忘れられない思い

yoyo

文字の大きさ
52 / 95

プレゼント⑶

しおりを挟む
   デパートの催事場の一角に、映画のセル画や本の表紙絵、扉絵で使われた原画が展示されている。2ヶ月ほど前から公開されている、精霊シリーズの展示会だ。
   佐藤さんから、誘われて一緒に来ていた。昨日、先生にその事を伝えると一瞬、苦虫を潰したような顔をしたけど「オレの愚痴の言い合いは勘弁してよ」と苦笑して、頭の上に手を置かれた。


「お休みの日に付き合ってもらって、ありがとうございます」

「ボクも気になってたし、それは全然構わないんだけど、ボクと二人で出かけるの都築さんはいいのかな?」

   都築さんの彼女である佐藤さんと2人で出かけるのは、やはり気が引ける。もちろん、先生に対してもちょっと罪悪感……


「秋ちゃんは、全然気にしてないですよ。同級生の男子より真野だと安心して任せられるって。それに秋ちゃんは、誘っても全然興味なさそうなんですよ」

「ははっ……」


   そういうことならと、少し気が楽になる。

「それに……私も休みの日に真野さんのこと独占してしまって、大丈夫……ですかね?」

「ん?うん。大丈夫だよ。今日出かけることも言ってあるし」




   2人で展示会を堪能して、カフェで少し休む。佐藤さんは、この後都築さんと会う約束をしているようで、来るまで一緒に時間を潰すことにしたのだ。お昼間近であり、入ったカフェも店内はいっぱいになりつつあった。


「真野さんは、誕生日に何が欲しいですか?」
「へっ?」


   急にこの間も聞いたタイムリーな質問に、変な声を出して、佐藤さんを見つめてしまう。


「あ、っと……説明が足りないですよね。ごめんなさい。秋ちゃんの誕生日がもうすぐで、何をあげたらいいか迷ってて。20代の男の人はどんなもの貰えると嬉しいのかなぁと」

「あぁ。都築さんも今月誕生日なんですね。ボクもなので、ビックリしちゃいました……そうだなぁ。好きな人から貰うものなら何でも嬉しいんじゃないかな」


   そう言うと、ちょっと困った顔をして「そういう一般的な答えじゃなくて……秋ちゃん大人だし、子供っぽいもの渡したくないなって」と付け加えられる。


「うーん。都築さんに欲しいもの聞いちゃうとか?」

「だめですよー。聞くと子供扱いして何もいらないって言うか、すごく安いものになっちゃうんです」と口を膨らませながら答える。

「じゃあ、趣味のものとか、仕事で使えるような物がいいのかなぁ」

「趣味は……ゲームかな。休みの日はけっこうやってる。あとは、野球?今も草野球チームに入ってるし。仕事では、何がいいんだろう」

「まあ、王道といえば名刺入れとか財布とか、カバンとか……かな?」


   これは、ボクが先生にプレゼントを聞かれた時に考えたものだった。だけど、なんかどれもピンとこなかったものだ。


「うーん。やっぱり、都築さんに聞いてみるのがいいかなぁ。直接聞かなくても、探りを入れてみるとか。ボクがそれとなく聞いてみようか」

「……本当は、私をプレゼントにしたいんだけど……」

「えっ?」

「え、あ、いや、なんでもないです。じゃあ、お願いします。」

「あ、うん……」


   なんかそれ以上聞いちゃいけないような気がして突っ込めない。佐藤さんも話題を変えてきたのでそういうことなんだろう。そうこうしているうちに、都築さんがやって来てボクは席を立った。2人から一緒に昼ご飯を食べようと誘われたけど、そこは丁重にお断りする。これ以上、デートの邪魔をする訳にはいかない。


   店を出る前に2人の席を振り返ると、仲良く話しているのをみると微笑ましく「ボクも先生のところに行こうかな……」なんて呟いてしまう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

BL短編まとめ(現) ①

よしゆき
BL
BL短編まとめ。 冒頭にあらすじがあります。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

ミルクと砂糖は?

もにもに子
BL
瀬川は大学三年生。学費と生活費を稼ぐために始めたカフェのアルバイトは、思いのほか心地よい日々だった。ある日、スーツ姿の男性が来店する。落ち着いた物腰と柔らかな笑顔を見せるその人は、どうやら常連らしい。「アイスコーヒーを」と注文を受け、「ミルクと砂糖は?」と尋ねると、軽く口元を緩め「いつもと同じで」と返ってきた――それが久我との最初の会話だった。これは、カフェで交わした小さなやりとりから始まる、静かで甘い恋の物語。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

処理中です...