【完結】婚約破棄されたユニコーンの乙女は、神殿に向かいます。

秋月一花

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38話(完)

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 そんなお茶目なことを口にするおじい様に、わたくしたちは微笑みを浮かべた。
 翌日から、おじい様はお父様とランシリル様にこの国を託すために色々と教え始めた。わたくしたちは、その休憩時間にお茶に呼ばれて、おじい様との会話を楽しんだ。おじい様の体調は良くなったり、悪くなったりを繰り返していた。
 わたくしやリアンの祈りでも、寿命が近付いた人の寿命は伸ばせないみたい。それでも、おじい様は目覚めてから一年ほど、身体が動くうちにとお父様とランシリル様に色々なことを教え込んで、――わたくしたちに見守られながら、この世を去った。
 葬儀は盛大に行われた。神帝国の人たちは、おじい様の死を受け入れて、そして涙を流してくれた。眠るように静かにその命を終えたおじい様。お話しできたのはたったの一年だったけれども、わたくしにとってはとても貴重な一年だった。

「イザベラ」
「リアン……どうしてここに」
「イザベラの気配を感じたから」

 神殿の最上階。わたくしは喪服を着て、おじい様が好きだと教えてくれた花で作った花束を手にしていた。リアンが来ていたことに気付いて声を掛けると、そっとリアンがわたくしの髪を撫でた。

「……人間の命は儚いね」
「……わたくしは、どうあがいてもあなたを置いて逝ってしまう。そのことが、なんだか……悲しいの」
「イザベラ……」

 おじい様は、おばあ様と会えたかしら? 命はどこへ向かって行くのだろう? そんなことを考えながら、わたくしはここから神帝国を見渡した。

「……イザベラ」

 静かにわたくしの名を呼ぶリアンに顔を向けると、リアンがアリコーンの姿になった。……アリコーンの姿も大きくて、少し驚いてしまう。

≪乗って≫
「え?」
≪ほら、早く!≫

 リアンの声に急かされて、わたくしはリアンの背に乗った。乗りやすいように座ってくれていたし……。

≪行くよ!≫

 リアンが立ち上がって最上階から空へと飛びあがる。こんな風にリアンの背に乗って空を飛ぶこと……昔は憧れていたわね。わたくしは花束のリボンを解いて、そっと花から手を離した。花は下へと落ちる。その途中で風が吹いて、花弁が散って行った。
 わたくしは杖を取り出して、それを握りそっと目を閉じる。
 ――どうか、安らかにお眠りください――……。
 そう願いを込めて、祈りを捧げる。温かななにかが、わたくしを包んでいたことに気付いて目を開ける。わたくしたちを包んでいたのは、温かな光だった。

「――見守っていてくださいね」

 わたくしの呟きに応えるように、光が降り注ぐ。

≪ほら、ごらんよ、イザベラ。みんなボクたちを見上げている≫
「……そのようね」

 アリコーンの背に乗るわたくしに、神帝国の人々はなにを思うかしら?
 わたくしは、もう一度目を閉じて祈りを捧げる。
 ――どうか、彼らに幸あらんことを――……。




 おじい様の葬儀から三ヶ月後、戴冠式を行った。お父様も色々と悩んではいたようだけど、ランシリル様曰く、ようやく心が決まったらしい。ユニコーンの乙女の研究は、他の人たちに任せるけれど、たまには許して、とランシリル様たちに言ったらしい。お父様らしいと言えばお父様らしいわね……。
 わたくしはユニコーンの乙女として、現帝王の娘として、わたくしに出来ることはやるつもりだ。アリコーンであるリアンも、協力してくれると言ってくれた。
 お父様が即位したばかりの頃はバタバタとしていた神殿も、しばらくすれば落ち着きを取り戻した。そして、わたくしとリアンはお父様に呼び出された。

「イザベラのパパ、何の用?」
「お父様、仕事で忙しいのでは……?」
「そりゃあまぁ忙しいけれど。今日は二人に提案があるんだ」

 にこにこと微笑むお父様と、小さく肩をすくめるランシリル様。

「提案?」
「はい。神帝国の街々の視察です」
「視察ってなぁに?」
「旅行のようなものだと思ってくれて良いよ」

 旅行? と首を傾げるリアンに、突然そんなことを言い出したお父様に驚いた。目を瞬かせてお父様を見ると、お父様はわたくしたちを見て、

「この神殿だと中々二人きりになれないだろうし、いい機会だと思ってイチャイチャして来ればいいよ!」
「お父様っ!?」

 なにを言い出すのかと思えば……! ランシリル様がこほんと咳をして、それからわたくしたちに向き合った。

「こちらが今回視察して頂く街々になります。たまには羽を伸ばして来てください」
「ランシリル様……」
「わーい、イザベラと旅行だ~!」

 心底嬉しそうなリアンの声と表情に、わたくしはゆっくりと息を吐いた。……でも、確かに気の休まる時間があまり持てていなかったから、お父様たちは気にしてくれてのよね、きっと。……そうだと思いたい。

「……かしこまりました。では、いつ向かえば――……」
「今すぐに」
「行ってらっしゃいませ」
「えっ?」

 聞き返す時間もなく、わたくしたちはあれよあれよという間に神殿の外に押し出されて、馬車に乗せられ街々を視察することになった。あまりにも急な展開に目を白黒させていると、リアンがクスクスと笑いだす。

「わ、笑い事……?」
「だって笑うしかないじゃない。イザベラのパパ、ボクらのことを気に掛けてくれていたんだねぇ」

 二人きりになる時間なんて滅多になかったし、と続いた言葉にわたくしは眉を下げて同意した。
 だからこそ、こんな風にわたくしとリアンの時間を作ってくれたのだろうけど……、あまりにも突然のことで驚いてしまった。

「折角だからいっぱいイチャイチャしようね!」
「い、いちゃいちゃ……」
「うん。結局キスも出来てないし!」
 リアンが目覚めた時のことを言っているのだろう。顔から火が出そうなほど恥ずかしい。

「……初代たちもこんな気持ちだったのかなぁ?」
「初代、たち?」
「この世界の国々に伝わる初代ユニコーンと初代ユニコーンの乙女のこと!」
「……初代って……一組ではなかったの?」
「国によって伝説が違うのは、それぞれの国々に『初代』が居たからだよ。ボクらが見たのはヴァプール王国の初代。……多分」

 多分……リアンでもそこは曖昧なのね。そんなことを考えていると、リアンがわたくしの隣に座った。そして、甘えるようにわたくしの肩に寄りかかって来た。

「リアン?」
「ボクねぇ、イザベラが好きだよ。大好き。この旅行できっともっと好きになると思う」
「り、リアン……」

 聞いているこちらが照れてしまうようなことを口にされて、わたくしは慌てた。

「ボクとイザベラの寿命は全然違うけれど、イザベラの人生をボクがもらっても良い?」

 ――驚いて、目を見開いた。だって、それはまるでプロポーズのような言葉だったから。

「……はい」

 声が、震えてしまった。それでも、すぐに答えは出た。わたくしの人生で、リアンが居ないことは考えられないから――。
 ぱぁっと明るい表情を浮かべるリアンに、わたくしは小さく微笑んだ。
 リアンの顔が近付いて来て――わたくしはそっと目を閉じる。
 唇に柔らかいものが触れる。唇からの体温を感じて、無性に恥ずかしくなった。
 唇が離れて、リアンの顔を見るととても嬉しそうに表情を蕩けさせていた。

「大好き!」
「わたくしも、リアンが大好きよ」

 ぎゅっと抱き着いて来るリアン。わたくしも彼の背に手を回してそう言った。口にした声があまりにも甘くて自分で驚く。……きっと、この旅行中にもっとあなたを好きになる。そんな予感がした。

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