52 / 81
ごしょう!
7
しおりを挟む
マクシミリアンは今度こそ聖女ミアに背中を向けた。
正々堂々ぶつかってこい、というマクシミリアンの言葉に「ちまちま魅了魔法使ってんじゃねーぞぶっ飛ばすぞ」という意味があることくらいは、脳味噌の軽い聖女ミアでも理解できたらしい。
はっきりとわかるくらい青ざめた顔をして、小刻みに震えている。
《いいですね。さっきのワルツ中の魔法大決戦で、光のクソどもも疲労困憊であるらしい。魅了魔法を放つどころか、聖女ミアのオーラを維持することすらできていない》
《魅了魔法というのは、完全に定着するまで重ね掛けをしないとならないんだったな。それでなくとも消費魔力が大きいところを、イベルとおばあちゃんたちが思いっきり削ってやった。これを繰り返していれば、国王派の連中で正気に戻る者も出てくるかもしれない。我の希望的観測かもしれないが》
《その可能性はありますよ。まあヘイヴン伯爵や国王夫妻、このあたりの魅了魔法は、何としても維持するでしょうが》
アリーの中に残る公爵令嬢アリーシアの魂が慰められまくって、感動のあまり動けなくなっている間に、優秀なブレーン2名が解説してくれるので大変ありがたい。
<あのマクシミリアンが……。どっちかっていうと母親寄りで、嫁姑問題ではまーーったく頼りにならんかったマクシミリアンが……>
10年間もの婚約者生活、息子タン大好きな王妃にいびられまくった。
それを愚痴ろうものなら「気にしすぎじゃない?」「アリーシアにも悪いとこなかった?」「まあ何とか上手くやってよ」の3点セットでよけいに傷ついた。
<ああ……『わたしさえ我慢すれば』と唇を噛んだ日々が浄化されていく……>
完全にこっちの味方になれとは言わない。親子の縁を切れとも言わない。でも一度でいいから母親にピシっと言ってほしかった。
<それがあってはじめて、こっちも『まあまあ、あちらも悪気はないんだし』って言えるんだよおおおお、まあ王妃に関しては悪気百パーセントだけどおおお>
《ご主人、じーんとしているところ悪いが、熱い瞳で王太子を見つめてしまっているし、さっきの王太子の発言で『男爵令嬢アリー』VS『聖女ミア』の構図が完璧に出来上がってしまったぞ? 気づいているか?》
ブローチたっくんの言葉に、アリーは慌てて我に返った。大広間ではすでに次の曲が始まっており、大勢の人々がくるくると踊っている。
<い、いやいやいや。さすがにそれはないでしょう。他のご令嬢たちが黙っていないよ。公爵家……にはちょうどいい年頃の娘がいないけど、その下の侯爵家か伯爵家あたりが『ちょっと待ったーっ!』って言うはず……>
《そんなのいないっぽいですけどねえ》
黒点の声に、ダンスフロアを見渡す。アリーの目が捕まえて離さないマクシミリアンは、某侯爵家のご令嬢を巧みにリードし、スマートに踊っている。
わりと美人で、それなりに気の強いはずのご令嬢は、完全なる消化試合の顔つきをしていた。
マクシミリアンの上空には、イベル&疲労困憊 精霊ではなく、普段ジェフリーについているはずのウベル&おじいちゃん精霊たちが浮いている。
マーティンとスティーブンが踊りに参加し、ジェフリーとクリスが待機。その後ろでイベル&疲労困憊 精霊が休憩している。
<うう、四天王たち優秀すぎる……>
じーんとする感動に浸りまくっていたのは、ほんのわずかな時間だったはず。しかし事態はどんどん進行していた。背後では、スティラが同年代の少年少女に囲まれて、はにかみながらも打ち解けたように笑っている。
<いかんいかん、社交の場でのじーんは要注意>
ぼんやりしてしまった己を心の中で殴りつけ、アリーはスティラを取り巻いている少年少女たちに視線を走らせた。かなり厳選して選ばれていることがわかる、安心安全のラインナップだった。
<まあ、わたしはしょせん男爵令嬢だし。本分はスティラ様の侍女。ラドフェン公爵だって面白がっているだけで、本当に養女になさるおつもりはないわ。マクシミリアンが王太子妃に相応しい女性に出会えるまで、隠れ蓑になる覚悟はあるけど、でもそれだけよ>
《ご主人は自分のことになると、少々ポンコツだな》
《同感です。お、あっちから危険人物が近づいてきました。アリー、いよいよぼんやりしている場合じゃなくなってきましたよ》
黒点の言葉に、アリーは広間の右側に視線をやった。隣国エルバートの第二王子エミリオが、薄笑いを浮かべながら歩み寄ってくるのが見えた。
正々堂々ぶつかってこい、というマクシミリアンの言葉に「ちまちま魅了魔法使ってんじゃねーぞぶっ飛ばすぞ」という意味があることくらいは、脳味噌の軽い聖女ミアでも理解できたらしい。
はっきりとわかるくらい青ざめた顔をして、小刻みに震えている。
《いいですね。さっきのワルツ中の魔法大決戦で、光のクソどもも疲労困憊であるらしい。魅了魔法を放つどころか、聖女ミアのオーラを維持することすらできていない》
《魅了魔法というのは、完全に定着するまで重ね掛けをしないとならないんだったな。それでなくとも消費魔力が大きいところを、イベルとおばあちゃんたちが思いっきり削ってやった。これを繰り返していれば、国王派の連中で正気に戻る者も出てくるかもしれない。我の希望的観測かもしれないが》
《その可能性はありますよ。まあヘイヴン伯爵や国王夫妻、このあたりの魅了魔法は、何としても維持するでしょうが》
アリーの中に残る公爵令嬢アリーシアの魂が慰められまくって、感動のあまり動けなくなっている間に、優秀なブレーン2名が解説してくれるので大変ありがたい。
<あのマクシミリアンが……。どっちかっていうと母親寄りで、嫁姑問題ではまーーったく頼りにならんかったマクシミリアンが……>
10年間もの婚約者生活、息子タン大好きな王妃にいびられまくった。
それを愚痴ろうものなら「気にしすぎじゃない?」「アリーシアにも悪いとこなかった?」「まあ何とか上手くやってよ」の3点セットでよけいに傷ついた。
<ああ……『わたしさえ我慢すれば』と唇を噛んだ日々が浄化されていく……>
完全にこっちの味方になれとは言わない。親子の縁を切れとも言わない。でも一度でいいから母親にピシっと言ってほしかった。
<それがあってはじめて、こっちも『まあまあ、あちらも悪気はないんだし』って言えるんだよおおおお、まあ王妃に関しては悪気百パーセントだけどおおお>
《ご主人、じーんとしているところ悪いが、熱い瞳で王太子を見つめてしまっているし、さっきの王太子の発言で『男爵令嬢アリー』VS『聖女ミア』の構図が完璧に出来上がってしまったぞ? 気づいているか?》
ブローチたっくんの言葉に、アリーは慌てて我に返った。大広間ではすでに次の曲が始まっており、大勢の人々がくるくると踊っている。
<い、いやいやいや。さすがにそれはないでしょう。他のご令嬢たちが黙っていないよ。公爵家……にはちょうどいい年頃の娘がいないけど、その下の侯爵家か伯爵家あたりが『ちょっと待ったーっ!』って言うはず……>
《そんなのいないっぽいですけどねえ》
黒点の声に、ダンスフロアを見渡す。アリーの目が捕まえて離さないマクシミリアンは、某侯爵家のご令嬢を巧みにリードし、スマートに踊っている。
わりと美人で、それなりに気の強いはずのご令嬢は、完全なる消化試合の顔つきをしていた。
マクシミリアンの上空には、イベル&疲労困憊 精霊ではなく、普段ジェフリーについているはずのウベル&おじいちゃん精霊たちが浮いている。
マーティンとスティーブンが踊りに参加し、ジェフリーとクリスが待機。その後ろでイベル&疲労困憊 精霊が休憩している。
<うう、四天王たち優秀すぎる……>
じーんとする感動に浸りまくっていたのは、ほんのわずかな時間だったはず。しかし事態はどんどん進行していた。背後では、スティラが同年代の少年少女に囲まれて、はにかみながらも打ち解けたように笑っている。
<いかんいかん、社交の場でのじーんは要注意>
ぼんやりしてしまった己を心の中で殴りつけ、アリーはスティラを取り巻いている少年少女たちに視線を走らせた。かなり厳選して選ばれていることがわかる、安心安全のラインナップだった。
<まあ、わたしはしょせん男爵令嬢だし。本分はスティラ様の侍女。ラドフェン公爵だって面白がっているだけで、本当に養女になさるおつもりはないわ。マクシミリアンが王太子妃に相応しい女性に出会えるまで、隠れ蓑になる覚悟はあるけど、でもそれだけよ>
《ご主人は自分のことになると、少々ポンコツだな》
《同感です。お、あっちから危険人物が近づいてきました。アリー、いよいよぼんやりしている場合じゃなくなってきましたよ》
黒点の言葉に、アリーは広間の右側に視線をやった。隣国エルバートの第二王子エミリオが、薄笑いを浮かべながら歩み寄ってくるのが見えた。
290
あなたにおすすめの小説
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!
えとう蜜夏
恋愛
ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。
ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。
その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。
十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。
そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。
「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」
テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。
21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。
※「小説家になろう」さまにも掲載しております。
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
婚約破棄? めんどくさいのでちょうどよかった ――聖女もやめて、温泉でごくらくしてます
ふわふわ
恋愛
婚約破棄を告げられた聖女リヴォルタ・レーレ。
理由は、「彼女より優秀な“真の聖女”が見つかったから」。
……正直、めんどくさい。
政略、責任、義務、期待。
それらすべてから解放された彼女は、
聖女を辞めて、ただ温泉地でのんびり暮らすことを選ぶ。
毎日、湯に浸かって、ご飯を食べて、散歩して。
何もしない、何も背負わない、静かな日常。
ところが――
彼女が去った王都では、なぜか事故や災害が相次ぎ、
一方で、彼女の滞在する温泉地とその周辺だけが
異様なほど平和になっていく。
祈らない。
詠唱しない。
癒やさない。
それでも世界が守られてしまうのは、なぜなのか。
「何もしない」ことを選んだ元聖女と、
彼女に“何もさせない”ことを選び始めた世界。
これは、
誰かを働かせなくても平和が成り立ってしまった、
いちばん静かで、いちばん皮肉な“ざまぁ”の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる