異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

谷川 雅

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第7話「合格通知と春キャベツ!陽介、叫ぶ『俺、農民になる!』」

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春の風が、ちょっとだけ暖かく感じたその日。
陽介は郵便ポストの前で、謎に武者震いしていた。
「……来る。今日だ。今日に決まってる……!」
ポストの口を開けると、そこに――
茶封筒。
宛名:水野陽介様。差出人:国立農業技能開発高等学校 事務局。
(き、きた……)
「母さーん!! 来たああああっ!!」
「ちょっ! ポストごと持ち上げないで!」

封筒を開ける手が震える。
指先の感覚が、今だけちょっと遠い。
陽介は静かに、ゆっくりと中身を取り出す。
一行目に、目をやった。
『このたびは、本校の入学試験において……』
『あなたは、合格となりました。』
「…………」
「………………」
「っしゃあああああああああああっ!!!」
母の悲鳴と同時に、陽介はその場でジャンプし、窓を開けて叫んだ。
「俺、農民になるーーーーーーッ!!」
近所の犬が「ワン!」と鳴いた。
(ありがとう、犬)

「やったなぁ、陽介! ほんとによくがんばったね!」
母は目を潤ませながら、用意していたっぽい“合格祝いちらし寿司”を出してきた。
「これ、スナップエンドウの酢漬け乗せてるの。春の味って感じでしょ?」
「……うまい……めっちゃうまい……!」
涙で味がわからんくらい、うまかった。
(これが……“農業高校合格の味”……!)
その夜、布団の中でスマホを握りしめ、陽介は小さくつぶやいた。
「……俺、ここから本当に“異世界に通じる道”に入ったんだな……」
次は農業高校。
“国農”での三年間が、本格的な準備期間になる。
土と向き合う日々。
牛と鶏と、作物と、そして自分自身と向き合う日々。
(剣道も、農業も、全部本気でやる)
「――よし、春休みから“実践フェーズ”だ!」
そう、陽介にはもう、のんびり春休みなど存在しないのだ。

翌日。
「というわけで、春キャベツ育てます!」
「春キャベツ!? 今から!?」
「うん、プランター拡張したから! 堆肥も熟成完了してるし!」
母は呆れながらも、嬉しそうだった。
「高校入学までに、キャベツの収穫成功させるのが目標!」
「ベランダ菜園レベルから、都市型サバイバル農業に進化させるぞ!」
さらに陽介は、近所のJA直売所に通い始め、農家の人の話をメモに取り、種苗会社のホームページを日参する日々へ。
剣道の稽古も週3に増えた。
道場の先生が言った。
「……お前、最近目つき変わったな。農民の目だ」
「え、それ褒めてます?」
「最上級の賛辞だ!」
陽介は照れながらも、胸を張った。
“剣を磨き、鍬を握り、知恵を重ねる。俺は異世界に行く準備をしている”
もう誰に笑われてもいい。
だって、これは俺の“使命”なのだから。
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