「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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1章

5、切実

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 レッドは持ち帰った多くのチラシを一枚ずつ丁寧に確認し、ギルド会館が開く時間帯に合わせて宿を出発した。

 ギルド会館では冒険者を迎え入れるために毎朝玄関先の清掃を行っている。ガチガチに厳しいルールの元……というわけではないので朝の清掃は大半がテキトーに済ませる。この受付嬢を除いて。

「あっ!おはようございます!」

 頭上の獣耳を立ててポニーテールを揺らし、快活に挨拶をしてくれる受付嬢。
 受付嬢はいつもの顔でいつもの調子なのに、レッドは気恥ずかしそうに頭を下げながら控え目に挨拶を返す。これからお願いすることを考えたら我ながら情けないと思っているのだ。

「あ、あの……チームのことなんですけど……」
「!!……決まりましたか?!どのチームです?!」
「いや、完全に決まったわけではなくて、いくつか絞ってきたのでその中から相談を……」
「おおっ凄い!早かったですね!どうぞ中へ!……あっ、ヘレナさーん受付お願いしまーす!」
「はいはーい。朝っぱらから大変ね~ルナちゃん」

 受付嬢ルナは別の受付嬢ヘレナにカウンターを任せ、レッドを館の奥の個室に案内する。レッドは机の上にチラシを広げ、いくつかの候補をルナに差し出した。散らばったチラシをグルッと一瞥した。

「あー……なるほど。こうきましたか……じゃあこの方々はどうです?『一刃の風』!リーダーは中級冒険者としても名高い野伏レンジャーのグルガンさん。パーティー構成は森司祭ドルイド弓使いアーチャー、そして戦士ウォリアーです。男性だけのチームですから気が楽なのではないでしょうか?」
「……えー……スゥー……そうですね。俺もそう思っていました」
「えーっと……じゃこれは?『クラウドサイン』!リーダーは雷を操る超攻撃型魔術師ウィザードのシルニカさん。パーティ構成は司祭プリースト槍士ランサー盗賊シーフ魔獣使いビーストテイマーの5人。ヘイトコントロールのためにもう1人戦士ウォリアー系が入れば最高のチームも目指せますよね?」
「最高かどうかは……まぁ、でも……はい」

 レッドは自分で選んできたはずなのに、今一歩踏み込めないような消極的スタンスを取る。
 ルナはため息が出そうになったのをぐっと堪え、レッドの顔をチラリと見る。その目は一点を見つめ、まったく離れない。

(あ、なるほど。既に決め打ちして来てたんだ……)

 だとしたら最初から1枚だけ出してくれたら手間も省けたのだが、レッドにその手のことを期待してはいけない。
 ルナはその1枚を手に取る。「あっ」とレッドが発声したことにより、これが本命なのだと教えてくれた。

「グリズリーベアですか……良いチームだとは思うのですが……」
「……ですが?」
「グリズリーベアはドワーフで固まっているのはご存知ですか?」

 レッドはふと(そういえば……)と思い返す。小さくて髭もじゃな男性が仲良く笑い合っていたのを羨ましく思ったのだ。もしあの輪の中に入れたら肩を組むのは難しそうだ。
 しかしだからなんだと言うのか。種族の違いなどレッドには関係ない。「それが?」とちょっと強気に受付嬢に返答した。

「彼らは種族のみならず血縁だけで集まっているのです。募集要項に『森司祭ドルイド』と書いているのは次の任務クエストに必要な即席の戦力であって、メンバーの補充というわけではないと推察します。十中八九断られるかと……」
「そう……ですか……」

 暗く縮こまったレッドを見て気の毒に思ったルナは肩を竦めた。

「そうですね……うん、じゃあ取り敢えず全部当たってみますか?」
「……ん?ぜん……ぶ?」
「はいっ!全部です!」

 ルナは鼻息荒く意気込んだ。



「いや、すいません……」
「申し訳ないのですが……」
「もう足りてますので……」
「要らないです」

 レッドは色んなチームの対面に座らされ、拷問を受け続けていた。扉から入った途端に苦い顔をされ、そのチームのリーダーが座ったかと思うと説明を受けた途端に断られる。
 最初から断るつもりなら、なんでレッドの対面に座るのか。自分たちが所属している冒険者ギルドの顔を立てているにすぎない。
 剣士セイバーとはこんなにも人気のないジョブだったのかと思わされるほどに蛇蝎だかつの如く嫌われている。

 最後の一組となる頃にはレッドの顔はかなり老け込んでいた。ルナの情熱には感心するが、せっかくのやる気を迷惑に感じてしまう。

 ──ガチャッ

 ドアノブを捻って入ってきたのはゴールデンビートルの槍士ランサー
 チーム最強を誇る彼の実力は、常人の一回り大きい魔獣5匹を一瞬で穴だらけにした逸話を持ち、鋭い突きと切れのある槍術から「千穿せんせん」の二つ名を持つ男、その名をウルフ。

「あれ?ウルフさん?」
「リーダーなら来ないぜ。時間の無駄だからよ」

 ガタンッと軽やかに勢いよく座った。

「へ?あの……考慮すらしないのなら何故こちらにいらしたのですか?」

 ウルフはニヤニヤしながらルナを見てすぐにレッドに視線を移す。

「へへ、なぁレッド。お前が誰からも必要とされてない理由を知りたいか?」
「ちょっ……!ウルフさん!?何を言い出すんですか!!」

 ルナはガタッと立ち上がり、机を挟んでウルフに詰め寄る。ウルフは手をかざして「まぁまぁ……」と宥めようとする。

「俺がここに座るまでにいくつものチームがお前をねつけてきたんだろ?全員が渋そうな顔をして出ていくのを見てたぜ?その理由を俺は知ってるっつったらどうするよレッド」
「……是非聞かせてください」

 ルナは「はぁ?」とレッドを見るが、レッドは真剣な面持ちでウルフの言葉を待っている。覚悟の決まった顔にルナはそれ以上口を出せず、ウルフから後ろに下がった。

「みんな知ってんだよな、お前があるチームから追放されたってよぉ……受付嬢さん、あんたもビフレストは聞いたことあんだろ?」
「聞いたことも何も世界で一番凄いチームじゃ……まさかレッドさんが?!」
「おうよ。なぁレッド?」

 その声に肩を強張らせ、ぐっと口を横一文字に結んで黙ってしまう。その行動が口以上に真実だと物語る。

「話はここからよ。こいつが居たせいでビフレストは有名になれなかったらしくてな?追放してからすぐにメキメキと真価を発揮したんだと」
「……何の根拠があるんですか?それじゃレッドさんが居ても居なくても一緒じゃないですか。ビフレストが最高のチームなら、万が一レッドさんが足手まといだったとしてもカバー出来ると思いますが?」
「だよな?でもよ、直後に入ったリック=タルタニアンってのも剣士セイバーだって言うぜ?同じ職業ジョブでどっちが優秀だったかは言うまでもないだろう?これでも庇い切れるかい?」

 ルナはぐっと言葉に詰まった。状況からしてみれば明らかにレッドが足を引っ張っていたとしか言いようがない。
 ビフレストは世界一の冒険者チーム。各ジョブの一流が集まった夢のようなパーティだ。そんな誰もが認める最高のチームがたった1人にその有名をき止められていた。その事実を突き付けられてはレッドに反論の余地はない。

「ふふっ……レッド。こんなこと言いたかないけどな?お前は疫病神なんだよ!そんな奴を入れるバカいないだろうがバーカ!はーっはっはっは!!」

 ウルフは腹を抱えて高笑いした。貯めに貯めたストレスを全部吐き出すかのように遠慮がない。
 レッドは堪らず飛び出した。爪で皮膚を破りそうなほど手を握り込み、悔しくて悔しくて目から涙を目一杯流した。顔がグシャグシャになりながらとにかく走った。

 気が付いた時にはダンジョンの前に居た。いつの間にか抜き払った剣をチラリと見てレッドは覚悟を決める。

「……もう……どうにでもなれっ!」

 自暴自棄となったレッドは自殺するつもりでダンジョンを風のように疾走し、階下へと降りていった。



 ギルド会館の奥、個室に取り残された2人は目をパチクリさせていた。
 走り出たレッドを目で追うことが出来なかったために脳の処理が追い付かなかったのだ。
 ウルフは別にレッドを注視していたわけではなかったので、単に出ていく姿を見逃しただけだと解釈して鼻で笑った。

「ふんっ……本当のことを言われて逃げやがったぜ。正直殴りかかって来るかと思ってたが、肩透かしも良いところだな。ま、ここで俺にぶちのめされたらそれこそ立ち直れないよなぁ?」

 その言葉にようやくルナも言葉を返した。

「レッドさんの許しを得られるなら私が殴ってましたよ。その前に退出されましたが……」
「あんな奴を庇ってどうする?このギルドに置いてたらそれこそ評判が落ちるぜ?」
「あなたって人は……!」

 肩を怒らせながら拳を作る。敵意を感じたウルフはひょうきんな顔を引き締めた。

「やる気かい?槍を持ってない俺でも身体能力はあんたより上だぜ?」

 ゴゴゴゴ……と2人のオーラがぶつかり合う。そんな一触即発のムードを一つの咳払いが斬り裂いた。

「ここでは戦闘禁止よ~。ほらほらルナちゃんは仕事に戻って」

 受付嬢のヘレナだ。危険な臭いを嗅ぎ取って喧嘩を止めに来たようだ。
 ぶすっとした顔で部屋を後にするルナ。ウルフも続けて立ち上がった。

「あんまり不和を撒き散らさないでよね~。特にルナちゃんは仕事熱心なだけなんだから」
「はっ!どうだか。惨めな奴が好きとかそういう変人の類じゃないのか?あわよくば結婚したーい!……ってよ」

 レッドを馬鹿にした口で裏声を出しながらルナをもバカにする。それにはヘレナがくすくすと笑う。

「そんなわけないじゃ~ん。ルナちゃんには婚約者がいるのよ?ただ仕事に真面目なだけ。……だから虐めないで。ね?」
「へっ……別に興味ないね。俺は教えてやりたかっただけだからな。雑魚で足手まといのレッドくんにはもうどこにも受け入れ先なんてないんだってな。どうだ?俺って親切だろ?」

 ヘレナは鼻で笑った。特に返事することもなくウルフに道を譲る。ウルフはそんなヘレナを尻目に高笑いしながらその場を去った。
 扉の先に消えゆくウルフの後ろ姿をヘレナは軽蔑の眼差しで見ていた。
 本当なら辛辣な言葉で反論して、あまり教養のあるとは言えない男の自尊心を挫いてやりたいところだが、そんな軽率な行動が出来るほど経験は浅くない。
 何故ならゴールデンビートルはこの街「プリナード」のギルドで有力な存在。怒らせて損害でも出されたらたまったものではない。

 壁にもたれかかったヘレナは疲れた顔で呟いた。

「……サイテー」

 それはウルフの性格を非難したものか、それともヘレナ自身の自虐だろうか。自分でも判然としないその呟きは、誰にも聞かれることなく虚空へと消えていった。
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