異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

谷川 雅

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第5部 第15話 門は閉じず、道は残る――委ねられた未来

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水門の前で
 世界合意が結ばれてから、数日後。
 陽介と紬は、誰にも告げずに四河峡谷を訪れていた。
 水門は、以前のような強い光を放ってはいない。
 だが、完全に眠ったわけでもなかった。
 水面のような揺らぎが、時折、呼吸するかのように脈打っている。
「……不思議ね」
 紬が静かに言った。
「もう“帰るかどうか”を迫られていないのに、
 前より、ずっと近くに感じる」
 陽介は頷いた。
「道があると分かったからだろうな。
 “選べる”ってだけで、人は落ち着ける」
________________________________________
📜 最後の確認――初代王の言葉
 ライナルトから預かっていた《水ノ書》を、陽介はそっと開いた。
 末尾に記された、初代王の筆跡。
「門は“逃げ道”ではない」
「生き切った者だけが、帰るか残るかを選べる」
「選ばなかった道も、否定ではない」
 陽介は小さく笑った。
「……ずいぶん、手厳しい王様だ」
「でも、優しいわ」
 紬は本を閉じ、胸に抱いた。
「“今を生きろ”って言ってくれてる」
________________________________________
🌱 委ねるという選択
 陽介は水門の前に立ち、深く息を吸った。
「俺たちは、今は帰らない」
 その言葉は、宣言というより確認だった。
「でも――
 この門を閉じることもしない」
 紬が続ける。
「帰るかどうかは、
 “この世界が、私たちを必要としなくなった時”に考える」
 水門は何も答えない。
 ただ、静かに揺れ続けている。
 それで十分だった。
________________________________________
🏛 十領主への引き継ぎ
 分水国に戻った二人は、十領主を集めた。
「今日から、
 四河峡谷と国際憲章の実務運用は、君たちが主導してほしい」
 一瞬、沈黙。
 そして、驚きの声。
「全部……ですか?」
「先生たちは?」
 陽介は笑った。
「逃げるわけじゃない。
 ただ――“前に出すぎない”だけだ」
 紬が穏やかに言う。
「国は、創った人間がいつまでも握るものじゃない。
 育てた人間が、広げていくものよ」
 十人は、互いに視線を交わし、深く頷いた。
「……分かりました」
「私たちが、分水国を動かします」
________________________________________
🌅 夕暮れの丘
 その日の夕方。
 陽介と紬は、分水国を見渡せる丘に立っていた。
 畑からは笑い声が聞こえ、
 工場の煙はまっすぐ空へ伸びている。
 街道には人の流れがあり、
 港には帆が揺れていた。
「……いい国になったな」
 陽介がぽつりと呟く。
「ええ。
 争わずに、欲張りすぎず、
 でもちゃんと前に進んでる」
 紬は陽介の腕に、そっと触れた。
「私たちがいなくても、
 もう大丈夫ね」
「……ああ」
________________________________________
🌠 残された道
 夜。
 遠くの四河峡谷で、かすかな光が瞬いた。
 門は閉じていない。
 だが、呼びもしていない。
 それは、
 **“選択を急がせない優しさ”**のようだった。
 陽介は星空を見上げ、静かに言った。
「行くべき時が来たら、行こう」
 紬は微笑む。
「ええ。その時は――
 胸を張って」
 分水の風が、二人の間をすり抜けていった。
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