【完結】親の理想は都合の良い令嬢~愛されることを諦めて毒親から逃げたら幸せになれました。後悔はしません。

涼石

文字の大きさ
6 / 26

第5話 許されるもの。許されない人。

しおりを挟む
「もっと・・・あの子たちに教えてあげたかった・・・」

ぽつりとつぶやく。

今教えている子の一人は話すのは苦手だが、物事を深く考える子だ。
別な子は少し耳の聞こえが悪いが、頭の回転がすごく早い。

普通の子より丁寧に時間を取るので、ぱっと見は効率が悪く感じるかもしれないが、他の子ににはない可能性を秘めていると思う。

人はわかりやすい長所ばかりに目がいきがちだ。
けれど、劣っていることを補うように人一倍優れている点が必ずある。

オリスナのような人物には、それがわからない。
むしろ、その良さを理解されないまま、つぶされかねない。

そう思っても、解雇されたアリシアには何もできない。

気力がわかない。

最近では何かを考え、行動することがとても億劫に感じる。
体もひどく重い。

足取り重く、マリアの部屋へと向かう。

「お母さま、お父様に言われてきました」

「あなたは、またあの人と喧嘩をしたの?
ここまで、怒鳴り声が聞こえてきたわ」

顔を見るなり、マリアが眉間に皺を寄せる。

「もっと大人になりなさい。
何度も言うけど・・・あなたが引くことを覚えればいいことでしょう?」

(なぜ、私だけが大人になって、引くことを覚えなければいけないのだろう?
すでに大人であるお父様たちは、引くことは覚えなくていいの?)

アリシアの胸の内に、暗い笑いがこみ上げる。
こんなことを考えていると知ったら、また怒鳴られるに違いなかった。

「一週間後に相手の方とお会いした後、今後のことを話し合うようになるから。
このお見合いもあなたのためよ。
お父様はあなたに苦労をさせたくないのよ。ちゃんと、分かってあげてね。」

廊下に出ると、妹のエミリアとすれ違った。
10歳になったエミリアはパステルカラーの普段着使いのドレスに身を包み、可愛らしい髪留めをセンス良く身に着けている。
首周りに見えるのは男性用のループタイ。

男性ものをアクセントに身に着けるのが、最近の流行らしい。
使われてるグリーン石がドレスに良く似合っていた。

「お姉さま、聞きましたわ。
お見合いなさるのですってね」

アリシアが今聞かされた話を、エミリアはすでに知っているようだった。

(知らなかったのは、当事者である私だけなのね・・・)

「お父様がお姉さまに、お似合いの殿方だと言ってました。」

無邪気な笑顔に悪意はない。

「後でお姉さまのお部屋で、お話を聞いてもよいですか?」

絡んでくる腕になぜかぞわっと気持ち悪さを感じた。

「ごめんなさい。疲れているの。」
「そうですか・・・」

明らかに残念そうにうなだれるエミリアから、さりげなく腕を外す。

部屋に戻り、アリシアは自分が10歳だった時のことを思い出してみた。

家の経済もまだ安定していなくて、事業面でも躓きが多く、オリスナもピリピリしていた。
洋服も本家の従妹のおさがりをリメイクして着ていた。
父からは「お前は地味で、センスというものがない」とよく言われていた。

(余り布で、下手くそな飾り花を作り洋服に縫い付けたら、父に馬鹿にされたっけ・・・悔しくて泣いたら、泣いたことで怒られて・・・)

こんなことを思い出したのはなぜだろうとぼんやりと考えてみた。

(ああ、あのループタイだわ)

あのループタイは、かって父が好んで身に着けていたものだ。
アリシアが机に置いてあったそれを手に取って見ていたら、マリアにものすごい剣幕で怒られた。

「お父様のものに手を触れてはいけません!
叱られますよ!!」

それ以来、父の装飾品には触ることはしないように気を付けていた。

(あの子は触れるどころか、それを身に着けることも許されるのね)

それがこの家における自分の序列位置なのだと思うと、心がさらに抉られた。
母の中でも、アリシアの存在はその程度のものなのだと。

(もう・・・何も考えたくない・・・)

ベッドに横たわった。

(神さま・・・もし・・・私の願いがかなうなら・・・)

最後の言葉を胸の中で唱える前に深い眠りに落ちていった。





どうか、私の残りの命を他の人にあげてください・・・。




しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

婚約破棄寸前、私に何をお望みですか?

みこと。
恋愛
男爵令嬢マチルダが現れてから、王子ベイジルとセシリアの仲はこじれるばかり。 婚約破棄も時間の問題かと危ぶまれる中、ある日王宮から、公爵家のセシリアに呼び出しがかかる。 なんとベイジルが王家の禁術を用い、過去の自分と精神を入れ替えたという。 (つまり今目の前にいる十八歳の王子の中身は、八歳の、私と仲が良かった頃の殿下?) ベイジルの真意とは。そしてセシリアとの関係はどうなる? ※他サイトにも掲載しています。

公爵さま、私が本物です!

水川サキ
恋愛
将来結婚しよう、と約束したナスカ伯爵家の令嬢フローラとアストリウス公爵家の若き当主セオドア。 しかし、父である伯爵は後妻の娘であるマギーを公爵家に嫁がせたいあまり、フローラと入れ替えさせる。 フローラはマギーとなり、呪術師によって自分の本当の名を口にできなくなる。 マギーとなったフローラは使用人の姿で屋根裏部屋に閉じ込められ、フローラになったマギーは美しいドレス姿で公爵家に嫁ぐ。 フローラは胸中で必死に訴える。 「お願い、気づいて! 公爵さま、私が本物のフローラです!」 ※設定ゆるゆるご都合主義

【完結】契約結婚の妻は、まったく言うことを聞かない

あごにくまるたろう
恋愛
完結してます。全6話。 女が苦手な騎士は、言いなりになりそうな令嬢と契約結婚したはずが、なんにも言うことを聞いてもらえない話。

貧乏令嬢はお断りらしいので、豪商の愛人とよろしくやってください

今川幸乃
恋愛
貧乏令嬢のリッタ・アストリーにはバート・オレットという婚約者がいた。 しかしある日突然、バートは「こんな貧乏な家は我慢できない!」と一方的に婚約破棄を宣言する。 その裏には彼の領内の豪商シーモア商会と、そこの娘レベッカの姿があった。 どうやら彼はすでにレベッカと出来ていたと悟ったリッタは婚約破棄を受け入れる。 そしてバートはレベッカの言うがままに、彼女が「絶対儲かる」という先物投資に家財をつぎ込むが…… 一方のリッタはひょんなことから幼いころの知り合いであったクリフトンと再会する。 当時はただの子供だと思っていたクリフトンは実は大貴族の跡取りだった。

【完結】嘘も恋も、甘くて苦い毒だった

綾取
恋愛
伯爵令嬢エリシアは、幼いころに出会った優しい王子様との再会を夢見て、名門学園へと入学する。 しかし待ち受けていたのは、冷たくなった彼──レオンハルトと、策略を巡らせる令嬢メリッサ。 周囲に広がる噂、揺れる友情、すれ違う想い。 エリシアは、信じていた人たちから少しずつ距離を置かれていく。 ただ一人、彼女を信じて寄り添ったのは、親友リリィ。 貴族の学園は、恋と野心が交錯する舞台。 甘い言葉の裏に、罠と裏切りが潜んでいた。 奪われたのは心か、未来か、それとも──名前のない毒。

妹のほうが可愛いからって私と婚約破棄したくせに、やっぱり私がいいって……それ、喜ぶと思ってるの? BANします!

百谷シカ
恋愛
「誰だって君じゃなくキャンディーと結婚したいと思うさ!」 「へえ」 「狙撃なんて淑女の嗜みじゃないからね!!」 私はジャレッド伯爵令嬢イーディス・ラブキン。 で、この失礼な男は婚約者リーバー伯爵令息ハドリー・ハイランド。 妹のキャンディーは、3つ下のおとなしい子だ。 「そう。じゃあ、お父様と話して。決めるのはあなたじゃないでしょ」 「ああ。きっと快諾してくれると思うよ!」 そんな私と父は、一緒に狩場へ行く大の仲良し。 父はもちろんハドリーにブチギレ。 「あーのー……やっぱり、イーディスと結婚したいなぁ……って」 「は? それ、喜ぶと思ってるの?」 私は躊躇わなかった。 「婚約破棄で結構よ。私はこの腕に惚れてくれる夫を射止めるから」 でもまさか、王子を、射止めるなんて…… この時は想像もしていなかった。 ==================== (他「エブリスタ」様に投稿)

旦那様、本当によろしいのですか?【完結】

翔千
恋愛
ロロビア王国、アークライド公爵家の娘ロザリア・ミラ・アークライドは夫のファーガスと結婚し、順風満帆の結婚生活・・・・・とは言い難い生活を送って来た。 なかなか子供を授かれず、夫はいつしかロザリアにに無関心なり、義母には子供が授からないことを責められていた。 そんな毎日をロザリアは笑顔で受け流していた。そんな、ある日、 「今日から愛しのサンドラがこの屋敷に住むから、お前は出て行け」 突然夫にそう告げられた。 夫の隣には豊満ボディの美人さんと嘲るように笑う義母。 理由も理不尽。だが、ロザリアは、 「旦那様、本当によろしいのですか?」 そういつもの微笑みを浮かべていた。

【完結】旦那様、離縁後は侍女として雇って下さい!

ひかり芽衣
恋愛
男爵令嬢のマリーは、バツイチで気難しいと有名のタングール伯爵と結婚させられた。 数年後、マリーは結婚生活に不満を募らせていた。 子供達と離れたくないために我慢して結婚生活を続けていたマリーは、更に、男児が誕生せずに義母に嫌味を言われる日々。 そんなある日、ある出来事がきっかけでマリーは離縁することとなる。 離婚を迫られるマリーは、子供達と離れたくないと侍女として雇って貰うことを伯爵に頼むのだった…… 侍女として働く中で見えてくる伯爵の本来の姿。そしてマリーの心は変化していく…… そんな矢先、伯爵の新たな婚約者が屋敷へやって来た。 そして、伯爵はマリーへ意外な提案をして……!? ※毎日投稿&完結を目指します ※毎朝6時投稿 ※2023.6.22完結

処理中です...