【完結】婚約破棄されたユニコーンの乙女は、神殿に向かいます。

秋月一花

文字の大きさ
36 / 38

36話

しおりを挟む

 ……わたくしたちの動きが止まり、ぎぎぎ、と音が鳴りそうなほどぎこちなく首を動かして扉へと視線を向ける。お父様が「あ~……」と申し訳なさそうな声を上げて、それから頭を掻いた。

「ごめん?」

 両手を重ねてそう言うお父様に、わたくしとリアンはゆっくりと息を吐いた。

「それにしても本当に大人の姿になったんだね、アリコーン様。子どもの姿も可愛かったですが、大人になると美形なんですねぇ……」

 じーっと上から下までリアンを見て、お父様がそんなことを口にする。……本当にもう、このお父様は! わたくしがはぁ、と小さく息を吐くとハッとしたようにお父様が咳払いをして、表情を真剣なものに変えた。

「イザベラ、アリコーン様。……ひとつ、お願いがございます」
「ど、どうしたの、お父様。そんなに改まって……」

 お父様の真剣な瞳に、わたくしは戸惑った。

「――陛下が目覚めた。一度、顔を見せてやってくれないか……」
「……陛下? ……それは、もしかして……」
「ああ……、イザベラにとっては祖父だよ」

 神帝国の陛下。実を言うと一度もお会いしたことがない。ランシリル様は元気だと口にしていたけれど、やはり……具合は悪かったのかな……?
 そんなことを考えながら、わたくしはリアンに顔を向ける。リアンは小さくうなずいて、それからベッドから降りてわたくしに向けて手を差し伸べた。

「イザベラのおじいちゃんなら、会ってみなきゃ」
「……ええ、ありがとう、リアン」

 彼の手を取って立ち上がる。どこかホッとしたような表情を浮かべて、お父様は「こっちだよ」と私たちをおじい様のところへと案内してくれた。
 おじい様の部屋の前には、ランシリル様とお母様が居て、わたくしたちを待っていたみたいだ。

「……大人の姿、格好良いわね」

 ひっそりとお母様がわたくしにそう言った。小さくうなずく。誰が見ても、今のリアンは格好良いと思うから。
 ランシリル様はわたくしとリアンに視線を向けると、お父様へと顔を向けた。お父様がこくりと首を縦に動かすのを見て、そっと扉をノックする。

「入れ」

 厳かな男性の声がした。ランシリル様が扉を開けて、お父様、お母様、わたくし、リアンの順に入室すると、ランシリル様が最後に入って扉を閉める。ベッドの上に座る老人――この方が、神帝国の陛下……? 白髪交じりの髪の毛、やつれた表情。具合はあまり良くないように見える。

「……お久しぶりです、父上」
「――愚息が帰って来ていたか」

 お父様が近付いて、声を掛けると……おじい様はちらりとお父様へ視線を向けた。……あ、目元……お父様に似ている……いいえ、お父様が似ているのね。

「ランシリル、私はどのくらい眠っていた?」
「約半年ほど。お目覚めになられて大変嬉しく思います、陛下」

 そっとランシリル様がわたくしの背中を押す。わたくしたちの存在に気付いたおじい様は、怪訝そうな表情を浮かべた。

「父上、紹介します。我が妻のユーニスと、娘のイザベラです」

 お母様がすっと裾を持ち上げてカーテシーをするのを見て、わたくしも慌ててカーテシーをした。おじい様はわたくしたちをじっと見つめると「……そうか」と呟く。

「そして、イザベラ様は『ユニコーンの乙女』です」
「……『ユニコーンの乙女』?」

 近くにユニコーンが居ないからか、おじい様は少し残念そうだった。だけど、額に角を持っているリアンの存在に気付くと、その角を凝視した。

「イザベラのおじいちゃん、初めまして! ボクはリアン。アリコーンだよ!」

 あまりにも明るいリアンの声に、おじい様は目を白黒とさせて、それから悩むように眉間に皺を刻んだ。

「ユニコーン様は人間になれるのか……?」
「うん。イザベラ以外の人とお話しするには、ボクが人型にならないとダメなんだ!」
「……なんとまぁ、この歳でこのような経験をするとは思わなんだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?

鶯埜 餡
恋愛
 バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。  今ですか?  めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?

【完結】婚約破棄された悪役令嬢ですが、魔法薬の勉強をはじめたら留学先の皇子に求婚されました

楠結衣
恋愛
公爵令嬢のアイリーンは、婚約者である第一王子から婚約破棄を言い渡される。 王子の腕にすがる男爵令嬢への嫌がらせを謝罪するように求められるも、身に覚えのない謝罪はできないと断る。その態度に腹を立てた王子から国外追放を命じられてしまった。 アイリーンは、王子と婚約がなくなったことで諦めていた魔法薬師になる夢を叶えることを決意。 薬草の聖地と呼ばれる薬草大国へ、魔法薬の勉強をするために向う。 魔法薬の勉強をする日々は、とても充実していた。そこで出会ったレオナード王太子の優しくて甘い態度に心惹かれていくアイリーン。 ところが、アイリーンの前に再び第一王子が現れ、アイリーンの心は激しく動揺するのだった。 婚約破棄され、諦めていた魔法薬師の夢に向かって頑張るアイリーンが、彼女を心から愛する優しいドラゴン獣人である王太子と愛を育むハッピーエンドストーリーです。

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

冤罪で処刑された悪女ですが、死に戻ったらループ前の記憶を持つ王太子殿下が必死に機嫌を取ってきます。もう遅いですが?

六角
恋愛
公爵令嬢ヴィオレッタは、聖女を害したという無実の罪を着せられ、婚約者である王太子アレクサンダーによって断罪された。 「お前のような性悪女、愛したことなど一度もない!」 彼が吐き捨てた言葉と共に、ギロチンが落下し――ヴィオレッタの人生は終わったはずだった。 しかし、目を覚ますとそこは断罪される一年前。 処刑の記憶と痛みを持ったまま、時間が巻き戻っていたのだ。 (またあの苦しみを味わうの? 冗談じゃないわ。今度はさっさと婚約破棄して、王都から逃げ出そう) そう決意して登城したヴィオレッタだったが、事態は思わぬ方向へ。 なんと、再会したアレクサンダーがいきなり涙を流して抱きついてきたのだ。 「すまなかった! 俺が間違っていた、やり直させてくれ!」 どうやら彼も「ヴィオレッタを処刑した後、冤罪だったと知って絶望し、時間を巻き戻した記憶」を持っているらしい。 心を入れ替え、情熱的に愛を囁く王太子。しかし、ヴィオレッタの心は氷点下だった。 (何を必死になっているのかしら? 私の首を落としたその手で、よく触れられるわね) そんなある日、ヴィオレッタは王宮の隅で、周囲から「死神」と忌み嫌われる葬儀卿・シルヴィオ公爵と出会う。 王太子の眩しすぎる愛に疲弊していたヴィオレッタに、シルヴィオは静かに告げた。 「美しい。君の瞳は、まるで極上の遺体のようだ」 これは、かつての愛を取り戻そうと暴走する「太陽」のような王太子と、 傷ついた心を「静寂」で包み込む「夜」のような葬儀卿との間で揺れる……ことは全くなく、 全力で死神公爵との「平穏な余生(スローデス)」を目指す元悪女の、温度差MAXのラブストーリー。

【完結】「第一王子に婚約破棄されましたが平気です。私を大切にしてくださる男爵様に一途に愛されて幸せに暮らしますので」

まほりろ
恋愛
学園の食堂で第一王子に冤罪をかけられ、婚約破棄と国外追放を命じられた。 食堂にはクラスメイトも生徒会の仲間も先生もいた。 だが面倒なことに関わりたくないのか、皆見てみぬふりをしている。 誰か……誰か一人でもいい、私の味方になってくれたら……。 そんなとき颯爽?と私の前に現れたのは、ボサボサ頭に瓶底眼鏡のひょろひょろの男爵だった。 彼が私を守ってくれるの? ※ヒーローは最初弱くてかっこ悪いですが、回を重ねるごとに強くかっこよくなっていきます。 ※ざまぁ有り、死ネタ有り ※他サイトにも投稿予定。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」

【完結】巻き戻したのだから何がなんでも幸せになる! 姉弟、母のために頑張ります!

金峯蓮華
恋愛
 愛する人と引き離され、政略結婚で好きでもない人と結婚した。  夫になった男に人としての尊厳を踏みじにられても愛する子供達の為に頑張った。  なのに私は夫に殺された。  神様、こんど生まれ変わったら愛するあの人と結婚させて下さい。  子供達もあの人との子供として生まれてきてほしい。  あの人と結婚できず、幸せになれないのならもう生まれ変わらなくていいわ。  またこんな人生なら生きる意味がないものね。  時間が巻き戻ったブランシュのやり直しの物語。 ブランシュが幸せになるように導くのは娘と息子。  この物語は息子の視点とブランシュの視点が交差します。  おかしなところがあるかもしれませんが、独自の世界の物語なのでおおらかに見守っていただけるとうれしいです。  ご都合主義の緩いお話です。  よろしくお願いします。

国外追放ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私は、セイラ・アズナブル。聖女候補として全寮制の聖女学園に通っています。1番成績が優秀なので、第1王子の婚約者です。けれど、突然婚約を破棄され学園を追い出され国外追放になりました。やった〜っ!!これで好きな事が出来るわ〜っ!! 隣国で夢だったオムライス屋はじめますっ!!そしたら何故か騎士達が常連になって!?精霊も現れ!? 何故かとっても幸せな日々になっちゃいます。

処理中です...