33 / 97
2章:同じことはしないけど
夕食を一緒に 1話
しおりを挟む
私たちの会話に、アレクシス殿下はぽかんとしている。
……王族として、その読みやすい表情はどうかと思います。教えないけどさ。
「フローラさま、もう魅了の魔法は使わないでくださいね。では、殿下とお幸せに」
――これは、心からの言葉だ。
人は幸せだと満足して、誰かに突っかかることなんてしないだろう。
ゆっくりと立ち上がり、美しいカーテシーをしてみせる。
顔を上げて、フィリベルトさまと一緒に書斎をあとにした。
ローレンは「ここはお任せください」と微笑んだので、彼女に任せることにして、玄関に向かいメイドや執事たちに声をかける。
「今まで、大変お世話になりました。これからは、フローラさまがこの離宮に通うことになると思いますので、よろしくお願いいたします」
「リディアさま……」
「こちらこそ、リディアさまには大変よくしていただきました。あなたの努力を、我々はよく知っています」
離宮のメイド長が私の前に立ち、深々と頭を下げた。
ふるふると首を横に振り、彼女の肩に手を添える。
「……そう言ってくれて、嬉しいです。殿下は私の努力に気づいてくださらなかったから……」
努力している姿を見ていてくれた。認めてくれた。
それだけで、どうしてこんなに、目頭が熱くなるのかしら。
「今まで本当にありがとうございました。――ごきげんよう」
肩から手を離し、別れの挨拶をすると、みんな寂しそうな笑顔を浮かべながらも、「リディアさまの幸せを、願っています」と使用人一同を代表するように、メイド長が言葉をかけてくれた。
執事が玄関の扉を開け、迎えにきていた馬車に乗って屋敷に帰る。フィリベルトさまと一緒に。
馬車の窓から外を眺めると、夕日が沈んでいくところだった。
今日のことを思い返し、ちょっとだけ、気持ちがすっと軽くなったわ。
「……面白いものが見られたね」
「本当に。でも、これで悔いはありませんわ」
フィリベルトさまに声をかけられて、彼を正視して微笑む。どこか心配そうなまなざしを注ぎながら、「本当に?」と問われた。
「ええ。……私は、アレクシス殿下に知っていただきたかったのかもしれません。隣に立つために努力したことを。ほら、あの方、そういうことには疎いので……」
「貴女は本当に……努力家なんだな。羨ましいくらいだ」
「羨ましい、ですか?」
「リディア嬢が王妃になれば、この国の民は幸せだったろう」
……そんなふうに言われたのは、初めて。
まっすぐな言葉に、顔が熱い。『がんばったね』と認められた気がして、きゅっと唇を噛み締めた。
……王族として、その読みやすい表情はどうかと思います。教えないけどさ。
「フローラさま、もう魅了の魔法は使わないでくださいね。では、殿下とお幸せに」
――これは、心からの言葉だ。
人は幸せだと満足して、誰かに突っかかることなんてしないだろう。
ゆっくりと立ち上がり、美しいカーテシーをしてみせる。
顔を上げて、フィリベルトさまと一緒に書斎をあとにした。
ローレンは「ここはお任せください」と微笑んだので、彼女に任せることにして、玄関に向かいメイドや執事たちに声をかける。
「今まで、大変お世話になりました。これからは、フローラさまがこの離宮に通うことになると思いますので、よろしくお願いいたします」
「リディアさま……」
「こちらこそ、リディアさまには大変よくしていただきました。あなたの努力を、我々はよく知っています」
離宮のメイド長が私の前に立ち、深々と頭を下げた。
ふるふると首を横に振り、彼女の肩に手を添える。
「……そう言ってくれて、嬉しいです。殿下は私の努力に気づいてくださらなかったから……」
努力している姿を見ていてくれた。認めてくれた。
それだけで、どうしてこんなに、目頭が熱くなるのかしら。
「今まで本当にありがとうございました。――ごきげんよう」
肩から手を離し、別れの挨拶をすると、みんな寂しそうな笑顔を浮かべながらも、「リディアさまの幸せを、願っています」と使用人一同を代表するように、メイド長が言葉をかけてくれた。
執事が玄関の扉を開け、迎えにきていた馬車に乗って屋敷に帰る。フィリベルトさまと一緒に。
馬車の窓から外を眺めると、夕日が沈んでいくところだった。
今日のことを思い返し、ちょっとだけ、気持ちがすっと軽くなったわ。
「……面白いものが見られたね」
「本当に。でも、これで悔いはありませんわ」
フィリベルトさまに声をかけられて、彼を正視して微笑む。どこか心配そうなまなざしを注ぎながら、「本当に?」と問われた。
「ええ。……私は、アレクシス殿下に知っていただきたかったのかもしれません。隣に立つために努力したことを。ほら、あの方、そういうことには疎いので……」
「貴女は本当に……努力家なんだな。羨ましいくらいだ」
「羨ましい、ですか?」
「リディア嬢が王妃になれば、この国の民は幸せだったろう」
……そんなふうに言われたのは、初めて。
まっすぐな言葉に、顔が熱い。『がんばったね』と認められた気がして、きゅっと唇を噛み締めた。
480
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
悪役令嬢に相応しいエンディング
無色
恋愛
月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。
ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。
さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。
ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。
だが彼らは愚かにも知らなかった。
ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。
そして、待ち受けるエンディングを。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
悪役令嬢?いま忙しいので後でやります
みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった!
しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢?
私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる