関わらず人はまばらだった。イルカやペンギンなどの人気者はいないが、イワシやクラゲの巨大水槽があったり、まったりと過ごすには、最適で、少し遠いが気分が落ち込んだ時など癒しを求めて何度か来たことがあった。


「先生、手を繋いでいいですか？」


   先生は周りの目をひどく気にするから、外でスキンシップする事はまずない。だけど、この水族館特有の薄暗い環境と人の少なさと、そしてボクの誕生日ということで、ちょっと我儘を言ってみる。

   先生はちょっと困った顔をしたけど、ボクの方へ手を差し出してくれた。
   差し出された手は嬉しかったけど、無理やりさせてしまったかと、先生の手を取ることに躊躇する。


「いや……じゃないですか？」

「なんだよ。自分から言っておいて。ほら」


   ボクの途中まで出し掛けた手を掴まれて、先生の方へ引っ張られた。


「あ、ありがとうございます」

「よし。今日は、とことん真野の誕生日を楽しもう」