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不可思議カフェ百鬼夜行の業務日誌・2【短編集】
雨と空気と循環と
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雨の日が増えた。水無月なのだから、雨が増えるのはどうりではあるのだけども。
「――獅子野くん。梅雨入りのようだね」
店を閉めて外に出たとき、店長が空を見上げて囁いた。
「わかるのか?」
「空気が重くなる」
そう返して、店長は傘をさす。俺も続いて傘をさした。
足を踏み出すたびにぽたぽたと雨音が響く。
「梅雨だと湿気って大変じゃないか?」
「うん?」
「その髪」
店長の髪は肩につくくらい長いうえにほどよくうねっている。湿気が多いと膨らむような気がした。
俺が指摘すると、店長は笑った。
「確かにまとまりは悪くなるが、この姿は仮のものでもあるからね。必要に応じて姿を変えるから問題はないのだよ」
「散髪するみたいな調子で変身してほしくはないんだが」
まあ、見た目が変わったところで、俺は店長を見分けることはできるだろうけど。
「人間の体だって毎日毎時毎秒と細胞が入れ替わるのだから、似たようなものだろう」
「違うと思うぞ」
「おや、そういうものか」
店長の言葉は、どこまでが冗談でどこからが本気なのかよくわからない。
「しかし、今降っている雨だって、この世界のどこかにあったものが巡り巡ってここにあるわけで、多少姿が変わろうと同じものは同じものだと思うよ」
「屁理屈だろ、それ」
「詭弁だと言ってほしかったね」
「同じじゃねえか……」
今日の店長は饒舌だ。そして機嫌もいい。
俺はどちらかといえば梅雨の頃は具合が悪いので、店長のテンションに合わせる元気がない。
「そうだ、獅子野くん」
なにかいいことを思いついたような顔をして、店長は俺の顔を覗き込んだ。まるい眼鏡が街灯の明かりを反射してきらりと光る。
「ん?」
「少し寄り道をしていかないかね。ご馳走しよう」
「今から?」
「ああ、今からさ。僕の知人の店だ。酒はないが、君の口に合うと思うよ」
店長の知人。
よく話題には出てくるものの、実際に会ったことはない。カフェ百鬼夜行で使う食材や食器のために連絡を取ったことはあるので、実在しているだろうことは確かなのだが。
「え、いいのか?」
「もちろんさ。今日みたいな日にはちょうどいい」
「なんだよ、それ」
「君の元気がなさそうだからね。僕の手料理でも気力が戻らなかったようだから、彼らの力を借りるのも悪くない」
「あ」
なんだ、バレてるのか。
俺が困惑した声を出すと、店長は傘を持っていないほうの手で俺の手を取った。
「もう拒否権はないよ。行こうか」
「……おう」
俺たちは雨の商店街を仲良く並んで進むのだった。
《終わり》
「――獅子野くん。梅雨入りのようだね」
店を閉めて外に出たとき、店長が空を見上げて囁いた。
「わかるのか?」
「空気が重くなる」
そう返して、店長は傘をさす。俺も続いて傘をさした。
足を踏み出すたびにぽたぽたと雨音が響く。
「梅雨だと湿気って大変じゃないか?」
「うん?」
「その髪」
店長の髪は肩につくくらい長いうえにほどよくうねっている。湿気が多いと膨らむような気がした。
俺が指摘すると、店長は笑った。
「確かにまとまりは悪くなるが、この姿は仮のものでもあるからね。必要に応じて姿を変えるから問題はないのだよ」
「散髪するみたいな調子で変身してほしくはないんだが」
まあ、見た目が変わったところで、俺は店長を見分けることはできるだろうけど。
「人間の体だって毎日毎時毎秒と細胞が入れ替わるのだから、似たようなものだろう」
「違うと思うぞ」
「おや、そういうものか」
店長の言葉は、どこまでが冗談でどこからが本気なのかよくわからない。
「しかし、今降っている雨だって、この世界のどこかにあったものが巡り巡ってここにあるわけで、多少姿が変わろうと同じものは同じものだと思うよ」
「屁理屈だろ、それ」
「詭弁だと言ってほしかったね」
「同じじゃねえか……」
今日の店長は饒舌だ。そして機嫌もいい。
俺はどちらかといえば梅雨の頃は具合が悪いので、店長のテンションに合わせる元気がない。
「そうだ、獅子野くん」
なにかいいことを思いついたような顔をして、店長は俺の顔を覗き込んだ。まるい眼鏡が街灯の明かりを反射してきらりと光る。
「ん?」
「少し寄り道をしていかないかね。ご馳走しよう」
「今から?」
「ああ、今からさ。僕の知人の店だ。酒はないが、君の口に合うと思うよ」
店長の知人。
よく話題には出てくるものの、実際に会ったことはない。カフェ百鬼夜行で使う食材や食器のために連絡を取ったことはあるので、実在しているだろうことは確かなのだが。
「え、いいのか?」
「もちろんさ。今日みたいな日にはちょうどいい」
「なんだよ、それ」
「君の元気がなさそうだからね。僕の手料理でも気力が戻らなかったようだから、彼らの力を借りるのも悪くない」
「あ」
なんだ、バレてるのか。
俺が困惑した声を出すと、店長は傘を持っていないほうの手で俺の手を取った。
「もう拒否権はないよ。行こうか」
「……おう」
俺たちは雨の商店街を仲良く並んで進むのだった。
《終わり》
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