【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

秋月一花

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3章:竜の国 ユミルトゥス

ご挨拶 3話

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 ……ただ、幼い頃に会ったこと、あるのか覚えていない。記憶をたどっても思い出せなくて、そのことに気づいたのか、フィリベルトさまはちょっとだけ寂しそうに微笑む。

「やっぱり覚えていないか。竜を怖がっていたもんね」

 竜を怖がる……? 幼い頃の記憶を掘り返してみる。私が『リディア』になる前の記憶。

 ちゃんと『リディア』の記憶もある。こうして話せるし、文字だって読み書きできる。

 いや、それは、今はどうでもよくてね。……そういえば昔、国境近くまで行ったことがあったような……?

 そう、お母様が亡くなってしばらくしたあと、塞ぎ込んでいたお兄さまと私を気遣って、お父さまが遠出させてくれたことがあった。

 もしかして、そのときかしら?

 そのときなら、竜を怖がるのもわかる。自分よりも何倍も大きいから……

 今の私にとって、竜は可愛くて神秘的な存在なんだけどね。

「すみません、覚えておりません……」
「いえ、そう思っていたので。私が勝手に一目惚れをして、探しただけですので」
「ユミルトゥスの方は一途というのは、本当でしたのね……」

 マダムに聞いたことを思い出してつぶやくと、三人ともキョトンとした表情になった。

 そんなふうに言われていることを、知らなかったのかもしれない。

 でも本当に……よく覚えていたわね、私のこと。

 ちょっとビックリしちゃう。

 それに比べて私は……覚えていなくて、ごめんなさい。

 会った覚えがあるような、ないような……本当に幼い頃の話だから、なにかのはずみで思い出す可能性も、あるかもしれないわね。

「一途、か。確かにそうかもしれないな」
「ええ、そうですわね。私たちは『運命』を信じているから」

 すっとクッキーを摘まんで、隣の公爵に「あーん」と勧める公爵夫人。

 ぱくっと口にする公爵。

 ら、ラブラブだぁ……!

 どこか呆れたように自身の両親を眺めるフィリベルトさま。

 もしかして、これが彼の『普通』なのかしら?

 前世は日本人だったし、仕事が恋人な人生だったから、こういうラブラブイチャイチャは創作の中でしか見たことがないのよね。

 そりゃあ、乙女ゲームの中では、攻略対象と主人公をイチャイチャさせたけど。

 ちなみに私は主人公=自分ではなく、主人公は主人公と考えるタイプ。

 なので、無個性ではなく、しっかりとキャラ付けされている主人公が好きだった。

 その点、この乙女ゲームの主人公、フローラはしっかりと主人公らしいキャラで大好きだったんだけどなぁ。ゲームの彼女と、この世界の彼女はまったくの別人だ。

 ゲームのフローラは、明るくて優しくて、どんな人にも手を差し伸べる女性だった。そう、どんな人にも……それがたとえ、悪い人でも。

 乙女ゲームだからね。そういう悪い人たちは、フローラの優しさに触れて改心するのよね。

 とはいえ、この世界で彼女がどういう行動を起こしていたのか、私にはさっぱりわからないわ。
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