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さんしょう!
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<アリー・クルネア、恐れるな、怯えるな。わたしはアリーシア・グランツじゃない。今のお前には、あのクソ女をぶん殴れるだけの力があるじゃないか!>
スティラの匂いをすーはーしているうちに気分が落ち着いてきて、アリーはすっくと立ち上がった。
「さ、それでは西翼に戻りましょう。ヘイヴン伯爵をいつまでもお待たせするわけにはいきませんし」
脳内から何かおかしな物質がにじみ出てきたのを感じる。恐怖心の向こう側、ハイテンションの極みへと導く何か。
今度の人生こそ聖女ミアの一挙手一投足を見逃さない、という妙な使命感が湧いてきた。
「ああ、そうだな。ジャスパーがわざわざ来たというのなら、よほどの用事があるのだろう」
やっぱり、と思いつつアリーはうなずいた。
マクシミリアンがヘイヴン伯爵の訪問を断るわけがないのだ。元騎士のジャスパー・ヘイヴンは幼少期の守り役兼護衛で、彼にとっては心から信頼できる人間のひとり。
10年以上前に脳血管障害を起こして、残念なことに言語障害が残ってしまった。それで守り役を引退し、屋敷に引きこもっていたはずの人。
<そして、聖女ミアの奇跡を最初に目にした人>
光属性を意のままに操るミアの治癒魔法によって、ヘイヴン伯爵は全快する。そしてミアを養女に迎え、社交界にデビューさせるのだ。どうあっても、その流れは変わらないらしい。
アベルの転移魔法で西翼のマクシミリアンの私室に戻ると、残っていた使用人がヘイヴン伯爵の来訪と、娘が付き添っていることを報告しにきた。
マクシミリアンは娘も一緒に連れてくるように、と指示した。
「娘というのは、子爵未亡人になった長女だろう。彼女は手の動きや表情で気持ちを伝えてくるジャスパーを、献身的に世話している。アリー、すまないがお茶の準備を頼めるだろうか」
アリーは「はい」とうなずいた。
「スティラ様、お部屋に戻って計算問題にチャレンジしてくださいませ。机の一番上の引き出しに入っておりますからね」
「えー。わたしも一緒にいちゃいけないの?」
「お客様はご病気でいらっしゃいますから……」
実際はもうすっかりお元気だろうし、付き添いは子爵未亡人ではなくミアだろう、と思いながらアリーは言葉を濁した。
スティラが「わかった」とにっこり微笑む。
「じゃあひとりでお利口さんにしてる。子どもが騒いだら、ご迷惑だもんね」
ええ子やあああああ、と思わず涙が滲んだ。
『我は存在だけで癒し効果のあるスティラこそ、光の聖女に相応しいと思うぞ』
『同感です、光の天使どもの考えることはまったく解せない。まああいつら存在自体がクソなうえ、趣味もクソ悪いですからね』
たっくんと黒点がうなずき合う。アリーも丸っと同意だが、自分の影響でアベルがクソクソ言い出したことに若干の申し訳なさを感じた。
<アベル、聖女ミアには光の天使がくっついてくるはずよ。あなたの力を疑うわけではないけれど、一旦魔界に引っ込んだ方が……>
リーダー格ジェフリーがスティラを部屋まで送ることになり、アリーは彼らが出て行くのを見届けて、心の中でアベルに呼び掛けた。どういうからくりかはわからないが、最近脳内会話が可能になってきた。
《ご心配ありがとうございます。たしかに、光の天使は私が最も苦手とする存在。ですが大丈夫です。西翼に漂う光の気配からして、確実に私の方が強いと思われます。今日ここに来ている光の天使は、うちの四天王以下ですよ》
《我は今、初めてアベルが頼もしいと感じたな。では我は、そこの棚の上で動きを止めて、剥製の真似事をしていよう》
頼もしすぎるたっくんが棚の上にスタンバイし、黒点がその後ろにふわふわと移動した。ぱっと見には黒点の存在がわからなくなった。
その次の瞬間、使用人がヘイヴン伯爵を連れてきた。私室には応接スペースがあり、寝室は扉で区切られているので、気心の知れた間柄ならここでよい──というマクシミリアンの判断だ。
「殿下! お久しぶりでございますっ!」
まず入ってきたのはヘイヴン伯爵だった。
まだアリーの父母くらいの年齢なのに、脳血管障害を起こした後は一気に老け込んで、社交界からは廃人同様の扱いを受けていた人が、元気いっぱいの足取りで声を張り上げる。
「おおお、ご立派になられて! 何とも素晴らしい男振りではありませんかっ!」
ヘイヴン伯爵が大げさに両手を広げる。
目を丸くしてその姿を見たマクシミリアンは、偽りの姿を褒めちぎられたことに苦笑を浮かべた。
しかし一度は病に倒れた人に、歴戦のつわものすら尻尾を巻いて逃げ出しそうな姿を見せるのはよろしくない、という彼なりの優しさも感じられた。
「こちらこそ驚いたぞ、ジャスパー。いったいどんな奇跡で、そんなに元気になったのだ」
「はは、やはり驚かれましたか。ええ、ええ、本当に奇跡が起こったのです。今日はその奇跡を起こした張本人を、殿下にご紹介しようと思った次第でして。さあミア! 入ってきなさいっ!」
「はい、お義父様」
開け放たれたままの扉の先から、鈴を転がすような声がした。
スティラの匂いをすーはーしているうちに気分が落ち着いてきて、アリーはすっくと立ち上がった。
「さ、それでは西翼に戻りましょう。ヘイヴン伯爵をいつまでもお待たせするわけにはいきませんし」
脳内から何かおかしな物質がにじみ出てきたのを感じる。恐怖心の向こう側、ハイテンションの極みへと導く何か。
今度の人生こそ聖女ミアの一挙手一投足を見逃さない、という妙な使命感が湧いてきた。
「ああ、そうだな。ジャスパーがわざわざ来たというのなら、よほどの用事があるのだろう」
やっぱり、と思いつつアリーはうなずいた。
マクシミリアンがヘイヴン伯爵の訪問を断るわけがないのだ。元騎士のジャスパー・ヘイヴンは幼少期の守り役兼護衛で、彼にとっては心から信頼できる人間のひとり。
10年以上前に脳血管障害を起こして、残念なことに言語障害が残ってしまった。それで守り役を引退し、屋敷に引きこもっていたはずの人。
<そして、聖女ミアの奇跡を最初に目にした人>
光属性を意のままに操るミアの治癒魔法によって、ヘイヴン伯爵は全快する。そしてミアを養女に迎え、社交界にデビューさせるのだ。どうあっても、その流れは変わらないらしい。
アベルの転移魔法で西翼のマクシミリアンの私室に戻ると、残っていた使用人がヘイヴン伯爵の来訪と、娘が付き添っていることを報告しにきた。
マクシミリアンは娘も一緒に連れてくるように、と指示した。
「娘というのは、子爵未亡人になった長女だろう。彼女は手の動きや表情で気持ちを伝えてくるジャスパーを、献身的に世話している。アリー、すまないがお茶の準備を頼めるだろうか」
アリーは「はい」とうなずいた。
「スティラ様、お部屋に戻って計算問題にチャレンジしてくださいませ。机の一番上の引き出しに入っておりますからね」
「えー。わたしも一緒にいちゃいけないの?」
「お客様はご病気でいらっしゃいますから……」
実際はもうすっかりお元気だろうし、付き添いは子爵未亡人ではなくミアだろう、と思いながらアリーは言葉を濁した。
スティラが「わかった」とにっこり微笑む。
「じゃあひとりでお利口さんにしてる。子どもが騒いだら、ご迷惑だもんね」
ええ子やあああああ、と思わず涙が滲んだ。
『我は存在だけで癒し効果のあるスティラこそ、光の聖女に相応しいと思うぞ』
『同感です、光の天使どもの考えることはまったく解せない。まああいつら存在自体がクソなうえ、趣味もクソ悪いですからね』
たっくんと黒点がうなずき合う。アリーも丸っと同意だが、自分の影響でアベルがクソクソ言い出したことに若干の申し訳なさを感じた。
<アベル、聖女ミアには光の天使がくっついてくるはずよ。あなたの力を疑うわけではないけれど、一旦魔界に引っ込んだ方が……>
リーダー格ジェフリーがスティラを部屋まで送ることになり、アリーは彼らが出て行くのを見届けて、心の中でアベルに呼び掛けた。どういうからくりかはわからないが、最近脳内会話が可能になってきた。
《ご心配ありがとうございます。たしかに、光の天使は私が最も苦手とする存在。ですが大丈夫です。西翼に漂う光の気配からして、確実に私の方が強いと思われます。今日ここに来ている光の天使は、うちの四天王以下ですよ》
《我は今、初めてアベルが頼もしいと感じたな。では我は、そこの棚の上で動きを止めて、剥製の真似事をしていよう》
頼もしすぎるたっくんが棚の上にスタンバイし、黒点がその後ろにふわふわと移動した。ぱっと見には黒点の存在がわからなくなった。
その次の瞬間、使用人がヘイヴン伯爵を連れてきた。私室には応接スペースがあり、寝室は扉で区切られているので、気心の知れた間柄ならここでよい──というマクシミリアンの判断だ。
「殿下! お久しぶりでございますっ!」
まず入ってきたのはヘイヴン伯爵だった。
まだアリーの父母くらいの年齢なのに、脳血管障害を起こした後は一気に老け込んで、社交界からは廃人同様の扱いを受けていた人が、元気いっぱいの足取りで声を張り上げる。
「おおお、ご立派になられて! 何とも素晴らしい男振りではありませんかっ!」
ヘイヴン伯爵が大げさに両手を広げる。
目を丸くしてその姿を見たマクシミリアンは、偽りの姿を褒めちぎられたことに苦笑を浮かべた。
しかし一度は病に倒れた人に、歴戦のつわものすら尻尾を巻いて逃げ出しそうな姿を見せるのはよろしくない、という彼なりの優しさも感じられた。
「こちらこそ驚いたぞ、ジャスパー。いったいどんな奇跡で、そんなに元気になったのだ」
「はは、やはり驚かれましたか。ええ、ええ、本当に奇跡が起こったのです。今日はその奇跡を起こした張本人を、殿下にご紹介しようと思った次第でして。さあミア! 入ってきなさいっ!」
「はい、お義父様」
開け放たれたままの扉の先から、鈴を転がすような声がした。
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