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2章:同じことはしないけど
フィリベルトさまと 3話
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「――それでは、今日はここまで。リディアさん、少しお時間をいただけますか? フィリベルトさんも」
この学園の先生は、学生のことを全員『さん』づけで呼ぶ。
貴族も平民もいる学園だけど、学園内にそういう上下関係が出ないように、と聞いたことがあるわ。
……あれ、そういえば昨日の授業の内容を、どうしてフィリベルトさまは知っていたのかしら? 休んだのではなく、早退だった?
私とフィリベルトさまは顔を見合わせて、先生のもとに向かう。
ざわざわと騒ぐ学生たちの声を、背に受けながら。
先生は「ついてきてください」と教室から出ていくので、あとを追った。
フィリベルトさまは、ここでもエスコートをしてくれるようで、手を引いてくれる。
それを目撃した学生たちの反応は様々だ。
息を呑む人もいれば、きゃぁあと黄色い声を上げる人もいる。
ちらりとフローラを見たけれど、すっごい形相で私たちを――いえ、私を睨んでいた。
これは、あとで荒れそうね。
先生の個人部屋に案内されて、私たちはソファに座るようにうながされた。
素直に座り、先生が用意してくれたお茶を、一口飲む。
「まずは、リディアさん。一昨日のことなのですが……」
「一昨日の?」
「はい。止めに入れず、申し訳ありませんでした。アレクシスさんとフローラさんにも昨日、話を聞きました」
思わず先生をじっと見つめてしまった。
え、なに? なんか大事になっている?
困ったようにフィリベルトさまに顔を向けると、彼は小さくうなずいた。どうやらまだ、波乱はありそうだ。
「……アレクシス殿下とフローラさまは、どんなことを話していましたか? ……予想はつきますが……」
どうせ、やってもいない私の悪行を、つらつらと語っていたのだろう。
階段から突き落とした覚えもなければ、フローラと話した覚えもないわ。
彼女と一緒にいたアレクシス殿下に用事があって、ちょっと話しかけにいった記憶はあるけれど。
あの頃から殿下はたぶん、フローラに惹かれていたのよね。
私に対する態度がずいぶんと変わったもの。
「……フローラさんが語ったことを、そのままお伝えするのはちょっと……」
先生がためらうくらいのことを、話したってことね。
いったいどんなことを言ったのか、逆に気になるわ。
「いいえ、先生。ぜひ教えてくださいませ。知らなければ、戦いようがありませんわ」
ぎょっとしたように、目を見開く先生。
そして、数秒悩んでから、一度大きくため息を吐き、言葉を濁しながら教えてくれた。
――曰く、水をかけられた、教科書を破られた、足を踏まれた、頬を叩かれた、数人で囲い込んで罵倒を浴びせた――などなど。
それをくすんくすんと泣きながら口にしたらしい。女優になれるんじゃないか、彼女。
呆れ果てた表情を浮かべてしまい、取り繕うように咳払いをして両肩を上げた。
「事実無根ですわ」
「……でしょうね」
この先生は、私のことを知っている。
一人で行動する私を心配して、わざわざ声をかけてくれた優しい先生なの。
「――それで、どうするおつもりですか?」
フィリベルトさまは、にやりと口角を上げてこちらの様子をうかがう。
ふっと表情を緩めて勝気な笑みを唇にのせ、彼を直視した。
「もちろん――……」
目には目を歯には歯をってね!
とはいえ、私はもうアレクシス殿下の婚約者のままでいたくない。
それなら、そうね。
私の矜持を、アレクシス殿下とフローラに見せつけましょう。
この学園の先生は、学生のことを全員『さん』づけで呼ぶ。
貴族も平民もいる学園だけど、学園内にそういう上下関係が出ないように、と聞いたことがあるわ。
……あれ、そういえば昨日の授業の内容を、どうしてフィリベルトさまは知っていたのかしら? 休んだのではなく、早退だった?
私とフィリベルトさまは顔を見合わせて、先生のもとに向かう。
ざわざわと騒ぐ学生たちの声を、背に受けながら。
先生は「ついてきてください」と教室から出ていくので、あとを追った。
フィリベルトさまは、ここでもエスコートをしてくれるようで、手を引いてくれる。
それを目撃した学生たちの反応は様々だ。
息を呑む人もいれば、きゃぁあと黄色い声を上げる人もいる。
ちらりとフローラを見たけれど、すっごい形相で私たちを――いえ、私を睨んでいた。
これは、あとで荒れそうね。
先生の個人部屋に案内されて、私たちはソファに座るようにうながされた。
素直に座り、先生が用意してくれたお茶を、一口飲む。
「まずは、リディアさん。一昨日のことなのですが……」
「一昨日の?」
「はい。止めに入れず、申し訳ありませんでした。アレクシスさんとフローラさんにも昨日、話を聞きました」
思わず先生をじっと見つめてしまった。
え、なに? なんか大事になっている?
困ったようにフィリベルトさまに顔を向けると、彼は小さくうなずいた。どうやらまだ、波乱はありそうだ。
「……アレクシス殿下とフローラさまは、どんなことを話していましたか? ……予想はつきますが……」
どうせ、やってもいない私の悪行を、つらつらと語っていたのだろう。
階段から突き落とした覚えもなければ、フローラと話した覚えもないわ。
彼女と一緒にいたアレクシス殿下に用事があって、ちょっと話しかけにいった記憶はあるけれど。
あの頃から殿下はたぶん、フローラに惹かれていたのよね。
私に対する態度がずいぶんと変わったもの。
「……フローラさんが語ったことを、そのままお伝えするのはちょっと……」
先生がためらうくらいのことを、話したってことね。
いったいどんなことを言ったのか、逆に気になるわ。
「いいえ、先生。ぜひ教えてくださいませ。知らなければ、戦いようがありませんわ」
ぎょっとしたように、目を見開く先生。
そして、数秒悩んでから、一度大きくため息を吐き、言葉を濁しながら教えてくれた。
――曰く、水をかけられた、教科書を破られた、足を踏まれた、頬を叩かれた、数人で囲い込んで罵倒を浴びせた――などなど。
それをくすんくすんと泣きながら口にしたらしい。女優になれるんじゃないか、彼女。
呆れ果てた表情を浮かべてしまい、取り繕うように咳払いをして両肩を上げた。
「事実無根ですわ」
「……でしょうね」
この先生は、私のことを知っている。
一人で行動する私を心配して、わざわざ声をかけてくれた優しい先生なの。
「――それで、どうするおつもりですか?」
フィリベルトさまは、にやりと口角を上げてこちらの様子をうかがう。
ふっと表情を緩めて勝気な笑みを唇にのせ、彼を直視した。
「もちろん――……」
目には目を歯には歯をってね!
とはいえ、私はもうアレクシス殿下の婚約者のままでいたくない。
それなら、そうね。
私の矜持を、アレクシス殿下とフローラに見せつけましょう。
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