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第6話 報われない苦労。得られない感謝。
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アリシアの気持ちなど関係なく、結婚をすることは決定事項だった。
子爵令息であるローカス=フリードは、20歳を超えたごく普通の青年だった。
ただ、アリシアを品定めするような目が、少し気になった。
彼女のことを気に入ったのは本当のようで、婚約中にも贈り物がよく届いた。
主に、彼が仕留めたというリスやウサギのはく製。
動物の毛皮を使った小物類。
狩猟が趣味という、彼らしいプレゼントばかりだった。
受け取った品物を部屋に持ち帰ると、エミリアが必ずそれらを見に来た。
「お姉さま。贈り物のセンスがない方なのね」
正直な感想であったとしても、妹に父の姿が重なり、いら立ちを覚えた。
アリシア自身が同じように感じていても、それを妹からは聞きたくなかった。
彼への愛情があるかどうかは、よくわからない。
ただ、この家から離れたいと思う気持ちだけが、日々募っていった。
結婚式とお披露目は控え目に行いたいというアリシアの希望を、彼は喜んで受け入れた。
自分の意見が通ったことが、嬉しかった。
自分の話を聞いてくれるだけでも、彼を好きになれるような気がした。
だが、このことにオリスナが猛反対をした。
「すでに、招待状を送っている」
寝耳に水だった。
誰を招待するつもりかだけは、リストアップして知らせてはいた。
しかし、リスト以外で、一度もあったこともないような貴族関係者を大勢招待していると言われた。
「私たちに一言もなしなんて、ひどくありませんか・・・?
しかも、この方たち…私には関係ない方ばかりではありませんか?
私たちの結婚式なのですよ?!」
アリシアがたまらず不満をぶつける。
反抗されたことが、オリスナの癇に障った。
「お前には、親の気持ちというものがわからないのか!!
私の娘の結婚式を御祝いしたいと様々な方々が申し出てくださっているのだ。
いまさら断れるわけないだろう!
我が子爵家の面子を潰す気か!」
(私の気持ちはわかってくれないの!?)
いつものように怒鳴られ、アリシアは唇をかみしめた。
彼女には、彼女なりの結婚式への憧れみたいなものはあった。
ささやかでもいい。
心から祝ってくださる人達だけを招待して、おもてなしをしたかった。
結局、式はオリスナの見栄を満足させるためのものなのだ。
当日の主役は、花嫁花婿ではない・・・。
後日、ローカスに事情説明と謝罪をしに出かけた。
「仕方ないよ。僕たち貴族には、いろいろな付き合いもあるしね。」
ローカスは少し苦笑いをしながらも、オリスナの様々な要望や変更を快く受け入れてくれた。
(愛せるかわからないけど・・・少しでもこの人に迷惑かけないように・・・良い妻になれるように、がんばろう)
理解を示してくれる彼に、感謝をこめて微笑んだ。
「お母さま・・・なんですって?」
オリスナは、アリシアにも給金が出ていると言っていた。
他家に嫁ぐこの機会に、マリアから受け取ろうと彼女の部屋を訪れ、そのことを申し出た。
「だから、全部ないわよ。
あなたたちを育てるのだってお金がかかるし、お父様は、稼いだお金のかなりの額を事業の接待費として持って行ってしまうし。
結婚式のために出費も重なっているのだもの」
アリシアの働いた年数からすれば、そこそこの金額が貯まっているはずだった。
だが、それが一銭もないとマリアは言った。
アリシアは、混乱した。
(これは・・・私が悪いの?)
彼女が働いて、もらうはずだったお金が知らない内に消えていた。
「ドレス代もあるし、大がかりなお披露目だから、宝飾品も新しくしないとだし。
エミリアのものも含めると、全然足りないのよ。
むしろ、大赤字だわ。
それなのにあなたときたら、この家からお金を持っていこうとするなんて・・・」
なぜか、アリシアが責められるように言われる。
(式を大がかりにしたのは、お父様でしょ?!
なぜ私が責められるの?)
「また、そんな顔をして・・・そんな様子で嫁いでもちゃんとやっていけるのかしら?」
マリアの声がだんだんと高く、アリシアをさらに非難する口調へと変わる。
まるで、後ろめたい気持ちを押し殺すかのように。
アリシアは何も言えなかった。
黙って一礼をすると部屋を後にした。
「なんなの?あの子は!」
(私の苦労も知らないで!!)
マリアはイライラしていた。
アリシアがオリスナに叱責されるたびに、毎回こちらにも飛び火するのだ。
時には彼女の教育が悪いからだと叱られる。
この家がどん底だった時に、苦労して支えてきた自分がなぜ叱られなければならないのか?
(あの子が、この家の和を乱すのが一番悪いのよ!)
自分の苦労が報われ、そろそろ皆に感謝されても良いはずだとマリアは思った。
昔に比べて裕福になったとはいえ、彼女が自由にできるお金は少ない。
ある程度認められているが、女性が見栄を張るには少し足りない金額だ。
(親である私が、娘が稼いだお金を使って何が悪いというの?)
世間体を考えても、見窄らしい恰好で社交をするわけにはいかないのだ。
ドレス代を含めてマリア自身が使うお金は、すべて必要経費のはず。
これは子爵家として…アリシアに恥をかかせないためのもの。
(私は、間違っていないわ。)
正しいことをしていると信じているマリア。
アリシアの心がどんどん離れていくことに、彼女は気付いていなかった。
子爵令息であるローカス=フリードは、20歳を超えたごく普通の青年だった。
ただ、アリシアを品定めするような目が、少し気になった。
彼女のことを気に入ったのは本当のようで、婚約中にも贈り物がよく届いた。
主に、彼が仕留めたというリスやウサギのはく製。
動物の毛皮を使った小物類。
狩猟が趣味という、彼らしいプレゼントばかりだった。
受け取った品物を部屋に持ち帰ると、エミリアが必ずそれらを見に来た。
「お姉さま。贈り物のセンスがない方なのね」
正直な感想であったとしても、妹に父の姿が重なり、いら立ちを覚えた。
アリシア自身が同じように感じていても、それを妹からは聞きたくなかった。
彼への愛情があるかどうかは、よくわからない。
ただ、この家から離れたいと思う気持ちだけが、日々募っていった。
結婚式とお披露目は控え目に行いたいというアリシアの希望を、彼は喜んで受け入れた。
自分の意見が通ったことが、嬉しかった。
自分の話を聞いてくれるだけでも、彼を好きになれるような気がした。
だが、このことにオリスナが猛反対をした。
「すでに、招待状を送っている」
寝耳に水だった。
誰を招待するつもりかだけは、リストアップして知らせてはいた。
しかし、リスト以外で、一度もあったこともないような貴族関係者を大勢招待していると言われた。
「私たちに一言もなしなんて、ひどくありませんか・・・?
しかも、この方たち…私には関係ない方ばかりではありませんか?
私たちの結婚式なのですよ?!」
アリシアがたまらず不満をぶつける。
反抗されたことが、オリスナの癇に障った。
「お前には、親の気持ちというものがわからないのか!!
私の娘の結婚式を御祝いしたいと様々な方々が申し出てくださっているのだ。
いまさら断れるわけないだろう!
我が子爵家の面子を潰す気か!」
(私の気持ちはわかってくれないの!?)
いつものように怒鳴られ、アリシアは唇をかみしめた。
彼女には、彼女なりの結婚式への憧れみたいなものはあった。
ささやかでもいい。
心から祝ってくださる人達だけを招待して、おもてなしをしたかった。
結局、式はオリスナの見栄を満足させるためのものなのだ。
当日の主役は、花嫁花婿ではない・・・。
後日、ローカスに事情説明と謝罪をしに出かけた。
「仕方ないよ。僕たち貴族には、いろいろな付き合いもあるしね。」
ローカスは少し苦笑いをしながらも、オリスナの様々な要望や変更を快く受け入れてくれた。
(愛せるかわからないけど・・・少しでもこの人に迷惑かけないように・・・良い妻になれるように、がんばろう)
理解を示してくれる彼に、感謝をこめて微笑んだ。
「お母さま・・・なんですって?」
オリスナは、アリシアにも給金が出ていると言っていた。
他家に嫁ぐこの機会に、マリアから受け取ろうと彼女の部屋を訪れ、そのことを申し出た。
「だから、全部ないわよ。
あなたたちを育てるのだってお金がかかるし、お父様は、稼いだお金のかなりの額を事業の接待費として持って行ってしまうし。
結婚式のために出費も重なっているのだもの」
アリシアの働いた年数からすれば、そこそこの金額が貯まっているはずだった。
だが、それが一銭もないとマリアは言った。
アリシアは、混乱した。
(これは・・・私が悪いの?)
彼女が働いて、もらうはずだったお金が知らない内に消えていた。
「ドレス代もあるし、大がかりなお披露目だから、宝飾品も新しくしないとだし。
エミリアのものも含めると、全然足りないのよ。
むしろ、大赤字だわ。
それなのにあなたときたら、この家からお金を持っていこうとするなんて・・・」
なぜか、アリシアが責められるように言われる。
(式を大がかりにしたのは、お父様でしょ?!
なぜ私が責められるの?)
「また、そんな顔をして・・・そんな様子で嫁いでもちゃんとやっていけるのかしら?」
マリアの声がだんだんと高く、アリシアをさらに非難する口調へと変わる。
まるで、後ろめたい気持ちを押し殺すかのように。
アリシアは何も言えなかった。
黙って一礼をすると部屋を後にした。
「なんなの?あの子は!」
(私の苦労も知らないで!!)
マリアはイライラしていた。
アリシアがオリスナに叱責されるたびに、毎回こちらにも飛び火するのだ。
時には彼女の教育が悪いからだと叱られる。
この家がどん底だった時に、苦労して支えてきた自分がなぜ叱られなければならないのか?
(あの子が、この家の和を乱すのが一番悪いのよ!)
自分の苦労が報われ、そろそろ皆に感謝されても良いはずだとマリアは思った。
昔に比べて裕福になったとはいえ、彼女が自由にできるお金は少ない。
ある程度認められているが、女性が見栄を張るには少し足りない金額だ。
(親である私が、娘が稼いだお金を使って何が悪いというの?)
世間体を考えても、見窄らしい恰好で社交をするわけにはいかないのだ。
ドレス代を含めてマリア自身が使うお金は、すべて必要経費のはず。
これは子爵家として…アリシアに恥をかかせないためのもの。
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正しいことをしていると信じているマリア。
アリシアの心がどんどん離れていくことに、彼女は気付いていなかった。
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