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王都へ
熱いため息※
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「…もう洗浄したのか?」
兄上の形の良い唇から発せられたのは、その何とも労りのない言葉ひとつだった。僕の胸の中は荒れ狂っているというのに、済ました顔で僕にそう尋ねる兄上に憎しみさえ覚える。
「…はい。兄上は随分良い物を使っていらっしゃるのですね。新しい物を封切らせて貰いました。」
兄上はチラッと棚の上を見てから、考え込む様に額に掛かる黒髪を掻き上げた。もしかして、誰かのために用意されたエッセンスを勝手に使ったから不満に思っているのだろうか。
だけど特別な物だったのなら何処か別の場所に置いておけば良かったのだと、僕は苛立っていたせいでまだ強気でいられた。
全裸を隠そうともせず堂々と浴槽に近づいた兄上は、手でお湯を掬って香りを立てた。
「良い匂いだ。…先に出るか?それとも一緒に入るか?」
僕はハッとして近づいた兄上の股間から目を引き剥がすと、ザブリと湯から立ち上がった。
「先に出ます。」
緊張と急に熱いお湯から立ち上がったせいで、僕はくらりとして咄嗟に兄上に支えられた。兄上のがっしりした大きな手で背中と腰を掴まれて、僕はその感覚に震えた。
すっかり昂った身体は酷く敏感になっていたけれど、それを兄上に知られたくはない。
僕は唇を噛み締めて、兄上に手助けされながら動揺した顔を見せない様に俯いて湯船から出た。目に飛び込んでくる兄上の雄々しいそれに今や動揺より畏怖を感じつつ、僕は後ろも見ずに部屋へ戻った。
適当に水気を拭って椅子に掛かっているガウンを羽織ると、兄上のものであるそれはすっぽりと僕を包んだ。昔は安心を与えてくれた兄上の匂いは、今や落ち着かない匂いに変わってしまった。
湯浴みの水音が耳を撫でて、兄上も僕の湯を使う音であんなに興奮してしまったのかもしれないと思えば、どこか慰められた。
実際、兄上は僕に欲情している。結局兄上も醜聞を避けるためだとか言いながらも嫌々こうする訳ではないんだろう。兄上は僕をそう言う目で見ていたと言う事だろうか。一体いつから?
それは大事なことの様な気がするのに、考える間も無く兄上が身体を拭きながら姿を現した。
ドクリと心臓が震えて、僕は呆然と突っ立っていた。ああ、本当にこれは正しいことなんだろうか。頭の中を巡るまとまらない考えが顔に出ていたのか、兄上は腰に布を巻き付けるとキャビネットへ向かった。
小さなグラスに汲んだ酒を僕に突き出して、優しい声で呟いた。
「アンドレはこれが必要だ。…何も考え過ぎる事はない。年頃になれば誰でも発散してる事だ。相手は選んだ方が良いが…。」
自分でそう言いながら、少し顔を顰めた兄上は僕がひと息でグラスを煽るのを見ていた。やっぱり咽せてしまったけれど、前回よりはマシだ。
兄上の腰布を突き上げる興奮に励まされて、僕はスルリとガウンの紐を解いて寝室に向かった。寝室の椅子に思い切りよく脱いだガウンを掛けると、全裸のままベッドに乗り上がって肘をついて横になった。
マリーが僕を指南した時に教えてくれたこの誘惑のポーズは、『こちらの余裕を見せつける』方法だ。実際は一度もした事のない誘惑がぎこちなくて、兄上に見透かされないかと不安ばかりだった。
…もし気づかれたら、恥ずかし過ぎる。
けれど、兄上は嘲るように口元を歪めると、目を細めて呟いた。
「…思った以上にアンドレは経験豊富のようだ。手加減は要らないか?」
僕は喉に込み上げる悲しみを堪えた。どんな誤解をされようが、この機会を使うと決めたのは僕自身だ。だから僕は掠れた声で兄上を、いや、目の前の焦がれて手に入れたくて堪らない男を誘った。
「シモン、僕を待たせないで…。」
冷静に見えたのは僕も兄上を買い被っていたのだろうか。兄上は僕にのし掛かると噛み付く様に唇を押し付けて、こじ開けた。ああ、どんなに乱暴にされても、僕は兄上に触れられたら全てを受け入れてしまう。
肌を触れ合わせるほどに、僕の中に巣食う兄上への禁断の愛が花開いてしまうんだ。
僕は兄上にしがみついて、誘う様に舌を突き出した。兄上は僕の口の中をなぞって、時々甘やかに噛んだ。その度に兄上が僕を欲しがってくれている気がして、僕は夢中になってお互いの唾液を、そのぬめりを味わった。
上級貴族の割に節張った兄上の手で全身を撫でられると、僕は今までに無く感じてしまう。閨でする内容より、誰とそれをするのかが全てなんだと僕は知ってしまった。
けれど考える暇もなく兄上に尻たぶを両手で掴まれて、嬉々として仰け反ってお互いの興奮を押し付け合うのは、誰に習う訳でもない切羽詰まった行動だった。
指で捏ねられて、兄上の口の中で突っ張るほど硬くなった胸の先端からの快感が、矢のように下半身目掛けて降り注ぐせいで、僕は淫らに声を上げてしまう。とは言えこの別邸は僕と兄上しか居ないのだから、誰に聞かれることもない。
気づけば胸と股間を同時に愛撫されていた僕は、ビクビクと兄上の手の中で張り詰めていた。ああ、このまま逝かせて…!
不意にその絶頂への道を閉ざされて、僕は思わず不満気に呻いた。そんな僕の唇をねっとりと舌でなぞった兄上は、興奮でギラつかせた灰色の瞳を細めて、笑みを乗せて言った。
「…感じやすい身体だから、やはり手加減は必要の様だ。気絶したら最後まで付き合って貰えないだろう?」
兄上にどれだけ激しくされるのかと想像したせいで、全身が脈打った。兄上が香油を手に取るのを顔を背けて感じながら、僕は次に来る衝撃を待った。
アランの指南以来全然解していないせいで、さっき洗浄器具を入れるのが怖かった事を思い出して、僕は思わず身を硬くした。けれど兄上はそんな僕の緊張など気づかずに、僕の卑猥な場所を指でなぞった。
思いがけず優しいその動きに、僕はホッとして力を抜いた。まるでそれを待って居たかのように、兄上は軽く指を押し込んだ。違和感と少しの痛み、そして小さな喜び。無意識に呻いてしまったけれど、小さな声だったからきっと聞こえなかった筈だ。
けれど兄上の指は直ぐに出て行ってしまって、待てど暮らせど続きはやって来なかった。
…きっと僕のあそこでは満足出来ないのだ。絶望を感じた僕は身動き出来ずに顔を背けたまま、閉じた目から熱い涙が頬を伝うままに任せた。泣いては駄目なのにもう止めることが出来ない。
兄上の形の良い唇から発せられたのは、その何とも労りのない言葉ひとつだった。僕の胸の中は荒れ狂っているというのに、済ました顔で僕にそう尋ねる兄上に憎しみさえ覚える。
「…はい。兄上は随分良い物を使っていらっしゃるのですね。新しい物を封切らせて貰いました。」
兄上はチラッと棚の上を見てから、考え込む様に額に掛かる黒髪を掻き上げた。もしかして、誰かのために用意されたエッセンスを勝手に使ったから不満に思っているのだろうか。
だけど特別な物だったのなら何処か別の場所に置いておけば良かったのだと、僕は苛立っていたせいでまだ強気でいられた。
全裸を隠そうともせず堂々と浴槽に近づいた兄上は、手でお湯を掬って香りを立てた。
「良い匂いだ。…先に出るか?それとも一緒に入るか?」
僕はハッとして近づいた兄上の股間から目を引き剥がすと、ザブリと湯から立ち上がった。
「先に出ます。」
緊張と急に熱いお湯から立ち上がったせいで、僕はくらりとして咄嗟に兄上に支えられた。兄上のがっしりした大きな手で背中と腰を掴まれて、僕はその感覚に震えた。
すっかり昂った身体は酷く敏感になっていたけれど、それを兄上に知られたくはない。
僕は唇を噛み締めて、兄上に手助けされながら動揺した顔を見せない様に俯いて湯船から出た。目に飛び込んでくる兄上の雄々しいそれに今や動揺より畏怖を感じつつ、僕は後ろも見ずに部屋へ戻った。
適当に水気を拭って椅子に掛かっているガウンを羽織ると、兄上のものであるそれはすっぽりと僕を包んだ。昔は安心を与えてくれた兄上の匂いは、今や落ち着かない匂いに変わってしまった。
湯浴みの水音が耳を撫でて、兄上も僕の湯を使う音であんなに興奮してしまったのかもしれないと思えば、どこか慰められた。
実際、兄上は僕に欲情している。結局兄上も醜聞を避けるためだとか言いながらも嫌々こうする訳ではないんだろう。兄上は僕をそう言う目で見ていたと言う事だろうか。一体いつから?
それは大事なことの様な気がするのに、考える間も無く兄上が身体を拭きながら姿を現した。
ドクリと心臓が震えて、僕は呆然と突っ立っていた。ああ、本当にこれは正しいことなんだろうか。頭の中を巡るまとまらない考えが顔に出ていたのか、兄上は腰に布を巻き付けるとキャビネットへ向かった。
小さなグラスに汲んだ酒を僕に突き出して、優しい声で呟いた。
「アンドレはこれが必要だ。…何も考え過ぎる事はない。年頃になれば誰でも発散してる事だ。相手は選んだ方が良いが…。」
自分でそう言いながら、少し顔を顰めた兄上は僕がひと息でグラスを煽るのを見ていた。やっぱり咽せてしまったけれど、前回よりはマシだ。
兄上の腰布を突き上げる興奮に励まされて、僕はスルリとガウンの紐を解いて寝室に向かった。寝室の椅子に思い切りよく脱いだガウンを掛けると、全裸のままベッドに乗り上がって肘をついて横になった。
マリーが僕を指南した時に教えてくれたこの誘惑のポーズは、『こちらの余裕を見せつける』方法だ。実際は一度もした事のない誘惑がぎこちなくて、兄上に見透かされないかと不安ばかりだった。
…もし気づかれたら、恥ずかし過ぎる。
けれど、兄上は嘲るように口元を歪めると、目を細めて呟いた。
「…思った以上にアンドレは経験豊富のようだ。手加減は要らないか?」
僕は喉に込み上げる悲しみを堪えた。どんな誤解をされようが、この機会を使うと決めたのは僕自身だ。だから僕は掠れた声で兄上を、いや、目の前の焦がれて手に入れたくて堪らない男を誘った。
「シモン、僕を待たせないで…。」
冷静に見えたのは僕も兄上を買い被っていたのだろうか。兄上は僕にのし掛かると噛み付く様に唇を押し付けて、こじ開けた。ああ、どんなに乱暴にされても、僕は兄上に触れられたら全てを受け入れてしまう。
肌を触れ合わせるほどに、僕の中に巣食う兄上への禁断の愛が花開いてしまうんだ。
僕は兄上にしがみついて、誘う様に舌を突き出した。兄上は僕の口の中をなぞって、時々甘やかに噛んだ。その度に兄上が僕を欲しがってくれている気がして、僕は夢中になってお互いの唾液を、そのぬめりを味わった。
上級貴族の割に節張った兄上の手で全身を撫でられると、僕は今までに無く感じてしまう。閨でする内容より、誰とそれをするのかが全てなんだと僕は知ってしまった。
けれど考える暇もなく兄上に尻たぶを両手で掴まれて、嬉々として仰け反ってお互いの興奮を押し付け合うのは、誰に習う訳でもない切羽詰まった行動だった。
指で捏ねられて、兄上の口の中で突っ張るほど硬くなった胸の先端からの快感が、矢のように下半身目掛けて降り注ぐせいで、僕は淫らに声を上げてしまう。とは言えこの別邸は僕と兄上しか居ないのだから、誰に聞かれることもない。
気づけば胸と股間を同時に愛撫されていた僕は、ビクビクと兄上の手の中で張り詰めていた。ああ、このまま逝かせて…!
不意にその絶頂への道を閉ざされて、僕は思わず不満気に呻いた。そんな僕の唇をねっとりと舌でなぞった兄上は、興奮でギラつかせた灰色の瞳を細めて、笑みを乗せて言った。
「…感じやすい身体だから、やはり手加減は必要の様だ。気絶したら最後まで付き合って貰えないだろう?」
兄上にどれだけ激しくされるのかと想像したせいで、全身が脈打った。兄上が香油を手に取るのを顔を背けて感じながら、僕は次に来る衝撃を待った。
アランの指南以来全然解していないせいで、さっき洗浄器具を入れるのが怖かった事を思い出して、僕は思わず身を硬くした。けれど兄上はそんな僕の緊張など気づかずに、僕の卑猥な場所を指でなぞった。
思いがけず優しいその動きに、僕はホッとして力を抜いた。まるでそれを待って居たかのように、兄上は軽く指を押し込んだ。違和感と少しの痛み、そして小さな喜び。無意識に呻いてしまったけれど、小さな声だったからきっと聞こえなかった筈だ。
けれど兄上の指は直ぐに出て行ってしまって、待てど暮らせど続きはやって来なかった。
…きっと僕のあそこでは満足出来ないのだ。絶望を感じた僕は身動き出来ずに顔を背けたまま、閉じた目から熱い涙が頬を伝うままに任せた。泣いては駄目なのにもう止めることが出来ない。
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