9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん

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ごしょう!

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 ダンスフロアの中央に立ったエミリオは、あろうことかアリーの手を両手で包み込んだ。笑みの形に歪んだ唇が、手袋をした手の甲に落ちてくる。

「僕の心はあなたを求めて燃えているよ。実に興味深い。あの堅物をとりこにするとは。一体どんな恋の魔法を使ったのかな?」

 きょとんとするアリーを見て、エミリオは笑いを噛み殺している。次の曲が流れ始める。アリーはゆっくりとしなやかに足を上げた。

「あいてててててっ!」

「あら、ごめんあそばせ」

 「喝!」と闘気を放出することはできないので、猫脚のヒールでエミリオの爪先をぐーりぐり踏みつける。
 手の甲へのキスは敬愛の現れであり、目の前の女性がどれほど尊いかを示すもの。今日のような舞踏会なら、ダンスの終わりに「お疲れ様」的な意味で繰り出すのが一般的だ。

「ふ、面白いお嬢さんだ。まあ、じゃじゃ馬も悪くはないね。僕の心を惹き付けてやまないよ」

 気を取り直したエミリオが、近すぎるほど身体を寄せてくる。華やかに、美しく、優雅に踊りを完遂したかったが、この男は駄目だ。

<わかった。こいつはあれだ、単なる『人のものが欲しい病』だ>

 渾身の力でエミリオの手を振り払いたい。存在が気持ち悪すぎてアリーの手汗が尋常じゃなくなってきた。
 ぬめっとしてべたッとしていると思うので、エミリオの方から踊りを中断してほしいが、腐りきってても王子様、空気のごとく軽やかに、滑るようにアリーをリードする。
 大広間の一角から、こちらを射殺そうとする視線がビシバシ飛んで来る。聖女ミアであることは見なくてもわかるが、アリーはくるくる踊りながらミアの方を見た。顔つきが東洋の般若の面そっくりだった。 

<ジャンの読んでたアドベンチャーブック……。数百個の段落を順番に読むのではなく、自らの選択で段落を飛んで、物語を紡いでいく。9回断罪された公爵令嬢の記憶いさんから推測される道筋ルートというか、エンディングを迎えそうな男性は9人……>

 もちろん聖女ミアが、この世界で「遊んでいる」という確証はない。いくら聖女だからって、ひとつの世界がまるごと遊び場としてご提供されるなんてことはないだろう。
 しかし地獄の悪鬼もかくやという顔をしているところを見ると、アリーの目の前で薄ら笑いを浮かべている「隣国の第二王子」が、ミアの道筋ルートのひとつなのは確実っぽい。

<うーん、でもなー。アドベンチャーブックに複数の結末が用意されているとはいえ、同時進行は難しいもんなー>

 エミリオと踊りながら、アリーはマクシミリアンの存在を恋しく思わずにはいられなかった。いや色恋方面のあれではなく、一見優雅に踊っているエミリオがちょいちょいふらつくからだ。
 すらっと背が高くて、王子様らしい衣装に身を包んでいると「それなり」に見えるのだが、体のバランスがよろしくないのか踊りが安定しない。

「アリーと踊る一分一秒が、まるで夢のようだよ」

 わたしにとっては悪夢です、と思いながらアリーは淑やかに微笑んだ。呼び捨てにすんな、という気持ちを込めて、ステップに紛れてもっかい足を踏む。

「いっててててっ!」

 足を蹴らないだけマシだと思ってほしい。踊りながらエミリオが口にする口説き文句に虫唾が走りまくりだ。
 エミリオの目を見ればわかる。彼は心にもないことを言っている。隣国エルバートの優秀すぎる王太子ディランへのコンプレックス拗らせ系男子、それがエミリオだ。
 ついでに王太子繋がりで、マクシミリアンへのコンプレックスも抱いている。だから彼が興味を抱いているアリーにちょっかいかけているのだ。

<この人も筋肉鍛えたらいいのに……。隙間時間を筋トレに当ててたら、悩む時間なんか無くなる>

 へなちょこワルツで脆弱さを見せつけるエミリオに必要なのは筋肉だ。そんな風に思ったアリーの頭に《毒されてるなあ……》というたっくんと 黒点アベルの声が同時に届いた。
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