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アフターストーリー【不定期更新】
秋刀魚と日本酒
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朝起きて顔を洗うとき、水栓をお湯にして使うようになった。真夏はカランが水に合わせたままでも温くて問題なかったのに。秋の足音が聞こえてきた気がする。
といっても、昼間は熱中症アラートが報じられる暑さだし、夕方近くにはひどい雷雨に見舞われるわけで、秋は遠すぎるなあと思うわけだけども。
「――ん? この匂いは」
今日は出先から直帰になるので早めに帰れそうと連絡をしておいたが、玄関を開ける前からいい匂いが廊下に漂っている。
私はウキウキしながら玄関に入る。
「おかえりなさい、弓弦ちゃん」
エプロン姿の彼がひょこっと顔を出した。ほんと、いつ見ても飽きないイケメン顔だな。
「ただいま。……魚、焼いてるの?」
「うん。秋刀魚を見つけたからね、今夜の夕食にいいかなあって」
なるほど、秋刀魚だ。今年は今のところ豊作だと聞く。去年は値段が高くて見送ったが、これはありがたい。
「いいねえ、秋ですもんね」
「お酒はつけるかい?」
「明日は早いから遠慮しておきますよ」
そんなやり取りをしながら鞄を片付けて、私は洗面所に手を洗いに行く。
「遠慮しなくていいのに。酔わすほど飲ませないよ?」
「ん? あなたがお酒を勧めるなんて、どういう風の吹き回しかしら?」
手洗いうがいを済ませて部屋着に着替えた私がキッチンにいる彼に問う。
「日本酒があるんだよねえ」
誘惑するような表情で彼は返す。
「麦酒もいいけれど、今日は日本酒の気分なんだ」
「神様さんが飲みたいなら、飲んでくださっていいんですよ?」
この様子だと、お酒を飲みたいのだろう。とても珍しいことだが、そういう日があってもいいと思う。
「ありゃ、付き合ってくれないのかい?」
私がお酒好きであることは、もう一年以上も同居しているから知っているだろう。誘えば必ず乗ると思われていたことについては心外だが、こんながっかりするような顔をされるとは想定外だ。
「いや、だって、どちらかというとアニキに止められているじゃないですか」
「飲ませすぎないように、とは梓くんから言われているよ」
過保護なアニキはちゃんと神様さんにも釘を刺しているようだ。きちんと話を聞いて覚えている神様さんもえらいと思う。
「でも、これを見たら君はお酒を飲まずにはいられないと思うんだよねえ」
肩をすくめた後に、彼はグリルから焼きたての秋刀魚を取り出して皿に盛り付けた。大根おろしも添えてある。冷蔵庫から日本酒の瓶が出てきて、テーブルに並べられた。
日本酒の瓶には見覚えがある。
「……それ、地元の?」
「そう、実家の」
彼はニコニコしている。私がすぐに理解したから嬉しかったのだろう。
彼が冷蔵庫から取り出した日本酒は、私の生まれ故郷の品である。父がよく飲んでいたものだ。
「え、待って。その辺のスーパーじゃ買えないじゃん? 取り寄せ? え?」
確認のために手に取ってラベルを見れば、製造元に実家近くの土地の名が記されている。故郷の品だ。
「ふふ。梓くんのところに送られてきたんだって。お裾分けしてもらったんだよ。ほら、一応僕は向こうで発生した神様だからね、たまには土地のものを食べたほうがいいんじゃないかって」
妙なところに気がきく兄である。出会った頃こそ追い出そうとしていたのに、いまやいい感じに手懐けようとしているのだから、さすがはあの父の息子だと思う。肝が据わっている。
「今まで送ってこなかったのに?」
「梓くんなりの考えがあるんじゃない?」
「へえ……」
自称神様の怪異を手懐けるのはアリなのかナシなのか。現状は害はないどころか、害をなす怪異を退けているのだから助かっているはずだが。
「だからさ、ちょっと付き合っておくれよ」
アニキからの許可がおりているということならば、付き合うのはやぶさかではない。
私は自分の席につく。
「はぁ……じゃあ、少しだけですよ」
「ふふ。ちゃんと朝は起こしてあげるから、任せておいてよ」
あ、これは飲むだけじゃ終わらないやつだな?
察しのいい私はご機嫌に夕食の準備を始める彼の背中を見ながら覚悟した。
《終わり》
といっても、昼間は熱中症アラートが報じられる暑さだし、夕方近くにはひどい雷雨に見舞われるわけで、秋は遠すぎるなあと思うわけだけども。
「――ん? この匂いは」
今日は出先から直帰になるので早めに帰れそうと連絡をしておいたが、玄関を開ける前からいい匂いが廊下に漂っている。
私はウキウキしながら玄関に入る。
「おかえりなさい、弓弦ちゃん」
エプロン姿の彼がひょこっと顔を出した。ほんと、いつ見ても飽きないイケメン顔だな。
「ただいま。……魚、焼いてるの?」
「うん。秋刀魚を見つけたからね、今夜の夕食にいいかなあって」
なるほど、秋刀魚だ。今年は今のところ豊作だと聞く。去年は値段が高くて見送ったが、これはありがたい。
「いいねえ、秋ですもんね」
「お酒はつけるかい?」
「明日は早いから遠慮しておきますよ」
そんなやり取りをしながら鞄を片付けて、私は洗面所に手を洗いに行く。
「遠慮しなくていいのに。酔わすほど飲ませないよ?」
「ん? あなたがお酒を勧めるなんて、どういう風の吹き回しかしら?」
手洗いうがいを済ませて部屋着に着替えた私がキッチンにいる彼に問う。
「日本酒があるんだよねえ」
誘惑するような表情で彼は返す。
「麦酒もいいけれど、今日は日本酒の気分なんだ」
「神様さんが飲みたいなら、飲んでくださっていいんですよ?」
この様子だと、お酒を飲みたいのだろう。とても珍しいことだが、そういう日があってもいいと思う。
「ありゃ、付き合ってくれないのかい?」
私がお酒好きであることは、もう一年以上も同居しているから知っているだろう。誘えば必ず乗ると思われていたことについては心外だが、こんながっかりするような顔をされるとは想定外だ。
「いや、だって、どちらかというとアニキに止められているじゃないですか」
「飲ませすぎないように、とは梓くんから言われているよ」
過保護なアニキはちゃんと神様さんにも釘を刺しているようだ。きちんと話を聞いて覚えている神様さんもえらいと思う。
「でも、これを見たら君はお酒を飲まずにはいられないと思うんだよねえ」
肩をすくめた後に、彼はグリルから焼きたての秋刀魚を取り出して皿に盛り付けた。大根おろしも添えてある。冷蔵庫から日本酒の瓶が出てきて、テーブルに並べられた。
日本酒の瓶には見覚えがある。
「……それ、地元の?」
「そう、実家の」
彼はニコニコしている。私がすぐに理解したから嬉しかったのだろう。
彼が冷蔵庫から取り出した日本酒は、私の生まれ故郷の品である。父がよく飲んでいたものだ。
「え、待って。その辺のスーパーじゃ買えないじゃん? 取り寄せ? え?」
確認のために手に取ってラベルを見れば、製造元に実家近くの土地の名が記されている。故郷の品だ。
「ふふ。梓くんのところに送られてきたんだって。お裾分けしてもらったんだよ。ほら、一応僕は向こうで発生した神様だからね、たまには土地のものを食べたほうがいいんじゃないかって」
妙なところに気がきく兄である。出会った頃こそ追い出そうとしていたのに、いまやいい感じに手懐けようとしているのだから、さすがはあの父の息子だと思う。肝が据わっている。
「今まで送ってこなかったのに?」
「梓くんなりの考えがあるんじゃない?」
「へえ……」
自称神様の怪異を手懐けるのはアリなのかナシなのか。現状は害はないどころか、害をなす怪異を退けているのだから助かっているはずだが。
「だからさ、ちょっと付き合っておくれよ」
アニキからの許可がおりているということならば、付き合うのはやぶさかではない。
私は自分の席につく。
「はぁ……じゃあ、少しだけですよ」
「ふふ。ちゃんと朝は起こしてあげるから、任せておいてよ」
あ、これは飲むだけじゃ終わらないやつだな?
察しのいい私はご機嫌に夕食の準備を始める彼の背中を見ながら覚悟した。
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