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3章 フラグはへし折るもの、いえ、粉砕するもの
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しおりを挟む警備を厚くし、エリューシアの護衛騎士選定も現在進行している。
邸の内外の警備に魔具もこれでもかと金に糸目をつけずに導入した。
今出来ることは思いつく限り行った。勿論これで気を抜く事は出来ないが、だからと言って日々戦々恐々ともしていられない。
本日の朝食を終え、何時ものように家族全員でお茶の時間を楽しんでいる。すっかり寒くなり、お茶の温かさにホッとしていると、ネイサンが幾つかの封書をトレーに乗せて近づいてきた。
トレーに乗せられた封書をアーネストが手に取り、差出人を確認する。
「おや、ネネランタというと…」
「エリューシアのドレスを頼んだ服飾店ですわ。後幾つかアクセサリーなんかの小物も頼んでおりますの」
「アクセサリー? ルダリー伯爵に頼んだだろう?」
「えぇ、竜心石を使った首飾りはお願いしましたが、他の髪飾りなどですわ」
「あ~そうか、確かに竜心石を見せた途端にとんでもなく興奮していたようだったね。なるほど、だから首飾り以外の手配が出来ていなかったか」
「ふふ、あの様子には笑いを堪えるのが大変でしたわ」
その時の様子を思い出したのか、両親が楽しげに笑っている。手にした封書を開き、さっと目を通してからセシリアに渡す。
「どうしましょう、もう準備は出来ているようですから、いつでも持ってきてくれるとありますが…」
「ん? どうした、何か不都合があったのか?」
「いえ、アイシアの時もドレスの受け取りを初お出かけにしましたでしょう?」
「あぁ、そうだったな。お披露目会から暫くは町も賑わって、初外出には向かなくなってしまうからな…警護も大変になるし」
両親の話にアイシアが顔を上げた。
「エルルの初お出かけですの? 私も一緒に行きたいですわ。エルル、良いかしら?」
妹の初外出と聞いては、アイシアも黙っていられない。自分も一緒に行きたいと主張した上で、エリューシアにも了承を取る。
「シアお姉様と御一緒できるのですか? 本当に? 嘘じゃなく?………ぁ……ですが…」
アイシアとお出かけと聞いて一気にテンションの上がったエリューシアだが、言葉にしているうちに、みるみる萎れて行った。
きゅっと右手を握り、それを躊躇うように唇に押し当てる様子に、皆の表情が曇る。
「エルル?」
「エルル、どうしたの?」
「ごめんなさい、エルルが嫌だったら私は良いの、お留守番しているわ」
「違います!」
家族が心配してかけてくれる言葉、特に最後のアイシアの言葉は堪えた。嫌なはずがない、それはもう天にも昇る気持ちになったのだから。
だから誤解されたのが悲しくて、つい言葉の調子が強くなってしまい、エリューシアは恥ずかし気に顔を俯かせた。
「嫌なんかじゃ…ありません。お姉様と御一緒できるならしたいです。だけど……良いのですか? 私が外に出ても…護衛も大変になるでしょう?」
最後の方は少し涙声になってしまったが、何とか言い切り、皆の返答を待つ。
「エルル……ずっと我慢させていたからな、済まない」
「あぁ、どうしてこの子ばっかり……こんな時まで良い子にならなくて良いのよ?」
「エルルがしたいなら、そうして良いの。私も一緒が良いって言ってくれて、とても嬉しいわ」
家族も、使用人達も何処か苦しげな表情をしていて、それを見回したエリューシアは唇に押し当てていた拳を解き、両手を軽く組み合わせた。
「お外、行ってみたいです。お姉様と、ううん、皆で……我儘言ってごめんなさい、警備大変だってわかってるのに……でも」
我儘を言っている自覚はあるので、ぎゅっと両目を瞑って『ごめんなさい』と思いながら言葉にすると、途端にふわりと温かさに包まれた。
そっと瞑っていた目を開ければ、何時の間に近づいてきていたのか、アーネスト、セシリア、そしてアイシアに包み込むように抱きしめられていた。
「エルルの可愛いお願いくらい叶えさせておくれ」
「そうよ、ちっとも我儘なんかじゃないわ」
「とても楽しみだわ! いつ行きますの? 今日? 明日?」
「まぁ、シアったら。そうね。準備出来次第いきましょうか」
「一応変装するか何かはした方が良いか」
アーネストがそう呟きながらふと顔を上げれば、ナタリア達女性使用人達が任せろといわんばかりに胸元でこぶしを握っていた。
そこからは早かった。
何処から探し出して来たのか、見た事のないつば広の帽子と、後は大きな眼鏡をノナリーが持ってきた。
帽子の方は何の変哲もない普通の帽子だったが、眼鏡の方は魔具らしく、それをかければ髪色を茶色限定ではあるが変えることが出来るらしい。
実際使ってみたが、どうやらエリューシアには魔具としての効果は発揮されないようで、髪色も何も変化はなかった。
試しに掛けたセシリアは見事に茶色に変わって見えたので、壊れているわけではない様だ。
魔具の効果さえ無効にする精霊の愛し子の証、あなどれぬ……というか、はっきり言って怖い。
とはいえ嘆こうが恐れようが、効果が出ないのだから仕方ない。髪色は変わらないが、大きなその眼鏡は前世で言うところの瓶底眼鏡だったので、精霊眼は覗き込まれでもしなければ隠せるだろう。
とはいえ、準備は出来たが既にお昼を回っている。冬は日が落ちるのも早いので、今日は断念すべきだろう。陽が落ちてしまえば、如何に治安のよい公爵領とはいえ危険がない訳ではない。
店側としても予め連絡を貰っていれば対応もしやすいだろうと、少し日を開けて3日後に伺うと伝えて欲しいと言えば、馬丁のマービンが馬を出して請け負ってくれた。
普段は大人以上に静かなエリューシアだったが、余程楽しみなのか、準備が整って以降、ちょっぴりそわそわとしている。
そんな彼女の様子に邸の皆も嬉しい様で、笑顔が絶えなかったのだが、1通の封書によってその笑顔に陰りが生じた。
ネイサンがトレーに乗せて持ってきた封書には金の封蝋が施されていた。
金の封蝋は王家からの封書を示している。
それを視認した途端、アーネストの美顔がわかりやすく歪んだ。それだけでなく舌打ちまで聞こえ、隠す気さえない様だ。
セシリアも双眸を細めながら片眉を跳ね上げている。
両親の様子に、いつも通り何処吹く風とばかりな様子かと思ったが、静かながらアイシアの表情も不機嫌が滲んでいる。
家族をここまで下降させる王家って……とエリューシアが思ったのは仕方のない事だった。
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