異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

谷川 雅

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第5部 第16話 分水の時代、次へ――そして物語は続く

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 朝の評議場
 分水国の評議場に、柔らかな朝の光が差し込む。
 円卓の中央には、国際憲章の写しと、新たに整えられた運用指針。
 席に着くのは――十領主。
 議長役を務めるユリウスが静かに槌を打った。
「――これより、四河峡谷国際憲章の実務運用を開始します」
 トマスが北方の警備計画を報告し、
 カティアが交易路の安全協定を提示する。
 エリナは水源植物の改良と観測網を、
 オルフェンは保全用資材の量産体制を、
 マリアは医療と避難計画を、
 フェリクスは透明会計と基金運用を、
 セリアは港湾の調整と海路の連携を、
 ノアは教育交流の拡充を、
 ライナルトは記録と検証の公開基準を――
 それぞれが迷いなく語った。
 議場に、落ち着いた確信が満ちる。
 もう“引き継ぎ”ではない。自分たちの国の運営だ。
________________________________________
🕊 一歩、下がる二人
 評議の終わり、陽介と紬は立ち上がらず、ただ見守っていた。
 発言を求められることもない。
 それが、二人の望んだ形だった。
「……大丈夫そうだな」
 陽介が小さく言う。
「ええ。
 “指示”がなくても、ちゃんと前に進んでる」
 紬は微笑んだ。
 二人は静かに席を立ち、評議場を後にする。
 扉の向こうで、十領主の声は続いていた。
________________________________________
🌾 分水国の日常
 街に出ると、いつもの朝が流れている。
 市場では笑い声が弾み、
 工房からは槌の音が響き、
 学校の門からは子どもたちの声が溢れる。
 港では帆が上がり、
 街道には旅人が行き交う。
 誰も、特別な日だとは思っていない。
 それが、何よりの証だった。
 国は、創設者がいなくても回っている。
________________________________________
🌌 丘の上、風の中で
 夕暮れ。
 二人は、分水国を見渡す丘に立つ。
「ここまで来たな」
 陽介の声は、安堵と少しの名残を含んでいた。
「ええ。
 争いを止めて、
 水を分けて、
 人をつないで――
 ちゃんと“分水”の名に恥じない国になった」
 紬は風に揺れる旗を見つめる。
 中央の水紋、その周りを囲む星。
「私たちが主役でいなくても、
 この国は、次の物語を紡いでいく」
 陽介は頷いた。
「それでいい。
 物語は、誰か一人のものじゃないからな」
________________________________________
🌠 遠くの光
 夜。
 四河峡谷の方角で、かすかな光がまたたいた。
 門は閉じていない。
 だが、呼ばない。
 ――選択は、未来に委ねられている。
「行くべき時が来たら……」
 陽介が言いかける。
「ええ。その時は、
 後悔のない“今”を、たくさん連れて行きましょう」
 紬が続けた。
 二人は並んで星空を見上げた。
 静かな満足が、胸に広がる。
________________________________________
🌱 次へ
 翌朝、分水国の旗は変わらず風に揺れていた。
 十領主が前に立ち、
 民が歩み、
 国が息づく。
 水は分かれ、
 道はつながり、
 世界は、少しだけ優しくなる。
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