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さんしょう!
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しずしずと入ってきた娘は天使のように美しかった。
ピンクがかった金の髪、透き通るように青い瞳、優美な弧を描く眉、すっと通った鼻筋に、小さめで形のよい口。
少し頭を下げているので、背の高いマクシミリアンからは、この世の物とも思えぬ美貌はまだ見えていないだろう。
<いやまあ、実際この世のものじゃないけど。お久しぶりね、ミア。全く変わっていなくて、わたしある意味で感動しているわ>
ティーワゴンのそばで侍女らしく背筋を伸ばし、アリーは己の心の中で燃え盛る炎の声を聴いた。
ほっそりとした体つきから繰り出される優美極まりない動作で、娘が礼儀にのっとった挨拶をする。
「はじめまして、王太子様。お会いできて光栄です。ジャスパー・ヘイブンの養女、ミアでございます」
「ようこそ、ミア嬢。ジャスパーが養女を迎えたとは聞いていなかったな。奇跡を起こしたということは、君は治癒魔法が使えるのか」
ミアがゆっくり頭を上げる。ほんのりと赤く染まった頬、娘らしくはにかんだ顔が、俺様系マクシミリアンを捉えて一瞬「あれ」という表情に変わった。
《この娘、今心の中で『聞いてた話と違う』と思ってますよ。そして『まあこれはこれでカッコいいからいっか』とポジティブシンキングしてますね》
<凄いねアベル、心の声の実況中継ができるんだ>
《向かうところ敵なしという妙な自信があるらしく、心のガードが緩いんですよ。今だけのことかもしれませんが》
ミアの周囲で光がきらっきら瞬いている。アリーには光属性が無いからその姿ははっきり分からないが、あれが彼女の守護天使だろう。
「殿下、ミアは大変美しい娘でございますでしょう! その上世にも稀な治癒能力を、無尽蔵に使うことができるのです! はは、そのように目を細められて。天女もかくやという男の夢を具現化したようなミアの美貌に、目がくらんでおられるのですな!」
「そんなお義父様ったら、わたくし照れてしまいます……」
ミアがわざとらしく身をよじる。アリーは内心で「けっ!」と息を吐いた。
やはりこの女、とりあえず呪われろと念じたくなるほどの『ぶりっ子』だ。女には最も嫌われるが、男には最も愛されるタイプ。
「まあたしかに、美しいと言えば美しいのかもしれないな。才能もあるようだから、魔法研究院にでも入れてやるといい」
礼儀として同意しました、と言わんばかりの口調でマクシミリアンがミアを一瞥した。そのあまりのそっけなさに、ミアがまた「あれ」という顔をする。
義父であるジャスパーの目を覗き込んでうなずき、それからマクシミリアンの目を見て、ミアは小さく首を傾げた。
<魅了魔法が効いてないことを不思議がってるんだっ!>
アリーが脳内で叫ぶと、黒点がのんびりした声で答えた。
《ピンポン、ご明察です。ヘイヴン伯爵の目の中央に、おかしな色が浮かんでいるでしょう。空虚というか、深閑とした闇が広がっているというか。あれが、魅了されている証ですよ。今の王太子様には、どうやら効かないっぽいですね。筋肉ガードは健在のようです》
ミアは体をもじもじさせながら、焦ったように高速瞬きを繰り返している。なるほど眼差しひとつで魅了できるのか、と新たな発見をしつつ、アリーはしれっとした顔で立っているマクシミリアンを見つめた。
「まあせっかく来たのだから、茶でも飲んでいけ。アリー、そっちのテーブルに──」
「で、殿下っ! 実はこのミア、ただ治癒能力があるだけではないのです。なんと、なんとですよ、ミアは異世界から落ちてきた、神の使いなのでございますっ!!」
「なに?」
四天王を伴ってテーブルに移動しかけたマクシミリアンが、ヘイヴン伯爵の言葉に驚いたように振り返った。
ミアが「我が意を得たり」とばかりに微笑む。だが次の瞬間、マクシミリアンはミアの思惑とはまったく異なる行動に出た。
「精霊たち、結界防壁がほしいですっ! 土、水、風、火、全員力を合わせてあの娘を包み込んでくれっ!」
可愛い孫の懇願に、レジェンドたちが合点承知の助とばかりに魔法を展開した。ミアが笑みを張り付かせたまま「え」と口にした瞬間、彼女の体は円形の結界防壁に取り囲まれた。ついでにヘイヴン伯爵も取り囲まれた。
「クリス、ただちに衛生兵を呼べ。あの二人をすみやかに医療院に運ぶんだっ!」
「はっ!」
ここは空気を読んで「押忍っ!」とは答えなかった天才クリスが、衛生兵を呼びつけるための風魔法を展開する。すぐに声が届いたのか、廊下の向こうが騒がしくなってきた。
「で、殿下、これは一体──」
ヘイヴン伯爵が透明な結界の壁を叩いた。ミアは呆然と座り込んでいる。
「ジャスパー、見損なったぞ。お前だから家族の付き添いを許したというのに。この娘が真に異世界人であるというのなら、なぜ易々と王太子に近づけた。はっきり言って得体が知れなさすぎるだろうがっ!」
《ごもっともだな》
たっくんがつぶやいた。たしかに異世界人、この世界にどんな影響をもたらすかまったくわからない。落ちてきてすぐ異能が使えたからといってチヤホヤするのは、国防とか検疫とかその他もろもろの観点から考えても「ありえない」ことだ。
アリーも呆然としてマクシミリアンを見た。10回目の彼は、あまりにも真っ当すぎる王太子だった。非常識すぎるほどの筋肉があること以外は。
心洗われる、と思った。聖女ミアを前にして、こんなに胸のすく思いを味わえるだなんて。アリーは思わず胸に両手を当てて、全身を貫く「じーん」と痺れるほどの気持ちよさを堪能した。
ピンクがかった金の髪、透き通るように青い瞳、優美な弧を描く眉、すっと通った鼻筋に、小さめで形のよい口。
少し頭を下げているので、背の高いマクシミリアンからは、この世の物とも思えぬ美貌はまだ見えていないだろう。
<いやまあ、実際この世のものじゃないけど。お久しぶりね、ミア。全く変わっていなくて、わたしある意味で感動しているわ>
ティーワゴンのそばで侍女らしく背筋を伸ばし、アリーは己の心の中で燃え盛る炎の声を聴いた。
ほっそりとした体つきから繰り出される優美極まりない動作で、娘が礼儀にのっとった挨拶をする。
「はじめまして、王太子様。お会いできて光栄です。ジャスパー・ヘイブンの養女、ミアでございます」
「ようこそ、ミア嬢。ジャスパーが養女を迎えたとは聞いていなかったな。奇跡を起こしたということは、君は治癒魔法が使えるのか」
ミアがゆっくり頭を上げる。ほんのりと赤く染まった頬、娘らしくはにかんだ顔が、俺様系マクシミリアンを捉えて一瞬「あれ」という表情に変わった。
《この娘、今心の中で『聞いてた話と違う』と思ってますよ。そして『まあこれはこれでカッコいいからいっか』とポジティブシンキングしてますね》
<凄いねアベル、心の声の実況中継ができるんだ>
《向かうところ敵なしという妙な自信があるらしく、心のガードが緩いんですよ。今だけのことかもしれませんが》
ミアの周囲で光がきらっきら瞬いている。アリーには光属性が無いからその姿ははっきり分からないが、あれが彼女の守護天使だろう。
「殿下、ミアは大変美しい娘でございますでしょう! その上世にも稀な治癒能力を、無尽蔵に使うことができるのです! はは、そのように目を細められて。天女もかくやという男の夢を具現化したようなミアの美貌に、目がくらんでおられるのですな!」
「そんなお義父様ったら、わたくし照れてしまいます……」
ミアがわざとらしく身をよじる。アリーは内心で「けっ!」と息を吐いた。
やはりこの女、とりあえず呪われろと念じたくなるほどの『ぶりっ子』だ。女には最も嫌われるが、男には最も愛されるタイプ。
「まあたしかに、美しいと言えば美しいのかもしれないな。才能もあるようだから、魔法研究院にでも入れてやるといい」
礼儀として同意しました、と言わんばかりの口調でマクシミリアンがミアを一瞥した。そのあまりのそっけなさに、ミアがまた「あれ」という顔をする。
義父であるジャスパーの目を覗き込んでうなずき、それからマクシミリアンの目を見て、ミアは小さく首を傾げた。
<魅了魔法が効いてないことを不思議がってるんだっ!>
アリーが脳内で叫ぶと、黒点がのんびりした声で答えた。
《ピンポン、ご明察です。ヘイヴン伯爵の目の中央に、おかしな色が浮かんでいるでしょう。空虚というか、深閑とした闇が広がっているというか。あれが、魅了されている証ですよ。今の王太子様には、どうやら効かないっぽいですね。筋肉ガードは健在のようです》
ミアは体をもじもじさせながら、焦ったように高速瞬きを繰り返している。なるほど眼差しひとつで魅了できるのか、と新たな発見をしつつ、アリーはしれっとした顔で立っているマクシミリアンを見つめた。
「まあせっかく来たのだから、茶でも飲んでいけ。アリー、そっちのテーブルに──」
「で、殿下っ! 実はこのミア、ただ治癒能力があるだけではないのです。なんと、なんとですよ、ミアは異世界から落ちてきた、神の使いなのでございますっ!!」
「なに?」
四天王を伴ってテーブルに移動しかけたマクシミリアンが、ヘイヴン伯爵の言葉に驚いたように振り返った。
ミアが「我が意を得たり」とばかりに微笑む。だが次の瞬間、マクシミリアンはミアの思惑とはまったく異なる行動に出た。
「精霊たち、結界防壁がほしいですっ! 土、水、風、火、全員力を合わせてあの娘を包み込んでくれっ!」
可愛い孫の懇願に、レジェンドたちが合点承知の助とばかりに魔法を展開した。ミアが笑みを張り付かせたまま「え」と口にした瞬間、彼女の体は円形の結界防壁に取り囲まれた。ついでにヘイヴン伯爵も取り囲まれた。
「クリス、ただちに衛生兵を呼べ。あの二人をすみやかに医療院に運ぶんだっ!」
「はっ!」
ここは空気を読んで「押忍っ!」とは答えなかった天才クリスが、衛生兵を呼びつけるための風魔法を展開する。すぐに声が届いたのか、廊下の向こうが騒がしくなってきた。
「で、殿下、これは一体──」
ヘイヴン伯爵が透明な結界の壁を叩いた。ミアは呆然と座り込んでいる。
「ジャスパー、見損なったぞ。お前だから家族の付き添いを許したというのに。この娘が真に異世界人であるというのなら、なぜ易々と王太子に近づけた。はっきり言って得体が知れなさすぎるだろうがっ!」
《ごもっともだな》
たっくんがつぶやいた。たしかに異世界人、この世界にどんな影響をもたらすかまったくわからない。落ちてきてすぐ異能が使えたからといってチヤホヤするのは、国防とか検疫とかその他もろもろの観点から考えても「ありえない」ことだ。
アリーも呆然としてマクシミリアンを見た。10回目の彼は、あまりにも真っ当すぎる王太子だった。非常識すぎるほどの筋肉があること以外は。
心洗われる、と思った。聖女ミアを前にして、こんなに胸のすく思いを味わえるだなんて。アリーは思わず胸に両手を当てて、全身を貫く「じーん」と痺れるほどの気持ちよさを堪能した。
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