不可思議カフェ百鬼夜行は満員御礼

一花カナウ

文字の大きさ
4 / 58
不可思議カフェ百鬼夜行の怪異事件簿

第4話 物怪の通り道

しおりを挟む
 半歩先を進む店長の後ろを俺は歩く。この方向は不動産屋だ。
 日が暮れた道は夕食の買い出しをした人たちや、仕事場や学校からの帰りだろう人々、飲みに向かう人や塾通いの中高生の姿が目に入る。ここは賑やかな商店街だ。

「――獅子野くんが落ちた穴はこの辺りかな?」

 不動産屋に行く手前の十字路。商店街の通りにクロスする路地裏は大通りに向かう近道になっている。

「ああ、もう少し先だが――」

 そこでもう一つ思い出した。

「そうだ、俺、ここで何かに襲われたんだ」
「ほう?」

 興味深そうにまる眼鏡の奥の目が細まった。

「いつも商店街のその通りを進むんだが、急に寒気がしてこっちの道に出たんだよ。そしたら、黒い影みたいなものがひゅって過ぎって。このまま進んだらよくない感じがしたから、この路地を進むことにしたんだ」
「それで穴に落ちた、と」

 俺は店長の補足に素直に頷いた。
 店長は腕を組んだまま路地裏に入っていく。

「そうかそうか。この路地には物怪の通り道があるんだ。まれに普通の人間も巻き込まれて、カフェ百鬼夜行にやってきてしまう」

 しれっと怖い話をしないでほしい。
 というか、危なくねえのか、それ。

「塞がなくていいのかよ?」
「僕らのようなものが使ってはいるからね。勝手なことはできないさ。それに、憑かれていなければ基本的に通れないものだよ」
「そもそもカフェに来るやつは取り憑かれているってことか」
「そう。僕の力が必要な者はひかれてしまう」

 つまり、だ。昨夕に俺がこの道を選んだ結果、憑かれていたからカフェ百鬼夜行に落とされてしまった、というわけだ。

「取り憑いていたのが悪いものじゃないなら僕のところには来ないが、そうではない者はどこに導かれてしまうのだろうねえ」
「行方不明者はこの町では聞かないから、どこかで見つかっているんだろ」
「そうとも限らないさ」

 店長は路地裏のいっそう暗くなった場所で立ち止まると、俺と向き合った。

「存在していた事実を丸ごと消されてしまっている場合もあるということだよ」
「ん?」

 存在していた事実を丸ごと消す? なかったことになっているということか?
 記憶から抹消されてしまうことは、そういう術を使う怪異や怪異使いがいるからありうるとは思っている。だが、情報化社会の現代において、存在していた事実となる記録を消すのは難しいのではなかろうか。
 店長は自身の長い人差し指を一本だけ立てて、軽く横に振った。

「不動産屋の社長のことを覚えているのが誰なのか、君は違和感を覚えなかったのかな?」
「別に俺は……いや、そうじゃねえな」

 思い返して、あのとき動揺していたから見落としていた事実に思い当たる。

「俺のほかにも従業員がいたはずなのに、就業時間のあの時刻にあそこにいたのは俺だけだ」

 夜逃げをしたわけじゃないと思いたくて社長の家にすぐに走ったわけだが、あの場にいるはずの従業員はどうしたのだろう。貼り紙を見てすぐに家に帰るような薄情ものばかりではあるまい。緊急事態に対応するために、他の従業員が顔を出すのを待っているはずだ。俺みたいに社長の家に向かったのであれば、彼らとそこで合流したはず。
 俺は携帯電話を取り出して連絡先を探そうとする――が、名前が思い出せない。思い出せる顔もぼんやりである。

「……え、なんだ、これ。俺は誰と働いていたんだ?」

 冷や汗が流れてくる。真冬だっていうのに汗が止まらない。
 怪異である都合上、俺はその辺の人間よりも怪異への耐性がある。だから、人間なら簡単に術にかかって惑わされるようなことでも、俺には時間差が生じるかまったくかからない。これまではその時間差を利用して術の正体を暴いて無効化してきた。
 自分の能力を過信していたのか? 見誤った? だとしても、どういうことだ?

「ふふ。愉快なことになってきたねえ」
「待て、店長。あんたがなにかしたのか?」

 混乱している。手が震えて携帯電話を落としそうになったので、ズボンのポケットに押し込んで店長と対峙した。

「僕は君を正しい世界に戻しただけさ」
「正しい……世界?」
「では不動産屋があった場所に行ってみようか」

 店長はそう告げて歩き出す。路地から商店街の通りに戻った。
 人々の行き交う声が遠い。俺は店長に導かれるようにあとを追った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

付喪神狩

やまだごんた
キャラ文芸
古い道具には年月と共に人の情念が蓄積され、それが意思を持ったものが付喪神と呼ばれる。 容姿端麗だが口も性格も女癖も悪い大和御門は日本で唯一の付喪神狩として、付喪神を祓う能力者。 自分に取り憑いた大口真神を引き連れ、同居中の相方・棚橋亨と繰り広げる現代異能バトル

無能の少女は鬼神に愛され娶られる

遠野まさみ
キャラ文芸
人とあやかしが隣り合わせに暮らしていたいにしえの時代、人の中に、破妖の力を持つ人がいた。 その一族の娘・咲は、破妖の力を持たず、家族から無能と罵られてきた。 ある日、咲が華族の怒りを買い、あやかしの餌として差し出されたところを、美貌の青年が咲を救う。 青年はおにかみの一族の長だと言い、咲を里に連れて帰りーーーー?

後宮薬師は名を持たない

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。

God Buddy

燎 空綺羅
キャラ文芸
アメリカ合衆国、ミズーリ州コロンビアを舞台に、ゾロアスター教の2神の生まれ変わりである少年たちが、仲間たちと共に、市民を守る為に戦いを繰り広げる物語。 怒りと憎しみを乗り越えられるのか? 愛する人を救えるのか? 16歳のオーエン・テイラーは、悩み、苦しみ、運命に抗いながら、前へと進んでゆく。 過ちを抱えながらも、歩むしかない。 この物語は、オーエン・テイラーの、成長の軌跡である。

ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。 世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。 しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。 入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。 彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。 香織は、八重の親友。 そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。 その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。 ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。 偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。 「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。 やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。 その中で、恋もまた静かに進んでいく。 「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。 それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。 一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。 現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。 本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...