欲望の神さま拾いました【本編完結】

一花カナウ

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アフターストーリー【不定期更新】

寒風を前に温かいお弁当を

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 すっかり寒くなってきた。秋らしい時期がないままに、あっという間に冬である。コートを引っ張り出して朝着込むと、そろそろカイロも必要じゃないかなと思うくらいに冷え込みを感じた。
 昼間に寒風を受けて、ふと、外で食べる必然性について考えた。弁当でもいいんじゃないか、と。

「――というわけで、お弁当もいいんじゃないかなあって思ったんですよねえ」

 夕食の熱々おでんをつつきながら、私は彼に話を振った。

「お外は寒いもんねえ。最近は温かいものがよく売れているよ。野菜のたくさん入ったトマト味のすぅぷが特に人気だねえ」

 彼はときどき外来語をあえてたどたどしく呼ぶ。スープは職場でも頻繁に使う単語だろうに、舌っ足らずな調子で発音した。

「ミネストローネ?」
「うん。とうもろこしのものや、じゃがいものもの、かぼちゃのもよく売れているんだ」
「ポタージュスープかな。作ってるんですか?」

 彼の仕事は厨房での調理スタッフである。バイトに出るようになって半年は経つが、その腕はめきめきと上がっている。もともとセンスがあったのだろう。
 アニキの鍛え方が半端なかったのかもしれないけどね。
 私が不在の時間を有効活用するがごとく、私の兄が働いている店で兄の指導のもと彼はバイトに精を出しているのだった。

「そうだよ。僕が慣れるのが早かったからか、商品が去年よりも充実してるらしい。仕事仲間から話を聞くまで気づかなくて、やられたな、って思った」
「うまく使われているみたいですね」

 私が笑うと、彼は頬を膨らませた。

「なんて忙しい仕事なんだろう、去年までこれを梓くんが捌いていたなんてって尊敬していたのに、僕のほうが仕事量では上回っていただなんて衝撃さ」
「教えるのもうまいんですよ、アニキは。もちろん、神様さんがハイスペックなのは間違いないでしょうけど」

 自称神様な怪異をどうだまくらかせば、商品のラインナップを増やせるのだろうか。神様さんには気の毒かもしれないが、怪異使いとしての才能をこんなところで発揮するのはどうかと思うぞアニキよ。
 私が返せば、彼は苦笑した。

「給料を上げてくれてもいいくらいの働きだねって、店長さんは褒めてくれていたよ。くりすますのお土産はたくさん弾んでおくからって」
「それはありがたいです。神様さんが頑張ってくれているおかげですね。その日は、飲み会、きっちりと断ってありますから、ちゃんと定時で帰りますよ」

 クリスマスイブは何故かうちの職場は飲み会を入れたがる。リモートで出社できないときでさえ、リモート飲みを実行した。毎年クリスマス会を仕切っているリーダーが、どうしてもその日を一人で過ごしたくないらしい。職場の人間を巻き込むなよ。
 私がにこっとすれば、彼は困惑するように眉をひそめた。

「嬉しいけど、いいのかい? 客先との飲み会だったんじゃないのかな」
「上司が、コイツは家に待たせている相手がいるから帰らせろって言ってくれたんで」

 過密スケジュールが定番になりつつあったので、それをぶっ潰すために提案したのが飲み会の拒否権である。業務でもないものについては付き合いは不要だと上の決定があったのだった。

「へえ」
「ってか、神様さんの神通力で帰宅特権が発動しているんだと思っていましたけど?」
「そうではないよ。帰ってきてほしいなあとは願っているけどね」

 そういうものらしい。私はやわらかく煮えた大根を箸で崩して、一口頬張った。

「ああ、話は戻るけどさ」
「うん?」

 彼は急に立ち上がって、ぱたぱたと歩き出す。そして玄関先の収納に置いてあったデイパックを漁り始めた。このデイパックは彼がバイト先からいろいろと預かってくることが多いので、夏前に購入したものだ。その中からジャーを取り出した。

「すぅぷであれば、温かいまま持たせることができると思うんだよね」
「どうしてそれを?」
「試食用に持ち帰るときに便利だからって買わされた」
「貸し出しじゃないんだ……」

 懐事情もあるのだろうが、バイトに買わせるのはどうなんだろう。それとも、神様さん的なジョークだろうか。

「だからね、これは私物だよ」
「だとしても、私が持ち歩いちゃったら困るんじゃないですか?」

 彼はテーブルに戻ってくると、持っていた緑色のジャーを空いている場所にコトンと置いた。

「ううん、弓弦ちゃんに試食してもらうためでもあるから、問題ないさ。師走の商品一覧は概ね決まっているけど、そろそろ睦月以降の商品を決めなきゃいけないからね。うちでも作って、熱々を食べてもらいたいじゃない」
「またそういう……」
「嫌じゃないでしょ?」
「それは、そうですけど」

 どこからどこまでが彼の策略なのだろう。それとも、店長さんやアニキにうまく利用されているだけなのだろうか。
 まあ、私は温かいスープをゲットできるのだから美味しいポジションではあるけど。

「ふふ。温かい飲み物以外も用意するよ。お仕事で作る食べ物はもう慣れたからね。僕の給料は現品支給だから、まあ、こうなるだろうってことはわかっていたけど」

 神様さんの言葉で理解した。上がった給料が、私の昼食として還元されるのだ、と。
 私が目を瞬かせていると、彼はふにゃりと笑った。

「僕の手料理で満たされていいんじゃないかな」
「ってか、ちゃんとレビューしないといけないやつじゃないんですか?」
「大丈夫だいじょうぶ。新作以外は必須じゃないから」
「一応義務あるじゃん……」

 やれやれと思いながらも私たちは笑い合うのだった。

《終わり》
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