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37話
しおりを挟む驚いたようなおじい様の表情を見て、お父様が自慢気にわたくしたちを見る。そして、おじい様は小さく息を吐くとゴホゴホと咳き込んだ。慌てたようにランシリル様が水を用意して、おじい様に渡した。
おじい様はそれを受け取り一口飲む。ゆっくりと息を吐いて、眉を下げて微笑んだ。
「この身体はもう長くないだろう」
「陛下、そんな弱気なことを仰らないでください」
「いや、ランシリルよ。わしの身体だ。わしが一番良くわかっておる。……なぜ戻って来たかは知らんが、ここに来たと言うことは、この国を継ぐ決意が出来たと言うことか?」
「……ユニコーンの乙女の研究は続けたいですけどね」
「相変わらずだの……」
呆れたようなおじい様の声に、お父様は小さく苦笑を浮かべた。
わたくしはおじい様に近付いて、そっとその手を取った。皺の刻まれた大きな手。きっと、お父様が居なくなってから、とても大変だったと思う。わたくしの行動に驚いたのか、おじい様がじっと見つめてきた。そして、ふ、と表情を和らげる。
「目元が似ておるな」
「でしたら、わたくしもおじい様似なのかもしれませんね」
おじい様が目を瞬かせた。お母様がくすりと微笑み、そっとわたくしの肩に手を添える。
「おじい様とお父様の目元も似ていらっしゃるもの」
「……そうか?」
「ええ、確かに似ておりますわ」
おじい様が片手で自分の目元に触れる。それから嬉しそうに目元を細くして、わたくしたちを見た。
「愚息のせいで大変な思いをさせたな」
「……それもすべて楽しい思い出ですわ。ユニコーンの乙女を研究する夫を支えるのも、妻として役割ですもの」
駆け落ちした当時を思い出しているのか、お母様が目を伏せて微笑んだ。懐かしんでいるのだと思う。おじい様は、「……愛されておるのぅ」と少し羨ましそうに呟いた。……そう言えば、おばあ様のことは聞いたことがない……。
「孫とアリコーン様を、亡き妻にも見せてやりたかった……」
「……いや、母上が亡くなったのは俺が十歳の頃だから、無理でしょう……」
そんなに早く亡くなっていたの……おばあ様……。わたくしも、出来ればお会いしたかったな……なんて考えていると、リアンが小さく首を傾げる。
「そのうち会えるでしょ?」
リアンの言葉に、わたくしたちは顔を見合わせた。
「いつになるかはわからないけどね!」
悪戯っぽく浮かべる笑みを見て、リアンはリアンなりにこの場を和まそうとしてくれているのだと理解した。……そうね、きっと……いつかお会い出来るわよね。……その時、わたくしは何歳なのかしら……?
「……ユニコーンの乙女の加護で、目覚められたのだな。ありがとう、イザベラ」
「わたくしは……なにも……」
「いえ。一日に一回の祈りの時間、それと本日の祝福の効果があったと思います」
ランシリル様が優しい言葉を掛けてくれた。わたくしがこの国に来てからやっていたことで、おじい様の身体を守っていた……? それなら、わたくしの祈りは無駄ではなかったのね。
「って言うか、会うだけのために呼んだの?」
人間の考えていることってよくわからないなぁ、とリアンが肩をすくめた。わたくしは眉を下げてリアンを見上げると、リアンがこの部屋に集まった人たちを見渡す。
「それもある。イザベラたちのおかげで、父上が回復したと思うし、紹介したかったし。自己満足だけどね」
お父様がそう言って眉を下げる。……お父様は、自分の意志でお母様と駆け落ちしたのだものね。きっと、おじい様にお会いする勇気が必要だったのだろう。リアンは「そんなもんなの?」とばかりにお父様を見つめた。
「ふーん? まぁ、良かったね。会えて」
にこやかに微笑むリアン。頬に熱が集まっていくのがわかる。だって、あまりにも綺麗な微笑みだったから……。
「わしに残された時間で、ランシリルと愚息……エグバートに必要なことを授けよう。……そして、たまにはイザベラたちとお茶を飲む時間も欲しいのぅ」
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