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ごしょう!
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アリーはいたって優雅に、床を滑るようにスティラの前へと移動した。実の父親でありながら、ただの一度もスティラを見ない汚物(国王)など、天使の視界に入るのもおぞましい。
頼もしい親友たちが笑顔を浮かべて寄ってくる。全員が同じ気持ちを抱いていることがわかって、アリーは心からの笑みを浮かべた。
ラドフェン公爵夫人シェリーゼが、国王夫妻に冷たい一瞥をくれる。
彼女には子どもがいないので、王女4人、王子1人を生んでいる王妃から、聞くに堪えない誹謗中傷を受けたこともあるらしい。
「スティラちゃん。今日の大舞踏会にはね、スティラちゃんのお友達になれそうな年頃の子どもを何人か招待したの。せっかくだから会ってみない?」
「おお、おおお、お友達? わたしにお友達、お友達ができるのですか!?」
「みんないい子たちよ。こういった集まりは、すぐ大人だけで騒いじゃうから。同じ年頃の子たちと遊べたらいいかなと思って」
大広間にいる人々は、自然と『国王派』『王弟派』に分かれていた。
社交シーズンの初っ端を飾る大舞踏会には、王族の子どもがお披露目のために参加することがある。
王子や王女の側近、友人となれそうな良家の子どもを招くのは、血の繋がっている国王の役目であるのだが、あのクソの中にそんな優しさが詰まっているわけがなかった。
王弟派の何人かのご婦人たちが、自分の子どもを連れて笑顔で近づいてくる。その中にはマリリンとキャロルの弟もおり、2人はアリーに目配せをしてスティラの側へと回った。
アリーは意識をマクシミリアンの方へと戻した。彼は国王一派に取り囲まれ、聖女ミアへの賞賛の言葉を、これでもかと耳に流し込まれている。
やだ、とか、そんな、とか言いながら、いちいち頬に手を当てて身をよじるミアに、アリーは脳内で「しゃらくせえええええっ!」と飛び膝蹴りを喰らわせた。
「マクシミリアンよ、聖女が我が国にもたらす恩恵は計り知れんぞ! 今すぐに婚約しなければ、この稀有な才能は他国に奪われ、我が国は滅びてしまうかも──」
国王の目の中央に、おかしな色が浮かんでいる。なんとも空虚で、深閑とした闇。どうやらバッチリ魅了されているらしい。
唾を飛ばす勢いで迫ってくる父親を、マクシミリアンは冷静な眼差しで見つめた。
「父上、ひとつお尋ねします。異世界から落ちてきたぽっと出の聖女の魔力がなければ、滅びてしまうような国。そんなものは、端から国としての体裁をなしていないのでは? 異世界人のもたらす悪影響を一切加味せず、目がくらむような光の魔法に縋り付くことが、王族としての正しい在り方なのですか?」
国王があんぐりと口を開け、ミアがひゅっと息を呑んだ。「たしかに!」とラドフェン公爵が愉快そうに笑う。
《清々しいほどの、ど正論だ》
《ちょっと眩暈がするほどまともですね》
たっくんと黒点の言葉が、アリーの脳味噌の皺をつるつると滑る。じーんを通り越して、本当に眩暈がするほど感動していた。
<わたしが過去9回、血を吐くような思いで叫び続けた言葉だ……。いやまあ2回目から9回目まではダイジェストみたいな人生で、どうせ死ぬんだろうなと思いながら、諦め半分どころか諦めマックスで口にしてたんだけど……>
マクシミリアンは淡々と言葉を続けた。
「聖女ミア、誤解しないでほしい。俺はあなたを中傷しているわけではない。しかし異世界から落ちてきて、まだほんのわずかしかたっていない貴女が、一国の女主人となる。これは相当ないばらの道だ。王宮内の切り盛り、外交、貴族たちとの駆け引き、すべてを魔法でこなせるわけではないのだから」
「い、いえ、わたしはそこら辺の能力も、スタート時からちゃんと授かって──」
「能力があるにしろ、ないにしろ。俺は今年の社交シーズンを、その見極めのために使おうと思っている。オランドリア王妃に最もふさわしい女性を、自分の目でしっかり選びたい。ミア嬢、あなたも正々堂々とぶつかってくることだ」
王太子の威厳を全身から滲ませ、マクシミリアンは「では」と踵を返した。わなわなと全身を震わせる王妃が、聞くに堪えない金切り声をあげる。
「なんてこと! じゃあお前は、ラドフェン公爵が連れてきた男爵令嬢が王妃にふさわしいというのですか! ああああ、信じられない、信じられないわっ!!」
次のパートナーの元へ向かおうとしていたマクシミリアンが立ち止まり、苦笑を浮かべて王妃を振り返った。
「そうは言っていません。しかし現時点では、彼女以上に素晴らしい淑女はいないと思っています。俺は母上のように、何もかも臣下に丸投げするような女性を選びたくはない」
頼もしい親友たちが笑顔を浮かべて寄ってくる。全員が同じ気持ちを抱いていることがわかって、アリーは心からの笑みを浮かべた。
ラドフェン公爵夫人シェリーゼが、国王夫妻に冷たい一瞥をくれる。
彼女には子どもがいないので、王女4人、王子1人を生んでいる王妃から、聞くに堪えない誹謗中傷を受けたこともあるらしい。
「スティラちゃん。今日の大舞踏会にはね、スティラちゃんのお友達になれそうな年頃の子どもを何人か招待したの。せっかくだから会ってみない?」
「おお、おおお、お友達? わたしにお友達、お友達ができるのですか!?」
「みんないい子たちよ。こういった集まりは、すぐ大人だけで騒いじゃうから。同じ年頃の子たちと遊べたらいいかなと思って」
大広間にいる人々は、自然と『国王派』『王弟派』に分かれていた。
社交シーズンの初っ端を飾る大舞踏会には、王族の子どもがお披露目のために参加することがある。
王子や王女の側近、友人となれそうな良家の子どもを招くのは、血の繋がっている国王の役目であるのだが、あのクソの中にそんな優しさが詰まっているわけがなかった。
王弟派の何人かのご婦人たちが、自分の子どもを連れて笑顔で近づいてくる。その中にはマリリンとキャロルの弟もおり、2人はアリーに目配せをしてスティラの側へと回った。
アリーは意識をマクシミリアンの方へと戻した。彼は国王一派に取り囲まれ、聖女ミアへの賞賛の言葉を、これでもかと耳に流し込まれている。
やだ、とか、そんな、とか言いながら、いちいち頬に手を当てて身をよじるミアに、アリーは脳内で「しゃらくせえええええっ!」と飛び膝蹴りを喰らわせた。
「マクシミリアンよ、聖女が我が国にもたらす恩恵は計り知れんぞ! 今すぐに婚約しなければ、この稀有な才能は他国に奪われ、我が国は滅びてしまうかも──」
国王の目の中央に、おかしな色が浮かんでいる。なんとも空虚で、深閑とした闇。どうやらバッチリ魅了されているらしい。
唾を飛ばす勢いで迫ってくる父親を、マクシミリアンは冷静な眼差しで見つめた。
「父上、ひとつお尋ねします。異世界から落ちてきたぽっと出の聖女の魔力がなければ、滅びてしまうような国。そんなものは、端から国としての体裁をなしていないのでは? 異世界人のもたらす悪影響を一切加味せず、目がくらむような光の魔法に縋り付くことが、王族としての正しい在り方なのですか?」
国王があんぐりと口を開け、ミアがひゅっと息を呑んだ。「たしかに!」とラドフェン公爵が愉快そうに笑う。
《清々しいほどの、ど正論だ》
《ちょっと眩暈がするほどまともですね》
たっくんと黒点の言葉が、アリーの脳味噌の皺をつるつると滑る。じーんを通り越して、本当に眩暈がするほど感動していた。
<わたしが過去9回、血を吐くような思いで叫び続けた言葉だ……。いやまあ2回目から9回目まではダイジェストみたいな人生で、どうせ死ぬんだろうなと思いながら、諦め半分どころか諦めマックスで口にしてたんだけど……>
マクシミリアンは淡々と言葉を続けた。
「聖女ミア、誤解しないでほしい。俺はあなたを中傷しているわけではない。しかし異世界から落ちてきて、まだほんのわずかしかたっていない貴女が、一国の女主人となる。これは相当ないばらの道だ。王宮内の切り盛り、外交、貴族たちとの駆け引き、すべてを魔法でこなせるわけではないのだから」
「い、いえ、わたしはそこら辺の能力も、スタート時からちゃんと授かって──」
「能力があるにしろ、ないにしろ。俺は今年の社交シーズンを、その見極めのために使おうと思っている。オランドリア王妃に最もふさわしい女性を、自分の目でしっかり選びたい。ミア嬢、あなたも正々堂々とぶつかってくることだ」
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「なんてこと! じゃあお前は、ラドフェン公爵が連れてきた男爵令嬢が王妃にふさわしいというのですか! ああああ、信じられない、信じられないわっ!!」
次のパートナーの元へ向かおうとしていたマクシミリアンが立ち止まり、苦笑を浮かべて王妃を振り返った。
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