不可思議カフェ百鬼夜行は満員御礼

一花カナウ

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不可思議カフェ百鬼夜行の業務日誌・2【短編集】

カフェの黒電話

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 カフェ百鬼夜行には黒電話がある。店長がここで店を構えるようになる前から置かれていたものだそうだ。俺の研修のときに、「あの電話が鳴ることがあったら、すぐに僕を呼ぶように」とだけ言われたことを思い出す。
 この店で働くようになって一週間になるが、電話が鳴らないどころか、店長が仕事中にあの黒電話を使っているところさえ見たことがないことに気がついた。

「――なあ、店長。あの電話が鳴ったことってあるのか?」

 興味本位で俺が尋ねると、店じまいを進めていた店長が手を止めた。

「回線は引いてある。電話代も引き落とされているからね」

 意味ありげな言い方だ。

「だが、仕事の注文なんかはあんたの携帯電話でやっているだろ? 意味あるのか?」
「ああ、あれはね、そこにあることに意味があるのだよ」
「うん?」

 俺は黒電話に意識を向ける。普通に暮らしている人間には感じ取れないだろう怪異の気配が纏わりついているようだ。
 電話の怪異、か?
 普通の電話――といっても、黒電話自体がもはや骨董品のレベルなのだが――に見えなくもないものの、引っかかるものがそこにある。

「基本的にその電話は鳴ることはない。僕たちに必要がある時だけ、電話が鳴って知らせるようになっているのでね」
「へえ、俺以外の従業員がいたのか」
「不要なセールスに付き合う気はないだろう。無関係なものは、有名な怪談が流れるようになっている。そもそも、あの電話がこの世とだけ繋がっているとは限らないからね」
かくにも繋がってるのか」
「繋がることもあるというだけのこと。こっちにもそれなりに混線して繋がることはあるよ」

 店長はそう応えながら自身の携帯電話を取り出して軽く振った。

「まあ、そうだな」

 自分にも覚えがあったので、俺は素直に頷いた。
 最近はめっきり減ったが、詐欺電話のほかに唸り声が続く電話を受け取ったことがあった。雑踏に紛れて、呪文のような意味不明な文章の羅列を聞かされたこともある。俺自身がちょっと特殊な怪異なので、相手の怪異としての効果が無効化されてしまって申し訳ない。
 店長は自身の携帯電話をしまうと長い人差し指を自分の唇に当てる。

「いいかい、獅子野くん。もし僕がいないときにあの電話が鳴ったら、絶対に名乗ってはいけないよ。名乗っていない相手の名前を出してもいけない。はい、こちらはカフェ百鬼夜行です。用件をお伺いします、とだけ伝えるように」
「名乗ったらどうなるんだ?」
「お勧めはしないよ」

 そう返事をしただけで、店長はそれ以上はなにも言わなかった。
 俺は大きく息を吐いて、閉店作業に戻る。

「ま、相手にもよるか。優秀な黒電話さんが通してしまうような相手だということだけ、俺は頭に入れておく」
「そうだね。彼はとても優秀だから、君に必要だと思えば通話を許すかもしれない」
「……へえ」

 俺は思うところがあって言葉を濁した。

「僕に何かあれば、まずは君の携帯電話に連絡をするつもりだけれど、通じなければこの黒電話が鳴るように彼には伝えてある。とはいえ、今のところは獅子野くんと僕が離れることはないから心配はいらないだろう」
「ああ、そこは心配していない」

 店長は俺がなにを気にしたのか、わからなかったようだ。まだ出会って日も浅いから当然といえばそうなのだが。

「君も、何かあれば僕に連絡をするのだろうけれど、それができない状況になったらこの黒電話に念じるといい」
「え、通話できるのか?」
「君が彼に嫌われていなければ。怪異なのだから、そういうことも可能だという話さ」

 すごいな、先輩。
 俺は純粋に尊敬の眼差しを黒電話に向ける。俺の形づくるものたちと比べたらこの黒電話の方が若いのだろうけれど、仕事はプロフェッショナル志向ということだ。
 この店長に信頼されているのが、そもそもすごいんだよな……。
 おそらく、店長に見出されて選ばれたものなのだろう。

「――世話になるような機会が来ないといいのだがね」
「妙な怪異をくっつけねえように気をつけるさ」

 店長に怪異がらみで助けてもらった都合でここで働くことになった。次の仕事を見つけるまでは、少なくともこの店で世話になるつもりではある。余計な仕事を増やさないように常に注意はしておきたい。

「……獅子野くん?」
「ん?」
「今夜は駅まで送ろう」
「なんかあるのか?」
「念のためだよ」

 念のためだと言われると断れない。店長を心配させるのはあまりいい気がしないので、俺は店長の申し出を受けることにするのだった。


《終わり》
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