不可思議カフェ百鬼夜行は満員御礼

一花カナウ

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不可思議カフェ百鬼夜行の怪異事件簿

第6話 逢魔時の攻防

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 バスで三つ先の停留所。バスを使うにはちょうどいい時間のものがなかったので歩いて向かった。
 息が白い。外はすっかり暗くなっている。

「……なあ」
「うん?」
「あんたはどうして俺の世話を焼いてくれるんだ?」

 信用していい相手なのかわからないが、百目鬼と名乗ったこの店長のことは嫌いではない。仕事を一緒にする上司が彼であるなら、喫茶店の仕事をしてもいいかもしれないなどと考えているくらいだ。
 自分が怪異であることも、明かしちまったしな……。
 不思議な魅力がある百目鬼という男が気になっている。もっと話をしたいと願ってしまう。
 俺はずっと、自身の特異性込みで話ができる相手に飢えていたのかもしれない。

「どうしてって」
「猫の手がほしいだけ、か?」

 別に必要とされているなら手を貸すだけなのだが、他に理由があるなら聞いておきたかった。
 俺が言葉を促すと、店長は数歩先に進み、俺の顔を覗き込むようにして止まった。
 まる眼鏡の奥の目が大きく開く。

「単純に、僕は君に興味がある」

 胸が高鳴った。

「怪異として?」
「それもあるが、昨夕に君が転がり込んできたのは運命だと直感したのでね。しばらく手元で観察をしたいと望んでいる」

 彼の綺麗な瞳に見つめられると、心を読み取られてしまいそうだ。
 俺は視線をはずすついでに店長を軽く押しやった。顔が近い。

「物好きだな」
「よく言われるよ」

 言われるのかよ。
 俺は大きく息を吐き出した。

「君の期待に沿う言葉じゃなくて申し訳ないね」
「別に――ああ。もうすぐ、家が見えるはずだ」

 再び並んで歩き出す。次の通りを曲がれば、社長が住んでいた一軒家が見えてくるはずだ。
 なのにそこで、足が止まった。
 なんだ、この気配。
 肌がざわっとして、道を曲がることができなかった。身体が拒んでいる。警戒。
 自然と店長も足を止める。そして素早くポケットからメモ帳と筆ペンを取り出して構えた。

「――獅子野くんは退魔や除霊の経験はあるかね?」
「わりいが、俺は物理一択だ」
「ならば、強化だ」

 さらさらとメモ帳に筆で書きつけて、俺の背中にポンッとそれを貼りつける。術が展開したのがわかった。

「強化ってか……これ、結界の類じゃねえのか?」

 体全体に店長が纏っている力を感じる。エプロンをつけたときに術をかけられたが、それの強化版といった印象だ。

「結界も使い方次第だよ」

 彼の長い人差し指が口元に当てられると同時にウインクされた。
 一応守ってもらえるみたいだが、俺の力量も試されているみたいだな……。自分の身を守ることを優先していいのか?
 店長はこういう荒事にも慣れているような感じがした。周囲の様子を確認して、もう一枚札を作ると天に向ける。術が発動したのか、不穏な空気に変化があった。

「行くよ」

 もう一枚札を作って道に放つ。それはやがて俺の姿を取る。
 式神ってやつか?
 多彩な百目鬼店長の術に魅了されている間に、俺の姿をした式神は道の角から突撃するように現れた黒い影に喰われた。
 これは見覚えがある。穴に落ちる前に突っ込んできたナニカと同じだ。

「ふむ。念には念をと思ったが」

 すかさずもう三枚ほどの札を放って式神を生み出す。
 黒い影が反応した。

「どうしても獅子野くんが邪魔なのだとみた」

 百目鬼店長の様子を見るに、俺に札を貼ったのは目眩しのためだったのだろう。おそらく、札が貼られたことで俺の気配は店長の気配で隠されている。

「なんでだ?」
「それは原因に聞いてみないと」

 式神がすべて消滅すると、黒い影も闇の中に引っ込んだ。

「――ねえ、君? 少し僕と話をしないか?」
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