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2章:寵姫になるために
寵姫になるために 6-1
しおりを挟むステージの上にいる人たちも起き上がり、綺麗に頭を下げる。
すると、盛大な拍手がまた響いた。
その音が大分消えた時に、カツリ、と音を鳴らしてエルヴィスが近付いた。
そのことに気付いた会場内の人たちは、拍手をやめてエルヴィスたちに視線を向ける。
しんと静まり返った会場内に、エルヴィスがすっとステージに上がった。そのことに驚いたように息を飲む貴族たち。
ただ、ダヴィドだけが口角を上げていた。そして、それを隠すようにシャンパングラスに口をつけた。
「名を、教えてくれるか?」
「――アナベル、と申します」
にこり、とアナベルは微笑む。その笑みが見えた人たちは、ほう、と小さく息を吐いた。
「アナベル、か。良い名だな。――是非、私と共に城に来て欲しい」
エルヴィスのその言葉に、一気に会場がざわついた。
耳を研ぎ澄ませると、「寵姫にするつもりなのかしら?」や、「踊り子から寵姫へ……?」と女性たちがひそひそと話しているのが聞こえた。
男性たちからも、「……確かにあの美しさなら傍に置きたい」やら、「王妃殿下よりも美しいんじゃないか?」という声も聞こえて来た。
アナベルはじっとエルヴィスを見つめる。たったの数秒。だが、それが数分に感じられるほどに緊張感が漂っていた。
「……よろしくお願いします」
アナベルの返事に、またざわめきが強くなった。
エルヴィスは彼女に向けて手を差し出し、そっとその手を取った。そして、手の甲に唇を落す。
どこからか、拍手の音が響いた。
拍手の音を辿るように顔を向けると、ダヴィドがにんまりと笑みを浮かべて手を叩いていた。
それを見た人たちも、パチパチと拍手をし始める。
アナベルとエルヴィスは顔を見合わせ、それから手を繋ぎにっこりと微笑んでみせた。
エルヴィスとアナベルはステージを降りて、ダヴィドに近付いた。
「とても素晴らしいものを見せてもらった。旅芸人の一座には、これほど美しい女性がいるのだな」
「まあ、美しいなんて……うふふ」
嬉しそうに目元を細めるアナベル。
どんな会話をしているのかと耳を澄ましている人たちに聞こえるように、アナベルの美しさを話すエルヴィス。
そわそわとエルヴィスたちに近付いて来た人たち。どうやら声を掛けたいようだ。
「――おや、これはブトナ男爵、久しいな」
まさか自分に声を掛けられるとは思わなかったらしい彼は、アナベルとエルヴィスのことを交互に見て、「いやぁ、お久しぶりでございます」と頭を下げた。
(――先日、教えてくれた人ね。ブトナ男爵は、王妃サマ側。早速様子を探りに来た……ってところかしら?)
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