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2章:寵姫になるために

寵姫になるために 5-2

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 きらびやかな空間に、足を踏み入れると、好奇の視線を感じる。
 アナベルは辺りを見渡して、にっこりと微笑みを浮かべた。
 その笑みに、アナベルを見た人たちは頬を染めた。男性も女性も関係なく……。

「エルヴィス、よく来てくれた」
「ああ。……今日は随分ずいぶんと珍しいものが見られそうだな?」

 エルヴィスが旅芸人たちを見渡す。皆、今日のために体も、芸も磨いた。数日間しか準備期間はなかったが、いつもの芸をデュナン公爵邸という大舞台でやるのだ。

「ああ。ちまたで噂の旅芸人一行を招いた。本日は彼らのショーを楽しんで欲しくてね」

 ちらりとクレマンに視線をやるダヴィド。
 クレマンはにっと口角を上げて、大きく腕を広げた。

「このような大舞台で芸を披露できる機会を、本当にありがとうございます。是非、楽しんでください」

 パチン! とクレマンが指を鳴らす。それと同時に、男性がステージへ向けて走り、タンっと床を蹴って飛び跳ねる。ぐるぐると二回転。それから綺麗に着地。

「まあ、とても身軽なのね」
「他の人たちもこういうことが出来るのか?」

 興味津々きょうみしんしん、とばかりに周りの人たちが口にする。視線はステージにいる男性たち。彼らはキラキラと輝くストーンを衣装につけていた。その輝きにも負けないくらいの笑顔で宙を舞い、視線を釘付けにする。

(――さすがだわ)

 くいっと腕を引かれた。アドリーヌが「行きましょ」と微笑むのを見て、アナベルはうなずいた。
 ダッシュでステージまで向かい、スカートが広がるように計算して飛ぶ。
 アナベルの手をステージの男性が取り、そのままステージに上がった。
 すると、彼女はすっと剣を抜いた。天井に向けて剣をかがげるときらりとその剣が輝く。
 アナベルが目元を細め、くるりと振り向いて周囲を見渡す。
 それを合図に、男性たちがアナベルとアドリーヌに向かって剣を抜く。
 剣があたりそうなギリギリのところで避け、剣を振るう。決められたパターンがある。アドリーヌも同じように剣を使って周りを魅せる。
 剣がぶつかり合う音、すれすれでかわす緊張感。
 アナベルたちに向けられる、熱気ある視線。
 男性たちはステージの上で倒れ、ステージ上に立っているのはアナベルとアドリーヌのふたりだけ。
 ふわり、とアドリーヌが微笑み、彼女がアナベルから離れる。
 タンタン、タタン!
 アナベルが靴を鳴らす。
 スカートの裾を持ち、いつもの剣舞。
 宙に剣を放り投げると、ステップを踏む。そして、ステップの最後の一歩のところで、腕を伸ばして横を向く。顔だけ正面を向けると、空中に放った剣が鞘に収まった。
 一瞬の静寂せいじゃくの後、――盛大な拍手が聞こえた。
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