「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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2章

12、遭難者レッド

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「ちょっと早くしなさいよグズ!」

 鍔の広いトンガリ帽子を左右に振りながら偉そうに悪態をつくのは女冒険者シルニカ。雷を扱う超攻撃型の魔術師ウィザードで、チーム”クラウドサイン”のリーダー。
 ジャラジャラと光る金や宝石などのアクセサリーを付けた真っ白なトンガリ帽子に、真っ赤なマント、胸元の開いたフリフリのシャツにベルトを巻いて身体のラインを出している。短パンでスラリとした足を出して膝上のソックス、歩き辛そうな上げ底ブーツを履いている。

 とても魔術師ウィザードとは思えないほど派手な衣装を身に纏っている。汚れても良い衣装というわけでもないので冒険者にも不向きと言える。

「グズは無いだろ?グズはさぁ……これでも急いだんだぜ?」

 ぶつくさと文句を言うのは魔獣使いビーストテイマーの男。今回の依頼に適した魔獣を、迅速に手に入れてきたというのにあんまりな言い草だ。
 シルニカの生意気な態度と吐き捨てるような物言いには嫌気が差している。それでも見限らずについていくのは並々ならぬ仲間意識のためか、それとも金か。

「荒れてんなぁお嬢。ゴールデンビートルに先を越されたのが相当キてんだなぁ」

 頭にバンダナを巻いた盗賊シーフは肩を竦めながら鼻で笑う。遠巻きでこそこそと話しているところから彼女に聞かれるのは不味い会話のようだ。
 チームの中で最も体格の良い司祭プリーストは腕を組みながら唸る。

「冒険者の中でもりすぐりの優良チームですよ?格下相手ならともかく、ゴールデンビートルなら諦めもつくと思うのですが……」
「はぁ?諦めつくわけないだろうが」

 司祭プリーストの言葉に被せるように槍士ランサーは叱責する。

「ゴールデンビートルは俺たちのチームとほぼ互角の能力だと分析している。もしベルク遺跡の攻略をあのチーム1つでこなしたのなら、俺たちだってやれてたはずだ。お嬢はそこが気に食わないんだと思うぜ」

 槍士ランサーの言葉に見識の浅さを感じて反省する司祭プリースト。それを盗賊シーフは鼻で笑った。

「誰ってわけでも無いと思うがねぇ。もっと単純に自分が最初じゃなかったのが癪に障っただけじゃないかなぁ?」

 ベルク遺跡の攻略。前人未到の30階制覇。これをベテランのゴールデンビートルが達成した。
 そこで手に入れた様々なお宝をひけらかし、魔獣から得られる素材を換金した事実は覆しようがない。
 クラウドサインのメンバーはベルク遺跡攻略を目指してあの地に留まっていたのだが、先を越された以上武勲は得られない。未解明のダンジョンがまだまだ多くある現状、他を開拓するべきだ。との思いから街を飛び出し現在に至る。

「あんたたち何してんの!?とっとと魔物を見つけて!!」

 シルニカは怒声を浴びせてチームを集め、魔獣使いビーストテイマーが捕まえてきた猿のような魔獣にも叫び散らしている。急いでるシルニカたちとは裏腹に猿の魔獣は鼻をほじりながらのんびりと歩き出した。

「こ、この……早く歩きなさいよ!このノロマ!!」

 魔獣の性格がおとなしめだった為か何を言われてもマイペースを貫く。呆れ返る仲間を余所に、苛立つシルニカは地団駄を踏む。

 ガサッ

 森林に囲まれた植物だらけのこの場所で突然の物音。魔獣に違いない。
 クラウドサインの面々は腰を落として戦闘態勢に入る。先程までのおちゃらけた空気が一瞬にしてピリついた。

「あ、どうも」

 そこに居たのはレッド。木の陰からひょこっと顔を出して、シルニカたちにペコリと頭を下げた。

「は?レッド?何でこんなところに……」

 シルニカは訝しみながらレッドを睨む。
 前の街「プリナード」で受付嬢ルナの計らいにより、その日に会えそうな冒険者チームの代表を片っ端から連れてきて「レッドをチームに入れてくれ」と懇願されたのを思い出した。

 彼女にとってはただただ面倒で無駄なことだったが、レッドは名前を呼ばれたことに歓喜し「覚えてくれてた」と晴れ晴れとした笑顔で呟く。
 シルニカはそんなレッドの顔に薄気味悪さを感じながらメンバーに目で助けを求める。

「いやいやお嬢……何でってこいつも同じでしょうよ。ギルド総出でダンジョンから逃げ出したっつー魔獣の捜索にあたってんだから。そうだろレッド?」
「……あ、そっか。そりゃそうね……ふんっ!それで?私たちに声を掛けたのは例の魔獣を見つけたってこと?」

 シルニカは腕を組んで見下すように顎を上げる。背が低い彼女はその分プライドが肥大化し、さらにレッドのような底辺冒険者はいくら下に見ても良いと考えている節がある。
 精一杯見下そうとする彼女に、レッドは目をパチクリさせながら首を捻った。

「……えーっと……すまない。何の話だ?」

 ギルドに顔の一つも出していないレッドは例の魔獣とやらを一切知らない。そのことを素直に告げるとクラウドサインの面々に疲れが出た。「嘘だろ……」や「マジかこいつ……」など呆れ返っている。
 ギルドに寄らなかったがために情報を仕入れられなかった焦るレッドに司祭プリーストが優しく答える。

「この辺りで危険な魔獣を見たと報告が上がったんですよ。ギルドの見立てではブラックサラマンダーの可能性があるとか……」

 ブラックサラマンダー。
 黒くヌラヌラとテカる巨体。四つ足で平べったいフォルム。洞窟に住んでいるため目が退化しているのだが、聴力と触覚が発達していて、音を立てる物を捕食しようとする魔獣。
 目が見えていないので取り敢えず口に入れてみようという生態をしているために人が飲まれた例は数多く、冒険者の死因が多いことでも有名である。

 普通のダンジョンでは10階層付近でウロウロしている魔獣だが、どうして地上に出てきてしまったのか不明。原因はともかく町の住民に危険が及ばないように冒険者総出で捜索しているとのことだった。

「え?ああ、ブラックサラマンダーならあっちに……」
「何処だ!?」

 レッドの指の先を確認して槍士ランサーが駆け出す。盗賊シーフ猛獣使いビーストテイマーも後に続く。
 出遅れた司祭プリーストとシルニカだったが、後方支援の彼らは魔力を溜めつつ、付かず離れずの距離感で会敵すれば良いので焦らない。

「ふんっ!良くやったわレッド。後は私たちに任せて町に戻りなさい」
「それが宜しいですね。ギルドにも顔を出すのですよ」

 一応褒められたレッドは心がほっこりしつつ、慌てて2人を引き止める。

「あ、すまない。町はどっちに行けば良いんだ?実は遭難してて……」

 冒険者としてあるまじきことだが、山や森を初見で難なく踏破できる野伏レンジャーや、それに類する職業ジョブを持ち合わせていない戦士ウォリアー系ならではの弊害だと言える。
 こういったところからも単独行動は危ないので、早死したくなければチームを組む必要があるのだ。

「……そこ真っ直ぐ行ったら拓けた道に出るわよマヌケ。これ以上邪魔する気ならあんたから先に黒焦げにするから」

 シルニカは振り向くことなくズンズンと森の奥に進んでいく。司祭プリーストは「町までお気をつけて」と苦笑いで去っていった。

『は?!ちょっ……何ですか!?さっきの態度!ちょっと聞いただけじゃないですか!』

 女神ミルレースはぷりぷりと怒りながらレッドを見やる。

「いや、これに関して俺は文句を言えない。シルニカさんたちの言いたいことは分かる。それに今は町に戻れることを喜ぼう……」

 レッド自身どこかの冒険者が山や森で遭難しているのを見たら、なにか一言言いたくなるかもしれない。シルニカの反応は普通だ。
 レッドは自分の不甲斐なさを呪う。うなだれながら町へ向けてトボトボと歩き出した。

 レッドと離れたシルニカはニヤリと笑いながら得意の電撃魔法を使うために魔力を練り始める。

「ブラックサラマンダー如き一瞬で黒焦げにしてやるわ!」
「油断は禁物ですよシルニカさん。ブラックサラマンダーには僅かながら魔法耐性が付いているのですから」
「なら丸ごと貫通させてやるわ!」

 意気込んで仲間たちが突っ込んでいった場所に到着すると、そこには凄惨な現場が待ち構えていた。
 サラマンダーの炎で炭化した倒れた木々、無数のサラマンダーと思しき死骸。辺り一面に肉片が所狭しと散乱していた。

「……お嬢」

 先に接敵した槍士ランサー盗賊シーフ猛獣使いビーストテイマーだけでこの状況を作り出したのか。いや、違う。それならここまで動揺した顔を向けるだろうか。先ほど使役された猿の魔獣たちも困惑しながらブラックサラマンダーの死骸を触っているようだ。

 それにしてもブラックサラマンダーの数が多すぎる。数十匹、もしくは数百匹。黒い皮膚がまるで絨毯のようにひしめき合っている。この世の終わりを連想させるレベルの絶望的な数が全て撃破されている光景。
 田舎町「タング」のギルドが総力を挙げる程度では間に合わない人類の危機が、理解の範疇を超えた何かで回避された事実。
 整理しきれないシルニカの口からすべり出たのは単なる疑問。

「……どう言うこと?」

 何があったのか、誰がやったのか。疑問が恐怖を呼び、状況が焦燥を呼ぶ。
 そんなクラウドサイン全員の疑問を余所に淡々と歩くレッド。

『レッド。私は何だか夢を見ているようです。ゴブリン程度に警戒していたのは何だったのかと考えてしまいます』

 どこか遠い目をするミルレース。レッドは周りを見渡して人がいないことを確認するとようやく口を開いた。

「警戒は常に必要だ。ミルレースだって言ってただろ?敵を侮るのは間違ってるってな。俺はその通りだって思ってるし、自分の力に過信する油断こそが本当の敵だと考えている。自分の身は自分で守らなきゃだからな」
『それは……確かにそうですね』
「俺はミルレースの言葉に感謝してる。今後もそうやって俺に危険を知らせて欲しい。よく考えもせずに暴走しちまうこともあるだろうからな」
『……分かりましたレッド。そこまで言うならやるだけやってみます。……あっ、見て下さい。町ですよ』

 女神とレッドは町を見て安堵した。ようやくベッドで寝られると数日彷徨った体を労うために安宿に向けて歩き出す。

「……おっと違った。先ずはギルドだ」

 疲労を押してギルドの館を目指す。レッドのもう一踏ん張り。
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