9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん

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ごしょう!

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「シェリーゼ様、ご機嫌麗しゅう。よろしければ、こちらの美しい乙女を紹介して頂けますか?」

 エルバート王国の第二王子、エミリオがうやうやしくお辞儀をする。エルバートの王族の血を引いているシェリーゼが、小さく眉を顰めた。

「まあ、虫のいいこと。暑苦しいのは嫌だと、まったく我が家に寄り付かなかったくせに」

「いやあ。ペンよりも重いものを持つのは、どうにも性に合わなくて。ラドフェン公爵ときたら、紅茶のお代わりを勧めるノリで鉄亜鈴てつあれいを勧めてくるじゃないですか」

 エミリオがあははと軽快に笑う。その目鼻立ちは極めて繊細、精巧に作られた人形のように整っている。抜けるように色が白く、長い睫毛が影を落とす目元には憂いがある。
 髪は淡い金髪で、腰まで届こうかという長さの髪をリボンでゆるく括っている。笑っているのに、その夜の闇のような黒い目はひどく冷たい。
 その体躯も顔立ちと雰囲気に見合ったもので、アリーが抱いた印象は「惰弱だじゃく」だった。

<これで健康体なの? この人、エルバートでは騎士団に入ってるはずなのに、ペンしか持ちたくないってなんじゃそりゃ。身のこなしも動きのキレも完全なる弱卒のそれなんだけど……>

 アリーの戸惑いを、エミリオは娘らしい恥じらいと受け取ったのだろう。シェリーゼが紹介してもいないのに、エミリオは実に王子様らしい仕草で、アリーの目の前にすっと手のひらを出した。

「アリー・クルネア男爵令嬢、なんて美しい人だ。まるで神話の戦乙女のようではありませんか。次のダンスで、あなたの手を取らせて頂けますか?」
 
 エミリオの優美な笑顔、細っこい肢体は妖しい魅力で包まれている。アリーは淑やかに微笑みながら、内心でドン引きしていた。

<動きが愚鈍! オーラ的なものはあるけど闘気ゼロ! こんな惰弱ならわたしでも血祭りにあげちゃえそう!>

《いやいやご主人、こっちの方が普通だから。王子様として備えるべき基本はバッチリだから》

《アリー、正気に戻って。筋肉特戦隊を見すぎて、とんでもない高さのハードルができちゃってますよ》

 たっくんと黒点アベルが同時に突っ込んでくる。ようやくアリーは我に返り、心の中で「危ないところだった」と汗をぬぐった。
 目の前のエミリオはこの世界では一般的な美男子なのに、マクシミリアンのごりっごりにマッチョな身体を見すぎて「貧弱貧弱ゥ!」などと思ってしまった。
 アリーはちらりとシェリーゼを見た。正直ダンスはお断りしたいが、相手は隣国の王子、オランドリアにとっては賓客だ。

「アリー、次の曲はエミリオと踊って貰えるかしら? あなたには他のお嬢さんにはない美しさがあるから、エミリオにとってはよい思い出となるでしょう」

 アリーは小さくうなずき、それから「光栄ですわ」と微笑んで、エミリオの手のひらにそっと指先を預けた。ひんやりと乾いた手のひらが、アリーの手をぎゅっと包み込む。

<うひえああああ鳥肌マックスうううううっ!>

 マクシミリアン(真実の姿)のぬめっとしてべとっとした手とは違うのに、なぜかめちゃくちゃ気持ち悪い。
 第二王子とはいえ完璧な家柄、ものすごい美貌、ひょろっとしているけど長身で、三拍子揃っているどころか三三七拍子を打ち鳴らしたいくらい見栄えのいい王子様。
 王位継承権第二位という気楽さもあってか、暇さえあれば諸国を放浪しているエミリオは、若い淑女にとっては最高に望ましい結婚相手だ。
 公爵令嬢アリーシアだった頃は、社交の場で何回か顔を見る程度で、ほとんど関わりはなかった。なぜならこのエミリオ、社交シーズン開幕直後に聖女ミアの魅了にひっかかっていたから。

<王太子マクシミリアンと、第二王子エミリオがもやし同士で火花バチバチする流れだったのに! なんでこのひと初っ端からこっちに来るのかしら!>

 三曲目の演奏が終わり、踊っていた人々が戻っていく。マクシミリアンが、礼儀正しくパートナーにお辞儀をしているのが見える。
 アリーは軽い頭痛を覚えながら、エミリオに手を引かれてダンスフロアへと歩いた。
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