【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

秋月一花

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3章:竜の国 ユミルトゥス

夢の中で 1話

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 ……でもやっぱり、婚約者に裏切られるのも、ヒロインが魅了の魔法を使っていたことをも、『リディア』にとってはつらいことだったのよね。

 そっと自分の胸元に手を置いて、ゆっくりと目を伏せる。

 ――ねぇ、リディア。あなたは本当に、このままでいいの――……?

 心の中で、そう問いかける。返事はない。

 前世の記憶を思い出した私の中に、きちんと『リディア』の記憶もあるから、強くそう思ってしまうのかもしれない。

 アレクシス殿下の裏切りで、『リディア』は強いショックを受けてしまい、私になった。

 十六歳のリディアとは違い、前世の私は社会人だったから、この現実を受け止めることができたのだろう。

 ゲームでは追放されて終わり。でも、彼女のその後の人生は、どんなものだったのかしら。

「お嬢さま?」
「……移動が続いて疲れちゃった。二人とも、ゆっくり休んでね」
「……はい。では、私たちはこれで」
「お嬢さま、ゆっくり休んでくださいね」

 ローレンとチェルシーが、それぞれ優しい声色で私に声をかけ、部屋から出ていく。

 その音を聞きながら、深呼吸を繰り返した。

 フィリベルトさまの生家についたら、家族に手紙を書こうと思っていたのだけど……今は、ちょっと休みたい。

 ソファから立ち上がり、ベッドに向かう。

 ぽすっと体をベッドに預けると、すぐに睡魔が襲ってきた。

 そういえば私、前世でも国外旅行したことないわ。

 緊張していてピンと張っていた糸が、ふにゃりと緩んでしまったのかも。

 そんなことを考えていたのだけど――気がついたら、私は眠ってしまった。

 ◆◆◆

 ――そこは、夢の中だった。

 なぜ夢なのかと気づいたかといえば、鏡合わせのようにリディアがいたからだ。

「……ごきげんよう、私」
「……ごきげんよう、リディア」

 毎日、鏡で見ている顔と身体。

 だけど、雰囲気はまるで違う。

 私の目の前にいる『リディア』は、今にも消えてしまいそうなはかなさを感じた。

「……ねぇ、一つ、教えて」
「……なにを?」
「私のなにが、ダメだったのかしら」

 ぽろり、と涙が彼女の目から流れた。――ああ、彼女は本当に、アレクシス殿下のことを慕っていたんだ。そっと彼女に手を伸ばす。

「あなたがダメだったわけではないわ。フローラが魅了の魔法を使っていたの」
「魅了の魔法だからって、あんなに骨抜きになるの?」

 魅了の魔法は他の人を惹きつけて離さないと教わっている。だからこそ、危険なのだと。

 好きな人によく想われたいというのは、誰にでもある感情だろう。

 だが、その想いを正当化して、人を傷つけることをする――そういう人も多いのだと、教わった。

「きっと殿下は、私よりも彼女に惹かれていたんだわ。だから私とのお茶会も、エスコートも嫌な顔をしていたの」

 はらはらと流れる大粒の涙を拭い、ぎゅっと抱きしめる。

 彼女は一瞬身体を強張こわばらせたけれど、すぐに力を抜いて泣き続けた。

 慰めるようにぽんぽんと背中を優しく叩くと、彼女はますます泣いてしまった。

 きっと、自分の感情にふたをして、今まで我慢していたのだろう。

 婚約破棄を宣言された日、涙を流したことを思い出した。
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