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ろくしょう!
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「そ、それでは殿下、皆さんから少し離れて頂いてよろしいですか……?」
世間一般にはエリートである治癒師は、マクシミリアンら筋肉特戦隊たちのにわかには信じがたい威容を前にして怯え切っている。
<その気持ち、超理解できる。眼球に突き刺さってこれでもかと脳内に叩き込まれる情報量、多すぎるし濃すぎるもんね>
アリーは「気の毒に」と思いながら治癒師を眺めた。しかし憧れてやまぬ光属性の発動を間近で見られるとあって、だんだんテンションが上がってくる。
魔力量アップに関して筋肉は平等、筋肉は裏切らないとはいえ、光属性だけは違うのだ。それは神に選ばれないと使えない、いうなれば宝くじの一等前後賞を丸っと引き当てるようなもの。
アリーは「さっさと立て」という気持ちを込めて、マクシミリアンの頭をぽんぽんと叩いた。するとなぜか覇王は「そうか、寂しいか。俺もだ」と答えた。そして名残惜し気に立ち上がる。
アリーもどっこいせと気合いを入れた。腿に重たいものを乗せていたので、尋常じゃないくらい足がしびれていた。
「で、では、治癒魔法をかけさせて頂きます。あの、言うまでもないことですが、殿下の体内にある回復力を一時的に高め、健康を前借りするようなものなので。熱が下がっても油断せず、しっかり飲んで食べて、たっぷり寝てくださいね……?」
マクシミリアンと対峙する治癒師は明らかにドン引きしており、逃げ出したい気持ちがびんびん伝わってくる。
ぬううううんと自然体で立っている覇王の筋肉、主張しすぎだし威圧感ありすぎだし。
「フッ、そう恐縮しなくてもいい。王太子を前に緊張に駆られるのは当然の心情だろうが、俺も同じ人間だ」
「ヒイッ!」
マクシミリアンは少しかがんで治癒師と目線を合わせ、顔を突き出すようにして淡く微笑んだ。
<なんという見当違いの優しさ、やめてさしあげろ。いや、うん、王太子として温かいハートを持ち、一般人と目線を合わせようとする姿勢は大変立派なんだけど>
あんなんでも、コントロールを失って滲み出そうになる覇気を必死で抑えようとしているのだ。熱があって苦しいのに、無理して笑っているのがわかる。
そうなのだ、今回のマクシミリアンの半分は優しさでできているのだ。筋肉は半分どころじゃないので、どう考えても計算が合わないのだが。
「だ、大天使エルミ、大天使オラファ、大天使ラアル、そしてすべての天使たちに慈悲を乞う。どうか彼の者の体に巣食う熱と痛みを連れ去り、代わりに健康と安らぎを与えたまえ……」
治癒師が手のひらをマクシミリアンに向けて突き出し、光属性の詠唱を口にした。早く帰りたすぎて、持てる力をすべてかき集めているのだろう。額から汗が噴き出ている。
目がくらむほど真っ白な光が天から落ちてきて、マクシミリアンの体を包み込んで勢いを増し、覇王を苦しめる病はその力をことごとく奪われる──はずなのだが。5秒待っても、10秒待っても、1分たっても何も起こらない。
「……あれ?」
「ふむ、やはり緊張しているのか。失敗を恐れるな、形振りかまうな、そこから踏ん張れ! ためらうことなく、思う存分やるといい!」
「い、いえ、そういうことではなく……」
マクシミリアンが覇気のこもった応援の言葉を口にすると、治癒師が震えた声で答えた。
どうしたどうした、と四天王たちが治癒師を取り囲む。「そこから踏ん張れ」「声出せ、声」「筋トレするか?」「男を見せようぜ」などと不必要に暑苦しい掛け声が飛ぶ。
治癒師は全身から汗を噴き出し、床に滴らせながら治癒魔法の詠唱を繰り返した。
「光の天使にいいい、慈悲をおおお、乞うぅおおおぉあああああぁおおおぁりゃあああああっ!」
膝を震わせて絶叫した治癒師は、ついにその場に崩れ落ちた。
「だ、駄目です……。光の天使が降りてきません! まったく信じられない、こちらの詠唱に誰も答えてくれない……っ! 天使の耳に届いていないんじゃなくて、あからさまに拒否されてます!!」
今、ものすごく怖いことを言われた気がする。アリーはぞわわわっと鳥肌が立つのを感じた。頭のてっぺんから一気に汗が噴き出す。
『クソが! これが光の天使のやり方か!』
黒点の声が、脳内ではなく室内に直接響く。
『ゴベルたち、40秒で支度をしなさい。一旦魔界に帰って情報収集です! たっくん、アリーのことをお願いしますね』
『どーんと任された』
ベル君たちをまとめて呼ぶときはゴベルなのか、などと心の片隅で思いながら、アリーは心の友たちの生声をぼんやりと聞いた。
全身が震えている。流れ落ちる汗は止まる気配もない。光の天使のストライキ──恐らく聖女ミアが関係しているのだろう──は、アリーの心を粉々に砕くほどの衝撃があった。
10回目の人生は、筋肉祭りなこと以外はノンストレスだった。しかし絵物語の主人公のように、都合よくはいかないらしい。
<ええっと、あの、治癒魔法が使えないって……その影響はどこまで及んでるの……? 民間の治癒師のところに入院してるジャンは、一体どうなるの……?>
ああ、いかん。頭がくらくらする。このままでは後ろにぶっ倒れてしまう──そう思った瞬間には、体が後ろに倒れかかっていた。
「アリー!」
直立不動の姿勢のまま床に叩きつけられる直前、アリーはマクシミリアンの太い腕に受け止められ、ぎゅっと抱きしめられた。
世間一般にはエリートである治癒師は、マクシミリアンら筋肉特戦隊たちのにわかには信じがたい威容を前にして怯え切っている。
<その気持ち、超理解できる。眼球に突き刺さってこれでもかと脳内に叩き込まれる情報量、多すぎるし濃すぎるもんね>
アリーは「気の毒に」と思いながら治癒師を眺めた。しかし憧れてやまぬ光属性の発動を間近で見られるとあって、だんだんテンションが上がってくる。
魔力量アップに関して筋肉は平等、筋肉は裏切らないとはいえ、光属性だけは違うのだ。それは神に選ばれないと使えない、いうなれば宝くじの一等前後賞を丸っと引き当てるようなもの。
アリーは「さっさと立て」という気持ちを込めて、マクシミリアンの頭をぽんぽんと叩いた。するとなぜか覇王は「そうか、寂しいか。俺もだ」と答えた。そして名残惜し気に立ち上がる。
アリーもどっこいせと気合いを入れた。腿に重たいものを乗せていたので、尋常じゃないくらい足がしびれていた。
「で、では、治癒魔法をかけさせて頂きます。あの、言うまでもないことですが、殿下の体内にある回復力を一時的に高め、健康を前借りするようなものなので。熱が下がっても油断せず、しっかり飲んで食べて、たっぷり寝てくださいね……?」
マクシミリアンと対峙する治癒師は明らかにドン引きしており、逃げ出したい気持ちがびんびん伝わってくる。
ぬううううんと自然体で立っている覇王の筋肉、主張しすぎだし威圧感ありすぎだし。
「フッ、そう恐縮しなくてもいい。王太子を前に緊張に駆られるのは当然の心情だろうが、俺も同じ人間だ」
「ヒイッ!」
マクシミリアンは少しかがんで治癒師と目線を合わせ、顔を突き出すようにして淡く微笑んだ。
<なんという見当違いの優しさ、やめてさしあげろ。いや、うん、王太子として温かいハートを持ち、一般人と目線を合わせようとする姿勢は大変立派なんだけど>
あんなんでも、コントロールを失って滲み出そうになる覇気を必死で抑えようとしているのだ。熱があって苦しいのに、無理して笑っているのがわかる。
そうなのだ、今回のマクシミリアンの半分は優しさでできているのだ。筋肉は半分どころじゃないので、どう考えても計算が合わないのだが。
「だ、大天使エルミ、大天使オラファ、大天使ラアル、そしてすべての天使たちに慈悲を乞う。どうか彼の者の体に巣食う熱と痛みを連れ去り、代わりに健康と安らぎを与えたまえ……」
治癒師が手のひらをマクシミリアンに向けて突き出し、光属性の詠唱を口にした。早く帰りたすぎて、持てる力をすべてかき集めているのだろう。額から汗が噴き出ている。
目がくらむほど真っ白な光が天から落ちてきて、マクシミリアンの体を包み込んで勢いを増し、覇王を苦しめる病はその力をことごとく奪われる──はずなのだが。5秒待っても、10秒待っても、1分たっても何も起こらない。
「……あれ?」
「ふむ、やはり緊張しているのか。失敗を恐れるな、形振りかまうな、そこから踏ん張れ! ためらうことなく、思う存分やるといい!」
「い、いえ、そういうことではなく……」
マクシミリアンが覇気のこもった応援の言葉を口にすると、治癒師が震えた声で答えた。
どうしたどうした、と四天王たちが治癒師を取り囲む。「そこから踏ん張れ」「声出せ、声」「筋トレするか?」「男を見せようぜ」などと不必要に暑苦しい掛け声が飛ぶ。
治癒師は全身から汗を噴き出し、床に滴らせながら治癒魔法の詠唱を繰り返した。
「光の天使にいいい、慈悲をおおお、乞うぅおおおぉあああああぁおおおぁりゃあああああっ!」
膝を震わせて絶叫した治癒師は、ついにその場に崩れ落ちた。
「だ、駄目です……。光の天使が降りてきません! まったく信じられない、こちらの詠唱に誰も答えてくれない……っ! 天使の耳に届いていないんじゃなくて、あからさまに拒否されてます!!」
今、ものすごく怖いことを言われた気がする。アリーはぞわわわっと鳥肌が立つのを感じた。頭のてっぺんから一気に汗が噴き出す。
『クソが! これが光の天使のやり方か!』
黒点の声が、脳内ではなく室内に直接響く。
『ゴベルたち、40秒で支度をしなさい。一旦魔界に帰って情報収集です! たっくん、アリーのことをお願いしますね』
『どーんと任された』
ベル君たちをまとめて呼ぶときはゴベルなのか、などと心の片隅で思いながら、アリーは心の友たちの生声をぼんやりと聞いた。
全身が震えている。流れ落ちる汗は止まる気配もない。光の天使のストライキ──恐らく聖女ミアが関係しているのだろう──は、アリーの心を粉々に砕くほどの衝撃があった。
10回目の人生は、筋肉祭りなこと以外はノンストレスだった。しかし絵物語の主人公のように、都合よくはいかないらしい。
<ええっと、あの、治癒魔法が使えないって……その影響はどこまで及んでるの……? 民間の治癒師のところに入院してるジャンは、一体どうなるの……?>
ああ、いかん。頭がくらくらする。このままでは後ろにぶっ倒れてしまう──そう思った瞬間には、体が後ろに倒れかかっていた。
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