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3章:竜の国 ユミルトゥス
乙女な部屋 1話
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「うふふ、そうねぇ。そういうのは結婚してからね。さぁ、リディアちゃん、ついてきて。案内するわ」
「お、お願いします」
すくっと立ち上がり、公爵夫人と一緒に応接室を出る。
公爵とフィリベルトさまに頭を下げてから、ね。
フィリベルトさまは立ち上がりかけたけど、公爵夫人が後ろを振り返り、彼をじっと見つめて緩やかに首を左右に振った。
廊下に出て、パタン、と小さな音を立てて扉が閉まる。
「リディアちゃんの趣味がどんなものなのかわからないから、私の趣味にしちゃったけれど……良かったら使ってね」
うふふ、と楽しそうに笑う公爵夫人は、公爵から愛されている自信があるからか、とても美しく見えた。
ゆっくりと息を吐き、羨望のまなざしで彼女を見つめてしまう。
「どうしたの?」
「あ、いえ。公爵夫人があまりにも美しくて……」
するりと言葉がこぼれ落ちた。
公爵夫人はキョトンとした表情を浮かべて、それから「まぁっ」と弾んだ声で私の肩を軽く叩く。
そっと肩から腕、腕から手に移動して、きゅっと手を握られた。
「大丈夫よ、リディアちゃん。あなたもすぐに、もっと美しくなれるわ」
にこりと微笑む姿は、確信を得ている強い瞳が印象的だった。
どうしてそう思うのかしら? と首をかしげると、彼女は私の手を引いて歩き出す。
「だってリディアちゃんは、フィリベルトに愛されるんだもの」
あまりにも明るく言われて、「え?」と目を瞬かせた。
「そうそう、私のことはエステルって呼んでね。挨拶の場なのに、名乗っていなかったわよね、私たち。夫はアーノルドという名前よ」
そういえば、そうだった。
「エステルさまとアーノルドさまですね」
緊張していて、名前を尋ねなかったことを反省し、彼女たちの前を頭に刻みつける。
「そのうち、『お義母さま』や『お義父さま』って呼ばれるのかしら、うふふ」
むしろ、そう呼ばれたいような感じだった。だって、あまりにも明るい声だったから。
「あ、ここよ。一応、フィリベルトの部屋の近くにしたわ。だから、寝るときはちゃんと鍵をかけてね」
「え、ええ……」
「婚約は許可したけれど、油断は禁物よ。男はケダモノになるときがあるもの。あ、それは女もだけどね」
それはつまり……と考えて、頬に熱が集まるのを感じた。
私がなにを考えているのか察したであろうエステルさまは、ちらりとこちらを見て扉を開ける。
視界に入ってきたのは――……これぞ、女の子の部屋!
という可愛らしいベビーピンクとフリルをたっぷりと使ったインテリアだった。
どうやら、エステルさまは可愛いものが大好きみたい。
「ど、どうかしら? 気に入らない?」
不安そうに瞳を揺らしながら問いかける彼女に、慌てて両手を振った。
「とても可愛らしい部屋だと思います。私は好きですよ」
こういう乙女っぽい部屋、前世で子どもの頃、憧れていたのよね。お姫さまみたいで。
「お、お願いします」
すくっと立ち上がり、公爵夫人と一緒に応接室を出る。
公爵とフィリベルトさまに頭を下げてから、ね。
フィリベルトさまは立ち上がりかけたけど、公爵夫人が後ろを振り返り、彼をじっと見つめて緩やかに首を左右に振った。
廊下に出て、パタン、と小さな音を立てて扉が閉まる。
「リディアちゃんの趣味がどんなものなのかわからないから、私の趣味にしちゃったけれど……良かったら使ってね」
うふふ、と楽しそうに笑う公爵夫人は、公爵から愛されている自信があるからか、とても美しく見えた。
ゆっくりと息を吐き、羨望のまなざしで彼女を見つめてしまう。
「どうしたの?」
「あ、いえ。公爵夫人があまりにも美しくて……」
するりと言葉がこぼれ落ちた。
公爵夫人はキョトンとした表情を浮かべて、それから「まぁっ」と弾んだ声で私の肩を軽く叩く。
そっと肩から腕、腕から手に移動して、きゅっと手を握られた。
「大丈夫よ、リディアちゃん。あなたもすぐに、もっと美しくなれるわ」
にこりと微笑む姿は、確信を得ている強い瞳が印象的だった。
どうしてそう思うのかしら? と首をかしげると、彼女は私の手を引いて歩き出す。
「だってリディアちゃんは、フィリベルトに愛されるんだもの」
あまりにも明るく言われて、「え?」と目を瞬かせた。
「そうそう、私のことはエステルって呼んでね。挨拶の場なのに、名乗っていなかったわよね、私たち。夫はアーノルドという名前よ」
そういえば、そうだった。
「エステルさまとアーノルドさまですね」
緊張していて、名前を尋ねなかったことを反省し、彼女たちの前を頭に刻みつける。
「そのうち、『お義母さま』や『お義父さま』って呼ばれるのかしら、うふふ」
むしろ、そう呼ばれたいような感じだった。だって、あまりにも明るい声だったから。
「あ、ここよ。一応、フィリベルトの部屋の近くにしたわ。だから、寝るときはちゃんと鍵をかけてね」
「え、ええ……」
「婚約は許可したけれど、油断は禁物よ。男はケダモノになるときがあるもの。あ、それは女もだけどね」
それはつまり……と考えて、頬に熱が集まるのを感じた。
私がなにを考えているのか察したであろうエステルさまは、ちらりとこちらを見て扉を開ける。
視界に入ってきたのは――……これぞ、女の子の部屋!
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どうやら、エステルさまは可愛いものが大好きみたい。
「ど、どうかしら? 気に入らない?」
不安そうに瞳を揺らしながら問いかける彼女に、慌てて両手を振った。
「とても可愛らしい部屋だと思います。私は好きですよ」
こういう乙女っぽい部屋、前世で子どもの頃、憧れていたのよね。お姫さまみたいで。
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