不可思議カフェ百鬼夜行は満員御礼

一花カナウ

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不可思議カフェ百鬼夜行の怪異事件簿

第5話 そこはテナント募集中

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 結論からいえば、そこに不動産屋などなかった。
 シャッターにテナント募集中の貼り紙があるだけで、不動産屋があった気配はない。察知したところ中も空っぽのようだ。一晩で中に置いたままになっていた机や書類、パソコン等が片付いたとも考えにくい。

「待ってくれよ。化かされていたのか?」
「僕が嘘をついたとは思わないのだね」
「誘導したのは店長だが、俺はこの道だと確信して歩いてきたんだ。ここに、あったはずなんだ、不動産屋が」

 二、三年程度だが真面目に勤めていた。資格を持っていなかったから雑用が主な仕事ではあったものの、楽しくやってきた。給料もきちんともらっていた。
 全てがまやかしだったのか?
 店長が自身の腕を組んでじっと建物を見つめている。

「不動産屋の名前を正しく言えるかな?」
「それは……思い出せない」

 記憶にモヤがかかったみたいだ。建物の中がどんなふうだったのかはわかるのに、固有名詞がことごとく抜け落ちている。

「君は電話対応もしていたんじゃないのかい?」

 店長が言うとおり、電話対応もしたことがある。そのときは名乗っていたはずなのだ、不動産屋の名称を。
 頭が痛い。俺は軽く頭を振った。

「でも、思い出せねえんだ。なんでだ? 俺、どうなっちまってんだよ」

 縋るように店長のインバネスコートを掴めば、店長は俺を見て困ったように微笑んだ。

「君が混乱しているからではないよ。安心してほしい」
「そうだ。店長はここに不動産屋があったのを覚えているんだろ? だからここに案内できたんだよな? 俺、自分からは不動産屋にいたって話はしなかったはずだ」
「ああ、僕は覚えている」

 店長は頷いた。

「だったら」

 店長のまる眼鏡が光る。

「覚えているのは、ここが不動産屋に擬態していたという事実だけだよ」
「……え?」

 俺を引き離して、店長はテナント募集中の貼り紙の前に立つ。そしてそれに片手を置いた。
 肌がざわっとする。何かの術が破られたような気配。

「君は自身を怪異だと告げたね。きっと彼もそれを知っていたのだろう」
「社長も怪異だったのか?」
「ああ。おそらく人間ではなかったのだろう」

 うまく隠されていたということか。
 そういう術があることは知っている。互いが何者なのか詮索されたくない場合も多いだろう。だから事実を知ったとしても別段、怒りはなかった。困惑しただけだ。

「社長の家とやらに案内してもらえるかな。真相はそこにあるだろう」
「わかった。……記憶が消えちまう前に案内できればいいが」

 あやふやな記憶でちゃんとたどり着けるだろうか。
 俺は店長の前に立ち、社長の家に歩みを進める。
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