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4章:これは、私の恋物語
これは、私の恋物語 2話
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ゴーン、ゴーン、と鐘の音が響く。
「……そろそろ時間だね」
「はい」
「それじゃあ、リディア。今日の主役はリディアとフィリベルトさんだ。しっかりね」
「……はい、お父さま。しっかりと、見守ってくださいませね」
そっと首元のネックレスに触れる。……少しだけ考えて、私はそのネックレスを外して、お父さまに差し出した。
「リディア?」
「……お父さま、お母さまと一緒に、見守ってくださいませんか?」
婚約式をすることになって、ずっと悩んでいたこと。
お母さまの形見のネックレスを身につけて婚約式をするのではなく、お父さまがこのネックレスを持って参加してくれたほうがいいのではないかな、と。
「だが、それだと首元が……」
「大丈夫です。ちゃんと、代わりのネックレスがあります」
ローレンに視線を移すと、彼女はお父さまにガーネットのネックレスを差し出した。
「……フィリベルトさんの髪色だね」
「はい。……ですので、どうかお母さまと一緒に」
「わかった。……ありがとう、リディア」
お父さまの声は、少しだけ震えていた。でも、しっかりとネックレスを持って、お兄さまと部屋から出ていく。
その後ろ姿を見送って、ローレンとチェルシーに笑いかける。
「こんなにきれいにしてくれて、ありがとう。二人とも、最高の侍女だわ」
「お嬢さま……!」
「ありがとうございます……!」
二人に感謝の気持ちを伝えて、私は神殿の神官に案内されて、フィリベルトさまのもとに向かう。
ドキドキ、と鼓動が大きくなる。婚約式が始まるのだと思うと、緊張してきたわ……!
神官が扉を開けた。扉のすぐそばにフィリベルトさまがいて、私のことを見ると一瞬見惚れたように頬を赤く染め、そっと私に手を差し出す。
その手を取って、ゆっくりと歩く。
神殿の礼拝堂を借りて、両家の家族だけで行う、婚約式。
目的の位置まで移動すると、司祭がすぅ、と息を吸って厳かな言葉で宣言をする。
「これより、フィリベルト・スターリングとリディア・フローレンスの婚約式を始めます」
一度言葉を切り、司祭はすっと講壇に置かれた紙に視線を落としてから、にこりと微笑みを浮かべた。
「誓いの言葉を」
「――私、フィリベルト・スターリングは、リディア・フローレンスを生涯愛し、守り抜くことを誓います」
「――私、リディア・フローレンスは、フィリベルト・スターリングを愛し続け、互いに支え合うことを誓います」
フィリベルトさまと視線を交わし、二人で声を揃えて最後の言葉を口にする。
「まだまだ未熟な私たちですが、みなさま、どうか温かい目で見守っていてください」
この誓いの言葉は、二人で考えたもの。パチパチパチ……と家族から拍手をもらい、司祭が言葉を続けた。
「それでは、こちらの婚姻宣誓に署名をお願いします」
こくり、とうなずいて、フィリベルトさま、私の順で講壇に置かれた紙に自分の名前を綴る。
司祭は紙を手にして、この場にいる私たちの家族に見せるように掲げた。
「フィリベルト・スターリングと、リディア・フローレンスの婚約が成立したことを、ここに宣言します!」
――……これで、本当に私とフィリベルトさまは、婚約したのね……
「続いて、婚約記念品の交換です」
そうだった。まだ婚約式は終わっていない。
フィリベルトさまは婚約指輪を、私は……自分の瞳の色であるエメラルドグリーンのブレスレットを用意した。
それぞれ交換を終え、くるりと後ろを振り返り、参加してくれた両家の人たちに向けて、満面の笑みを浮かべてみせる。
「みなさま、本日は私たちの婚約式に参列していただき、本当にありがとうございます」
「二人でこれからの未来を築いていきます。温かな目で婚約式を見守っていただき、ありがとうございます」
すっと頭を下げると、再びパチパチパチ……と拍手の音が礼拝堂に響いた。
顔を上げると、満足げな様子の家族の顔が視界に入り、心がポカポカと温かくなる。
退場する流れになり、家族に感謝の印であるダリアを渡しながら、礼拝堂から廊下へと移動した。
パタン、と扉が閉まり、私とフィリベルトさまは顔を見合わせて、「お疲れさまでした」と同じ言葉を紡ぐ。
ふふ、と小さく笑って、互いの顔を近づけ、唇を重ねた。誰も見ていない、私たちだけの誓い。
――ああ、私、幸せだわ――……
この幸せな気持ちを、ずっと覚えていたい。そう、願った。
「……そろそろ時間だね」
「はい」
「それじゃあ、リディア。今日の主役はリディアとフィリベルトさんだ。しっかりね」
「……はい、お父さま。しっかりと、見守ってくださいませね」
そっと首元のネックレスに触れる。……少しだけ考えて、私はそのネックレスを外して、お父さまに差し出した。
「リディア?」
「……お父さま、お母さまと一緒に、見守ってくださいませんか?」
婚約式をすることになって、ずっと悩んでいたこと。
お母さまの形見のネックレスを身につけて婚約式をするのではなく、お父さまがこのネックレスを持って参加してくれたほうがいいのではないかな、と。
「だが、それだと首元が……」
「大丈夫です。ちゃんと、代わりのネックレスがあります」
ローレンに視線を移すと、彼女はお父さまにガーネットのネックレスを差し出した。
「……フィリベルトさんの髪色だね」
「はい。……ですので、どうかお母さまと一緒に」
「わかった。……ありがとう、リディア」
お父さまの声は、少しだけ震えていた。でも、しっかりとネックレスを持って、お兄さまと部屋から出ていく。
その後ろ姿を見送って、ローレンとチェルシーに笑いかける。
「こんなにきれいにしてくれて、ありがとう。二人とも、最高の侍女だわ」
「お嬢さま……!」
「ありがとうございます……!」
二人に感謝の気持ちを伝えて、私は神殿の神官に案内されて、フィリベルトさまのもとに向かう。
ドキドキ、と鼓動が大きくなる。婚約式が始まるのだと思うと、緊張してきたわ……!
神官が扉を開けた。扉のすぐそばにフィリベルトさまがいて、私のことを見ると一瞬見惚れたように頬を赤く染め、そっと私に手を差し出す。
その手を取って、ゆっくりと歩く。
神殿の礼拝堂を借りて、両家の家族だけで行う、婚約式。
目的の位置まで移動すると、司祭がすぅ、と息を吸って厳かな言葉で宣言をする。
「これより、フィリベルト・スターリングとリディア・フローレンスの婚約式を始めます」
一度言葉を切り、司祭はすっと講壇に置かれた紙に視線を落としてから、にこりと微笑みを浮かべた。
「誓いの言葉を」
「――私、フィリベルト・スターリングは、リディア・フローレンスを生涯愛し、守り抜くことを誓います」
「――私、リディア・フローレンスは、フィリベルト・スターリングを愛し続け、互いに支え合うことを誓います」
フィリベルトさまと視線を交わし、二人で声を揃えて最後の言葉を口にする。
「まだまだ未熟な私たちですが、みなさま、どうか温かい目で見守っていてください」
この誓いの言葉は、二人で考えたもの。パチパチパチ……と家族から拍手をもらい、司祭が言葉を続けた。
「それでは、こちらの婚姻宣誓に署名をお願いします」
こくり、とうなずいて、フィリベルトさま、私の順で講壇に置かれた紙に自分の名前を綴る。
司祭は紙を手にして、この場にいる私たちの家族に見せるように掲げた。
「フィリベルト・スターリングと、リディア・フローレンスの婚約が成立したことを、ここに宣言します!」
――……これで、本当に私とフィリベルトさまは、婚約したのね……
「続いて、婚約記念品の交換です」
そうだった。まだ婚約式は終わっていない。
フィリベルトさまは婚約指輪を、私は……自分の瞳の色であるエメラルドグリーンのブレスレットを用意した。
それぞれ交換を終え、くるりと後ろを振り返り、参加してくれた両家の人たちに向けて、満面の笑みを浮かべてみせる。
「みなさま、本日は私たちの婚約式に参列していただき、本当にありがとうございます」
「二人でこれからの未来を築いていきます。温かな目で婚約式を見守っていただき、ありがとうございます」
すっと頭を下げると、再びパチパチパチ……と拍手の音が礼拝堂に響いた。
顔を上げると、満足げな様子の家族の顔が視界に入り、心がポカポカと温かくなる。
退場する流れになり、家族に感謝の印であるダリアを渡しながら、礼拝堂から廊下へと移動した。
パタン、と扉が閉まり、私とフィリベルトさまは顔を見合わせて、「お疲れさまでした」と同じ言葉を紡ぐ。
ふふ、と小さく笑って、互いの顔を近づけ、唇を重ねた。誰も見ていない、私たちだけの誓い。
――ああ、私、幸せだわ――……
この幸せな気持ちを、ずっと覚えていたい。そう、願った。
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