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第3部 第54話 「十二の試験地区、始動――個性が光る現場と最初の躓き」
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🛫 出陣式――“緑の隊”を各地へ
ミズノ農業大学・中庭。小雨のあと、葉に残る雫が光っていた。
「本日より“十二の試験地区”を正式に立ち上げる。役割は四班だ」
陽介が指を折る。
「農業指導班、観光(民宿)指導班、加工・品質班、そして運営・会計班。――安全は各地の農場騎士団分隊が護る」
「了解!」
紬が追加する。「現地裁量は尊重。ただしMQS(品質基準)と帳票は全拠点で統一。困ったら“緑の回線(グリーン・ライン)”でいつでも繋がって」
レオンが大剣の柄を軽く叩く。「問題があれば俺が飛ぶ。安心して耕せ」
荷馬車の隊列が、旗を翻して四方へ散っていった。
________________________________________
🗺 配置と作戦
紬が地図の上に色ピンを打つ。
• 湖畔ラーナ:魚介×香草オイル漬け/民宿は釣り体験に特化
• 砂地バルド:防風林と土留めが最優先/油芋は“畝高+敷藁+点滴潅水”
• 高地ホルン:魔導温室の実験区/夜間微熱灯と“風幕”で霜対策
• 雪国ノア:ポテリエ×干し芋の越冬保存/民宿は雪上そり体験
• 森辺エンデ:獣害対策を兼ねた観察小屋/魔物素材の展示は許可制
「“同じ成功”は要らない。“その土地だけの成功”を作るの」紬が言うと、若い指導員たちの目が輝いた。
________________________________________
🌬 湖畔ラーナ――風の幕と台所の科学
湖風が気持ちいい桟橋の民宿。「いらっしゃいませ、釣った魚を一緒に瓶詰にしましょう!」
ところが、昼過ぎから小蠅が増えて客の眉が曇る。
「匂いに寄ってる。**風幕(ウィンド・カーテン)**を設置、台所は網戸と温度管理」
紬が指示し、レメル直伝の微風魔法を窓辺に固定。加工室は温度札を掲示し、手洗い所に“歌い手の砂時計”を置く(砂が落ちるまで手洗い)。
「……さっきより快適!」
「味も落ち着いた。温度で香りが変わるのね」
民宿の女将が感心して頭を下げた。「基準の“見える化”、お客にも安心だよ」
________________________________________
🏜 砂地バルド――生きる防風林
昼、畑は土煙で白く霞む。苗が揺れて倒れそうだ。
「このままじゃ根が切れる」指導員が青ざめる。
陽介は短く言った。「風と戦わない。風を“減速”させる」
葦で低い柵を連続設置、列間には根張りの強いカロナの木を“点”で植える。畝は5度だけ風向きに斜め。潅水は点滴に切替え、表土の乾きだけを抑える。
年配の農夫がぼそり。「木なんぞ植えたら土地が喰われる」
「一本の陰で十本育つ――三年見てください」
夕方、風が弱まると苗の葉がしゃんと立ち、老人は小さく笑った。「……三年、待ってやる」
________________________________________
⛰ 高地ホルン――霜の夜を越える灯
夜、霜の気配。温室の内壁に、リヴィアが指で魔法陣を描く。
「微熱灯(ソフトヒート)、出力は人肌程度。過熱厳禁」
紬が温度計を確認し頷く。「OK。外は“風幕”、内は“微熱”。二重の布団よ」
翌朝、白い世界で緑の葉だけが生き生きと濡れていた。
________________________________________
🦊 森辺エンデ――“見せる展示”と境界線
魔物素材の展示室に行列。だが少年が角に手を伸ばす。
「展示は触れない・嗅がない・写さない」
陽介が優しく制し、代わりに“触れる模型”を出す。「本物は危ない。でも学びは止めない」
森番が頭を掻く。「あんたらのやり方、筋が通ってる」
________________________________________
⚠ 最初の躓き――“偽ミズノ”事件
王都の裏市場で“ミズノ印の瓶詰”が出回ったと通報。味に異常、腹痛者が出たという。
「トレーサビリティ開始。瓶底コードから仕入先、加工、瓶詰ロットを追う」
紬が帳票をめくり、陽介が検査札を並べる。やがて――
「このラベル、印刷が違う。偽物だ」
公開広場で説明会を開き、経緯と再発防止を全て開示。闇商人が青ざめて土下座する。
「……すまねぇ、楽に儲けたかった」
陽介は静かに言った。「潰すのは簡単だ。だが正しいやり方で稼げ。研修に来い。三か月の監査を受け、合格したら“仲間”にする」
ざわめきのあと、拍手が起きた。
________________________________________
🚚 “緑の行軍”キャラバン
直売所の前に、緑の幌の荷馬車隊。“巡回講座/移動市場/検査ラボ”を兼ねたキャラバンが出発する。
「食べる、泊まる、買う、学ぶを一台に」紬が胸を張る。
レオンが笑った。「いい名をつけろ。旗印になる」
「グリーン・コンボイ」
「決まりだ」
________________________________________
📈 中間報告と、次の壁
週末、大学ホール。
「直売所:来客指数+41%」「民宿:再訪予約比率36%」「加工:合格レシピ12→19」「農家参加:42戸→67戸」
数字が読み上げられるたびに、歓声とため息が交互に湧いた。
レオネルが渋い顔で続ける。「街道税ギルドが“グリーン街道”に新税をかける動き。流通が止まる危険がある」
陽介は短く頷いた。「交渉に行く。――“通れば皆が得、止めれば皆が損”。数字で説く」
紬が小声で囁く。「それでも折れないなら?」
「街道を替える。道は一本じゃない」
窓の外、のれんが風に踊る。十二の現場で、生まれたばかりの芽が、確かに根を伸ばしていた。
ミズノ農業大学・中庭。小雨のあと、葉に残る雫が光っていた。
「本日より“十二の試験地区”を正式に立ち上げる。役割は四班だ」
陽介が指を折る。
「農業指導班、観光(民宿)指導班、加工・品質班、そして運営・会計班。――安全は各地の農場騎士団分隊が護る」
「了解!」
紬が追加する。「現地裁量は尊重。ただしMQS(品質基準)と帳票は全拠点で統一。困ったら“緑の回線(グリーン・ライン)”でいつでも繋がって」
レオンが大剣の柄を軽く叩く。「問題があれば俺が飛ぶ。安心して耕せ」
荷馬車の隊列が、旗を翻して四方へ散っていった。
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🗺 配置と作戦
紬が地図の上に色ピンを打つ。
• 湖畔ラーナ:魚介×香草オイル漬け/民宿は釣り体験に特化
• 砂地バルド:防風林と土留めが最優先/油芋は“畝高+敷藁+点滴潅水”
• 高地ホルン:魔導温室の実験区/夜間微熱灯と“風幕”で霜対策
• 雪国ノア:ポテリエ×干し芋の越冬保存/民宿は雪上そり体験
• 森辺エンデ:獣害対策を兼ねた観察小屋/魔物素材の展示は許可制
「“同じ成功”は要らない。“その土地だけの成功”を作るの」紬が言うと、若い指導員たちの目が輝いた。
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🌬 湖畔ラーナ――風の幕と台所の科学
湖風が気持ちいい桟橋の民宿。「いらっしゃいませ、釣った魚を一緒に瓶詰にしましょう!」
ところが、昼過ぎから小蠅が増えて客の眉が曇る。
「匂いに寄ってる。**風幕(ウィンド・カーテン)**を設置、台所は網戸と温度管理」
紬が指示し、レメル直伝の微風魔法を窓辺に固定。加工室は温度札を掲示し、手洗い所に“歌い手の砂時計”を置く(砂が落ちるまで手洗い)。
「……さっきより快適!」
「味も落ち着いた。温度で香りが変わるのね」
民宿の女将が感心して頭を下げた。「基準の“見える化”、お客にも安心だよ」
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🏜 砂地バルド――生きる防風林
昼、畑は土煙で白く霞む。苗が揺れて倒れそうだ。
「このままじゃ根が切れる」指導員が青ざめる。
陽介は短く言った。「風と戦わない。風を“減速”させる」
葦で低い柵を連続設置、列間には根張りの強いカロナの木を“点”で植える。畝は5度だけ風向きに斜め。潅水は点滴に切替え、表土の乾きだけを抑える。
年配の農夫がぼそり。「木なんぞ植えたら土地が喰われる」
「一本の陰で十本育つ――三年見てください」
夕方、風が弱まると苗の葉がしゃんと立ち、老人は小さく笑った。「……三年、待ってやる」
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⛰ 高地ホルン――霜の夜を越える灯
夜、霜の気配。温室の内壁に、リヴィアが指で魔法陣を描く。
「微熱灯(ソフトヒート)、出力は人肌程度。過熱厳禁」
紬が温度計を確認し頷く。「OK。外は“風幕”、内は“微熱”。二重の布団よ」
翌朝、白い世界で緑の葉だけが生き生きと濡れていた。
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🦊 森辺エンデ――“見せる展示”と境界線
魔物素材の展示室に行列。だが少年が角に手を伸ばす。
「展示は触れない・嗅がない・写さない」
陽介が優しく制し、代わりに“触れる模型”を出す。「本物は危ない。でも学びは止めない」
森番が頭を掻く。「あんたらのやり方、筋が通ってる」
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⚠ 最初の躓き――“偽ミズノ”事件
王都の裏市場で“ミズノ印の瓶詰”が出回ったと通報。味に異常、腹痛者が出たという。
「トレーサビリティ開始。瓶底コードから仕入先、加工、瓶詰ロットを追う」
紬が帳票をめくり、陽介が検査札を並べる。やがて――
「このラベル、印刷が違う。偽物だ」
公開広場で説明会を開き、経緯と再発防止を全て開示。闇商人が青ざめて土下座する。
「……すまねぇ、楽に儲けたかった」
陽介は静かに言った。「潰すのは簡単だ。だが正しいやり方で稼げ。研修に来い。三か月の監査を受け、合格したら“仲間”にする」
ざわめきのあと、拍手が起きた。
________________________________________
🚚 “緑の行軍”キャラバン
直売所の前に、緑の幌の荷馬車隊。“巡回講座/移動市場/検査ラボ”を兼ねたキャラバンが出発する。
「食べる、泊まる、買う、学ぶを一台に」紬が胸を張る。
レオンが笑った。「いい名をつけろ。旗印になる」
「グリーン・コンボイ」
「決まりだ」
________________________________________
📈 中間報告と、次の壁
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数字が読み上げられるたびに、歓声とため息が交互に湧いた。
レオネルが渋い顔で続ける。「街道税ギルドが“グリーン街道”に新税をかける動き。流通が止まる危険がある」
陽介は短く頷いた。「交渉に行く。――“通れば皆が得、止めれば皆が損”。数字で説く」
紬が小声で囁く。「それでも折れないなら?」
「街道を替える。道は一本じゃない」
窓の外、のれんが風に踊る。十二の現場で、生まれたばかりの芽が、確かに根を伸ばしていた。
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