異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

谷川 雅

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第9話「初収穫は失敗フラグ!? 陽介、“芽キャベツ大作戦”に挑む & 剣道部で迎える筋肉痛祭り」

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国農に入学して、数日が経った。
陽介の生活はすでに堆肥臭と汗の香りに満ちていた。
午前は畑、午後は座学、放課後は道場。
そして夜は堆肥ノートに記録。
「これが俺の“異世界準備ロードマップ”……!」
と、張り切っていたある日。
「よっしゃー! お前ら、今月の栽培テーマは『班ごとに選んで挑戦してOK』だってさ!」
班長の佐原が、実習棟の掲示板をバシッと指さした。
「つまり……“自由課題”?」
「そう。俺たちは“芽キャベツ”でいこうと思ってる」
「芽キャベツ!? マニアックじゃない!?」
「マニアックだからやるんだよ。収穫タイミング難しいけど、食べたらめちゃくちゃ美味しいやつ。」
「た、たしかに……ローストして塩ふるだけでヤバい……!」
というわけで始まった――
『芽キャベツ大作戦』。
プランター栽培では難易度が高いと言われる芽キャベツ。
なにしろ、一株で小さなキャベツを30個前後つける、変わり者野菜だ。
「土壌のカルシウム量、要チェックね」
「pH6.5~7.0が理想。あと水はけ重視の畝作りにしよう」
「天候対策に防虫ネットと簡易ビニールかぶせとこ」
陽介の堆肥ノートが火を噴いた。まるで野菜育成シミュレーターのプロのようだ。

――一方、夕方の剣道場。
「よっしゃ新人、素振り300本な!!」
「ええっ!? 300ぉぉおん!!?」
国農剣道部は、想像以上に体育会系だった。
農業高校といえど、県大会常連どころか全国出場の経験もある本気の部。
竹刀を握ると、農具とは違う緊張感が走る。
「お前、意外と構えがきれいだな」
「筋力はないけど、足が速い。サッカー部だったの?」
「はい。異世界で“素早い剣士枠”を狙ってます!」
「お、おう……? 異世界……?」
(しまった、つい出た!)
剣道部の主将・篠田先輩は、一瞬だけ困惑したが、すぐに笑った。
「いいじゃん。そのくらいブレてない奴、嫌いじゃないよ」
剣道と農業。
全身を使い、手間を惜しまず、技を磨く世界。
陽介はどちらにも共通する“根っこ”を感じていた。
(どっちも、異世界で絶対必要な技術なんだ)

そして1週間後――
「やばい……! 芽キャベツ、芽が……変に膨らんでる……!」
栽培班の佐原が、畑で頭を抱えていた。
「収穫タイミング、間違えたか……?」
「でもまだ葉の色も浅いし……」
「ちょっと乾燥しすぎてたかも。水分ストレスで結球甘くなってるかも」
「……マズいな。出荷レベルじゃない」
陽介は、恐る恐る小さな芽キャベツを一つ収穫し、ナイフで半分に割った。
中は――少しスカスカ。まだ若かった。
「くそっ……あと2日、待てば……!」
「いやでも、週末の提出日には間に合わなくなる……!」
農業に“やり直し”は利かない。育てるということは、判断の責任を背負うことだ。
陽介は、悔しそうにうなだれながらも、口を開いた。
「――収穫しよう。これが俺たちの“初陣”なんだ。失敗も、提出しよう」
「……だな。次に活かせばいいんだ」
陽介たちの芽キャベツは、小さくて、まだ未熟だった。
だけど、それは間違いなく、自分たちの手で育てた“命”だった。

その日の夜、陽介は剣道部の稽古で、素振りの途中ふと叫んだ。
「俺たちの芽キャベツは、魂がこもってるぅぅぅっ!!」
「なんだ急に!?」
「農と剣、どっちも修羅場ぁぁああ!!」
竹刀を振るたび、心が軽くなる。
汗が、失敗の痛みを洗い流すようだった。
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