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3章 フラグはへし折るもの、いえ、粉砕するもの
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こうして着々とエリューシアの5歳のお披露目準備は整っていく。言い方を変えれば外堀を埋められていったとも言える。
後日ドレス選びの際、既製品だからと言いながらノリノリで意見を出し合うセシリアとアイシアの様子に、エリューシアが気づかないはずもなく、そっと溜息を吐く様子を見てナタリアはじめ使用人達は顔を青くした。
最も、静かに微笑んだままエリューシアが無言で折れたので、そのまま無事終了することが出来た。
エリューシアも理解していたのだろう。公爵家の面子やら経済の事やら……だから沈黙したのだろうが、納得していたかどうかは…神のお味噌汁(神のみぞ知る)である。
そうして表面上は穏やか且つ楽しく過ぎていたが、父アーネストは執務室で上がってくる報告に、眉間の皺を深くしていた。
内容をざっくりと読んでから、溜息と共に少し離れた所に控えるハスレーとネイサンの方へ視線を流す。
「それで、結局追い切れなかったと?」
「はい、申し訳ございません」
「隣領に入った所までは確認できたのですが」
アーネストが目を通していた書類には、件の8等級ギルド員、言うなれば冒険者が納品に訪れた時、それについて嗅ぎまわる者がいたらしい事が書かれていた。
それも公爵家の者に話しかけるのではなく、出入りの商家の者に聞いて回っていたようで、公爵家に報告が上がって来た時には、既に怪しい人物は姿を消していた。
しかしそこはそれ、公爵家というのは伊達ではない。お抱えの諜報人材…裏と呼ばれる者達も多く抱えている。
それらを動員して、どうやら隣領、メメッタス伯爵領方向に向かったという所までは掴んでいた。
「やはり狙いはエルルだと思うか…?」
アーネストがスッとその凛とした、だけどその美貌に相応しい色気まで湛えた双眸を細めれば、室内の温度が数度下がる気がしてしまう。
「恐らくは」
アーネストは執務机に肘をつき、その両手を組み合わせる。
「やはりあの時にうろついていた不審者か……忌々しい。成人するまで邸で大事に囲い込んでおきたい所だが、そうもいかないだろうね…」
「「………」」
アイシアの時もそうだったが、5歳の誕生日をもって貴族家の子らは正式にお披露目を行う。これはやはり日本で作られたゲームの名残なのかもしれない。
『7歳までは神のうち』と言う言葉がある。子供の死亡率が高く、7歳を越えるまでは人ではなく神の子だとする言葉だが、それを5歳にアレンジしたモノだろう。
実際、この世界の医療水準は高くない。とはいえご都合主義満載のファンタジー世界ではあるので、魔法もポーションも存在する。どれも高額だが……。
なので子供の死亡率は過去に比べれば幾分マシにはなってるが、それでも5歳までは外に出さないと言う習慣が根付いていた。
だから5歳のお披露目は大抵盛大なものになる。当然貴族家の動きも慌ただしくなり、もうすぐ5歳を迎える子が居るのだなという事は、外部から容易に察することが出来るのだ。勿論暗黙の了解で誰も口には出さないのが常識である。
「会まで出来るだけ出ないようにし、警備を厚くするしかないか。メメッタス伯爵の関与はどうだ?」
「そうでございますね。誘拐など実力行使に出るとしても、エリューシアお嬢様が御邸から出る時を狙うでしょうから、今暫くはそれで何とかなるかと。
メメッタス伯爵の関与は今の所確認できておりません。ですがあの水害以降スラム等が拡大しているようでございます」
「ふむ、とは言え隣領の者を、我が領内に立ち入らせないと言う訳にも行くまい。となるとやはり今出来るのは自衛だけか……一応念の為、メメッタス伯爵他の警戒はそのまま続けてくれ。
あぁ、警戒監視に当たっているのは裏だね?」
「はい、現在はウルリエの者が動いております」
アーネストと祖父ハスレーの話を聞いていたネイサンが、何か言いたげに視線を二人に投げかけた。
「どうした? 何かあれば言ってくれて構わないよ」
早々に視線に気づいたアーネストが、ふっと苦笑を交える。
「す、済みません。まだ必要ないかもと思ったのですが」
そう言って差し出した書類には、貴族家の子息子女の名が記されていた。
「エリューシアお嬢様と年齢の近しい者で、公爵家騎士団への打診を行ってきている者達でございます。少し早いかもしれませんが、専属護衛騎士の選定の一助になればとお持ちしました」
孫の行動に祖父であるハスレーも聞いていなかったのか、目を丸くしている。
アーネストも同じく目を見開いて固まっていたが、ハスレーの様子に相好を崩した。
「流石ハスレーの孫だな。ありがとう。確かに先んじて選定を行った方が良さそうだ」
「お前、何時の間に…」
「お爺様の仕事をずっと傍で見てきましたから」
ニッとどこか不敵に笑むネイサンは、もう見習いとは言えないのかもしれない。
「ネイサン、今日より見習いとしてではなく、第2執事と名乗る事を許可しよう」
「ありがとうございます」
「旦那様、流石にそれはまだ…」
「いや、良い時期だろう」
そう言いながらネイサンから渡された書類を丁寧に見ていく。
「ほう、トルマーシと言うと侯爵家か、アイシアの時もヘイルゴット侯爵家の者がきて驚いたが……」
「ラステリノーア公爵家騎士団の名はなかなか有名でございますから」
「はは、訓練が辺境伯軍並みだからか?」
アーネストの言葉に何故かハスレーが自慢気に応える。
しかしハスレーの言葉に心当たりがあるとすれば、公爵家騎士団の訓練の過酷さしか思いつかなかったのでそう言うと。
「そこは否定致しませんが、それに見合う待遇…いえ、それ以上の待遇だからでございます」
アーネストが怪訝な表情をしたので、ハスレーがさらに続ける。
「当家の騎士団は武具だけでなく馬も支給いたします。休暇もきちんと保証しておりますし、給金は言うに及ばずでございます。そして実力も正当に評価いたします」
「他家では休みも取れず、給金も出し渋りがあったりしますから。当然馬なんて支給されませんし、実力は家柄の前には……ですから」
ハスレーの言葉を補足するネイサンの言葉に、アーネストは難しい顔をして視線を落とした。
「そうか……セシリアの実家で行われていた事で、良いと思った所を真似ただけなのだがな」
「はは、奥様も当時はお喜びになっておられましたな」
「そうなのですか?」
「あぁ、そうだったね。ネイサンはその頃はまだ生家に居ただろうから、知らなかったとしても当然だよ」
そんな執務室の灯りは、深夜になっても消える事はなかった。
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