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ごしょう!
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しかしこのエミリオ、あっぱれなことに矢よりも速く鋭く飛んで来るマクシミリアンの視線を耐えきった。
精霊の飴で第二形態になっているから闘気は出せないんだけど、とてつもない殺気を孕んだ瞳が、くるくる踊るアリーとエミリオを追尾している。
王太子として4曲目はどこぞの伯爵令嬢と踊る予定だったのに、肝心のご令嬢が腹痛か気鬱か仮病で帰っちゃったらしい。男爵令嬢VS聖女がトップに躍り出てしまった王太子妃レースなんぞ、やってらんねーわというのが正直なところだろうか。
さっきのエミリオの「両手包み込みからの手の甲への口づけ落とし」は、明らかにマクシミリアンへの挑発だった。
俺様系美男子の仮面が剥がれかけ、ごごごっと覇王が顔を出しそうになったのだが、彼は超絶強い意志でそれを抑え込んだ。この舞踏会中の振る舞いを見るに、王太子として一皮剥けた感があるなとアリーは感心した。
<うーん、この曲が終わったらしばしご歓談の時間……。目立ちたくないし、もうこれ以上マクシミリアンを挑発しないでねエミリオさんや>
エミリオはアリーの体を抱きしめるように腕の中に寄せようとする。はしたないっていうか、端的に言ってキモイ。
目鼻立ちの整った顔にセクシーな笑みを浮かべられても、アリーの体の中を走り抜けるのは不快感のみ。
体を引き寄せられるたび、音楽に合わせて華麗に距離を取る。エミリオはそれを娘らしい戸惑いや恥じらいと受け取っているらしい。彼の頭の中には、脳味噌の代わりにおがくずが詰まっているのかもしれない。
曲が終わり、エミリオがにこやかに感謝の言葉を述べる。そして、互いに礼儀にのっとったお辞儀をした。まだ繋がったままのアリーの手をエミリオがぐいっと引き寄せようとした、そのとき。
金箔が施された豪華な扉がばばーんと左右に開かれ、王宮中央の使用人を取りまとめている家令が飛び込んできた。
「エルバートの王太子様がお着きになりました! ディラン様の御一行がご到着でございます!」
「なに、兄上が!?」
アリーの手をぽいっと離したエミリオの顔が、一気に険しくなった。
マクシミリアンも怪訝そうに眉を顰める。周囲を固める四天王たち、そして大舞踏会の参加者のほとんどが「ざわ…ざわ…」している中、聖女ミアがぱああああああっ! と顔を輝かせた。
<自己研鑽のための諸国遊学という名目でふらふらしてるエミリオはともかく、王太子ディランがなぜ……。過去9回の人生では、ここで彼の姿を見ることは無かったはず……>
つるっぱげ改め治癒魔法でふさふさになった国王が、だみ声を張り上げる。
「おお、到着が遅すぎるではないか! 聖なる乙女に会うためならば、前日からやってくるくらいの礼儀が欲しいところだぞっ!」
「ははは! 遅れてまいりましたことをお許しください、オランドリア王。途中の橋が一本、流されてしまっておりまして。そういえば先日、こちらは大雨に見舞われたとか。聡明なオランドリア王が、洪水後の見回りをおろそかにされるわけがないでしょうから、不届きな輩が橋を壊してしまったのかもしれませんね!」
王太子ディランは廊下の向こうから喋っているらしく、その姿はまだ見えない。
「お、おおお? それはもちろんそうだ! さっそく橋を破壊した犯人をひっ捕らえさせることにしよう!」
うわーめっちゃしらじらしい、とアリーは内心で頭を抱えた。聖女ミアに魅了されていなくても、ぼんくらで知られる国王アガイルのことだ。数日前の大雨で被害に遭った地域の視察、復旧への的確な指示などやっているわけがない。
マクシミリアンも額に手を当てて、頭痛をこらえているような顔つきになっている。隣国の同い年の王太子、生まれた時からライバルとして育ってきたディランに、こうまで恥ずかしい指摘をされたのだから、そりゃ頭も痛くなるだろう。
<しかしそうかー、エルバート王国の王太子ディラン来ちゃったかー。これで、わたしが知っている聖女ミアのターゲットになってそうな男性全員集合だわ>
ディランという人はさっきの「ははは!」でわかるとおり、熱血青年という言葉がぴったりくる人だ。正義感が強くて生真面目で、国を引っ張るリーダーとしての理想に燃えているタイプ。
過去9回のマクシミリアンは繊細極まりなく、争いを好まないタイプだったから、ディランとはかなり相性が悪かった。しかし今の彼らなら、わりと仲のいい友達になれるようなきがしないでもない。
廊下から聞こえる「ははははは」が大きくなり、ついにディラン御一行が大広間に入ってきた。
精霊の飴で第二形態になっているから闘気は出せないんだけど、とてつもない殺気を孕んだ瞳が、くるくる踊るアリーとエミリオを追尾している。
王太子として4曲目はどこぞの伯爵令嬢と踊る予定だったのに、肝心のご令嬢が腹痛か気鬱か仮病で帰っちゃったらしい。男爵令嬢VS聖女がトップに躍り出てしまった王太子妃レースなんぞ、やってらんねーわというのが正直なところだろうか。
さっきのエミリオの「両手包み込みからの手の甲への口づけ落とし」は、明らかにマクシミリアンへの挑発だった。
俺様系美男子の仮面が剥がれかけ、ごごごっと覇王が顔を出しそうになったのだが、彼は超絶強い意志でそれを抑え込んだ。この舞踏会中の振る舞いを見るに、王太子として一皮剥けた感があるなとアリーは感心した。
<うーん、この曲が終わったらしばしご歓談の時間……。目立ちたくないし、もうこれ以上マクシミリアンを挑発しないでねエミリオさんや>
エミリオはアリーの体を抱きしめるように腕の中に寄せようとする。はしたないっていうか、端的に言ってキモイ。
目鼻立ちの整った顔にセクシーな笑みを浮かべられても、アリーの体の中を走り抜けるのは不快感のみ。
体を引き寄せられるたび、音楽に合わせて華麗に距離を取る。エミリオはそれを娘らしい戸惑いや恥じらいと受け取っているらしい。彼の頭の中には、脳味噌の代わりにおがくずが詰まっているのかもしれない。
曲が終わり、エミリオがにこやかに感謝の言葉を述べる。そして、互いに礼儀にのっとったお辞儀をした。まだ繋がったままのアリーの手をエミリオがぐいっと引き寄せようとした、そのとき。
金箔が施された豪華な扉がばばーんと左右に開かれ、王宮中央の使用人を取りまとめている家令が飛び込んできた。
「エルバートの王太子様がお着きになりました! ディラン様の御一行がご到着でございます!」
「なに、兄上が!?」
アリーの手をぽいっと離したエミリオの顔が、一気に険しくなった。
マクシミリアンも怪訝そうに眉を顰める。周囲を固める四天王たち、そして大舞踏会の参加者のほとんどが「ざわ…ざわ…」している中、聖女ミアがぱああああああっ! と顔を輝かせた。
<自己研鑽のための諸国遊学という名目でふらふらしてるエミリオはともかく、王太子ディランがなぜ……。過去9回の人生では、ここで彼の姿を見ることは無かったはず……>
つるっぱげ改め治癒魔法でふさふさになった国王が、だみ声を張り上げる。
「おお、到着が遅すぎるではないか! 聖なる乙女に会うためならば、前日からやってくるくらいの礼儀が欲しいところだぞっ!」
「ははは! 遅れてまいりましたことをお許しください、オランドリア王。途中の橋が一本、流されてしまっておりまして。そういえば先日、こちらは大雨に見舞われたとか。聡明なオランドリア王が、洪水後の見回りをおろそかにされるわけがないでしょうから、不届きな輩が橋を壊してしまったのかもしれませんね!」
王太子ディランは廊下の向こうから喋っているらしく、その姿はまだ見えない。
「お、おおお? それはもちろんそうだ! さっそく橋を破壊した犯人をひっ捕らえさせることにしよう!」
うわーめっちゃしらじらしい、とアリーは内心で頭を抱えた。聖女ミアに魅了されていなくても、ぼんくらで知られる国王アガイルのことだ。数日前の大雨で被害に遭った地域の視察、復旧への的確な指示などやっているわけがない。
マクシミリアンも額に手を当てて、頭痛をこらえているような顔つきになっている。隣国の同い年の王太子、生まれた時からライバルとして育ってきたディランに、こうまで恥ずかしい指摘をされたのだから、そりゃ頭も痛くなるだろう。
<しかしそうかー、エルバート王国の王太子ディラン来ちゃったかー。これで、わたしが知っている聖女ミアのターゲットになってそうな男性全員集合だわ>
ディランという人はさっきの「ははは!」でわかるとおり、熱血青年という言葉がぴったりくる人だ。正義感が強くて生真面目で、国を引っ張るリーダーとしての理想に燃えているタイプ。
過去9回のマクシミリアンは繊細極まりなく、争いを好まないタイプだったから、ディランとはかなり相性が悪かった。しかし今の彼らなら、わりと仲のいい友達になれるようなきがしないでもない。
廊下から聞こえる「ははははは」が大きくなり、ついにディラン御一行が大広間に入ってきた。
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