女の子なのに能力【怪力】を与えられて異世界に転生しました~開き直って騎士を目指していたらイケメンハーレムができていた件~

沙寺絃

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二十八話 謎の男の正体

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 時刻は夕暮れ。辺りは茜色から薄闇色に染まり始めていた。町をやや離れると小川が流れていて、その上には橋がかかっている。
 橋を渡り切ったところで、私とレスターさんは小芝居を演じる。

「あーっ!」
「何だ、どうしたんだアイリ?」
「大変! 明日までにアルスターに戻って済ませなきゃいけない用事があるんだった! レスターさんも覚えていませんか!?」
「……ああ! すっかり忘れていた! どうする!?」
「今から急いで戻りましょう! 全力で走れば今夜のうちにはアルスターに戻れますよ!」
「ああ、そうだな!」
「えぇっ!? 私はどうすればいいの? 二人の全力についていくなんて無理だよ~!」
「ルゥはさっきの宿場町に戻って、また一泊すればいいよ! 明日、明るくなってから馬車を取って、ゆっくりアルスターまで戻ってくればいいんだから!」
「なるほど。じゃあ二人とも、気を付けてねー!」
「はーい」
 ……と、わざとらしく大声で話して私たちは別れる。

「あんな大根芝居で大丈夫か……」
「えっ? 私の女優っぷり、なかなかのものじゃなかったですか?」
「俺が観客なら、投げ銭ではなく石を投げていたところだな」
「厳しいなあ」

 ルゥと別れた私たちは、物陰に姿を隠しながらルゥの様子に気を配る。もしも何か脅威が近付いてきた時には、すぐに飛び出せるよう準備を整えておく。

「今のところ、辺りに人の気配はないようだな」
「そうですね」

 周囲はさらに暗くなり、空気がぴんと張り詰める。宵闇のせいばかりじゃない。何者かが私たちの間合いに接近しているのだと気がついた。
 まだ動いちゃいけない。相手を見極めた上で行動を起こさないと。
 でも、もしも相手が狙いの男じゃなかったら? 単なる物取りや乱暴目当ての暴漢がルゥに接近しているのだとしたら?
 私は焦れる。横を見やると、レスターさんも同じように感じているのが分かった。

「……結構精神的にキツいですね、これ」
「そうだな。しかし王子がご自分でやると決めたことだ」

 小声で話しかけると、レスターさんは目線を外さず頷いた。

「王子が自分から何かをやりたいと申し出るなんて、今まで滅多になかったからな……お前たちと騎士学校で学んだことが、王子に良い影響を与えているようだな」
「摂政から逃れて騎士学校に潜入するって話は、ルゥの方から出したんでしょう?」
「あの時も驚いたものだ。それまでのルーファス王子は、自己主張をほとんどしなかった。第一王子のスペアとして自己を抑制し、己を主張せず、常に影の存在として兄と王家を支えるようにと教育されていたからな」
「……改めて考えるとひどい話ですよね。それじゃあルゥは、自分では何もできないじゃないですか」
「実際そうだったんだ。それが例の誘拐事件の後から徐々に変わっていった。しかし長年スペアとしての生き方を強要されてきた王子にとって、自分の考えに自信を持って行動するのはハードルが高かった。自信をつけてもらう為には、すぐ側で王子の一挙手一投足を全肯定する存在が必要だと思ったんだ」
「ああ、だからレスターさんは――」

 時には過剰に思えるほどルゥを肯定してきたんだ。

「……だが、それも必要なくなってきたのかもしれないな。今の王子は自分で自分の道を歩み、本当の強さを身につけつつある」
「レスターさん……」
「もちろん今後王子が自立した後も、俺の忠誠心は変わらないがな。実家にも養子先でも拒絶され、居場所を失った俺の拠り所となってくれた過去に変わりはない。役割が変わろうとも、俺はその時々で必要なことをするだけだ。……おい、変な同情はするなよ」
「はい、それは分かっています。だけどルゥとレスターさんのこと、今までよりも深く知ることができて良かったです」
「……さあ、注意しろ。いよいよ気配が濃くなってきたぞ」

 レスターさんの言う通り、辺りの緊迫感が増していた。闇が濃くなり、ルゥの行く手にある宿場町の光が際立って見える。
 闇が一番濃い部分はどこだろう? たぶん町の入り口に差し掛かる直前だ。旅人がほっとして緊張を解くであろう一角に、その暗がりはあった。

「――」

 突如としてルゥの目の前に、大きな影がぬっと現れた。
 いきなり現れた大きな影に、ルゥは肩を跳ねさせる。けれど声は上げずに、じっと相手を見上げる。
 私とレスターさんは頷き合うと二手に別れ、男とルゥの前後に回り込むべく密かに駆け出した。
 ――二人の会話が聞こえてくる。

「あなたは……前に山で会った人ですね。盗賊たちから先生と呼ばれていた」
「……」
「でも僕は、それ以前にもあなたと出会っています。覚えていますか? 数年前、王宮から密かに僕と兄を連れ出した賊――その中にまだ少年と呼んでいい年頃の男の子がいた。名前は確か、クリフと呼ばれていた」
「やはり……ルーファス王子か」
「やっぱり、あなただったんですね」

 二人がお互いを認めるのと同時だった。私とレスターさんは姿を現し、クリフと呼ばれた男を包囲する。

「……囲まれたか。これが狙いだったのか? ルーファス王子」
「すみません。あなたは僕を探っているだろうから、僕が一人になれば接触してくると考えて罠に嵌めさせてもらいました」
「王子との話は聞かせてもらった。貴様はやはり下手人の一味だったようだな。最近はずっと一人で行動しているようだが、他の仲間はどうしたんだ?」
「……」
「答える義理はない、か? いいだろう、ある程度の推測はできる。恐らく王子誘拐を持ち掛けた依頼人に消された――そんなところだろう」
「!」
「図星のようだな。あの卑劣漢なら、それぐらいのことは平気でやってのけるだろうからな」
「依頼人を知っているのか……?」
「ああ」

 暗闇の中、互いに睨み合うレスターさんとクリフ。二人とも美形なだけに、一種異様な緊張感がある。特にクリフの瞳は異様に輝いていた。

「……俺たちはイース人にとって、異民族で占められた傭兵の集団だった。こちらから言わせれば、俺たちの方こそ先住民族だがな」
「ネイティブ・ルグだったんですね」

 言われてみれば、顔立ちや肌の色が私たちとは異なる。そうか、先住民族だったんだ。

「純血のイース人が受けないような仕事を受けるのが、俺たちの生業だった。時には非合法な仕事も請け負わねば、生きていけなかったからな。……あの依頼を受けた当時、俺はまだ十五だった。仕事を受けたのは親父だが、誰から依頼を受けたのか親父は明かさなかった。……俺たちは二人の王子を誘拐し、指定の場所で依頼人に引き渡すことになっていた。断じて殺すなと言われていた。ところが指定の場所には罠が仕掛けられていた――俺たちの一味は最年少だった俺を除いて、皆殺しにされた」
「……続けろ」

 レスターさんの言葉に頷き、クリフは先を続けた。
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