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27話 戦後処理
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ホーンズ城塞内には食堂や個室、大部屋、会議室、病院、各種保管庫、地下牢などが用意されている。
さながら小規模な街みたいだ。その地下牢に、魔族アモン軍の捕虜たちが捕えられている。
平原での激突の翌日。負傷兵たちの治療を終えた私は、地下牢に向かった。
「フレイさん、クレイトンさん。尋問の進み具合はどうですか?」
「一般兵はめぼしい情報を持っていませんでした。問題はこの男、アモンですが」
「まったく口を割りませんな」
「ケッ!!」
子犬の姿のアモンは、鎖に繋がれたまま舌打ちをする。アモンは檻から出されて尋問部屋に移されているものの、その全身は拘束されている。
狭い室内にはフレイさんやクレイトンさんの他にも2人の兵士がいて、さらに私まで入ったから相当狭い。
それでもやってきたのは、尋問が行き詰っているようなら、私の存在が突破口になるんじゃないかと考えたからだ。
私はアモンの魔力を吸収した。そのせいでアモンは、今や子犬程度の大きさしかなく、魔法は全然使えない。
「おい聖女ォ! 俺様の魔力をとっとと還しやがレ!」
「貴様、今の状況と身の程を弁えていないのか?」
「まあまあフレイさん、そんなに睨まなくても」
「犬は厳しく躾ねばなりません」
「誰が犬ダ、誰ガ!!」
アモンには悪いけどキャンキャン吠える姿は、私としても犬にしか見えなかった。
「魔力を還してほしいのなら、私たちに協力してくれないかな?」
「ケッ! 魔王の情報を売れってんだロ? こいつらから散々言われたゼ! 何度も言うがお断りダ! 俺はこう見えても魔王軍四天王の1人ダ! 魔王軍の情報を売るぐらいなラ、拷問の末に殺された方がマシダ!!」
「ほう……それは貴殿の部下が対象でも、同じことが言えますかな?」
「アァ!?」
クレイトンさんの言葉に、アモンの目の色が変わる。姿形こそは子犬だけど、その瞳に殺意と敵意――凄味が備わる。
「クレイトン」
「はっ、失礼しました……」
「今の失言は詫びよう、アモン。フレイ=パーシヴァルの名前に誓い、我々パーシヴァル騎士団は、捕虜への虐待の類は行わないと約束しよう」
「ケッ。今の状況は虐待じゃねえのかヨ?」
「君が尋問に協力的であれば、待遇改善も吝かではないのだが」
「狡猾な野郎だゼ!」
話は平行線だ。それでもアモンから殺気が消え、軽口を叩けるようになったのは、さすがフレイさんと言わざるを得ない。
結局これといった成果もないまま、今日の尋問は終了した。
***
「あまり成果はなかったですね」
「そうでもありませんよ。あのアモンという男は、相当部下を大切にしているようです」
「え?」
夕食後、フレイさんの部屋で私たちはグラスを傾けている。
フレイさんはずっと働き詰めだから、そろそろ休んだ方がいいんじゃないかなって様子を見に来たら、大歓迎されて飲み物を振舞われた。
カットグラスにブドウ果汁が注がれる。フレイさんのグラスの中身は白ワインだ。この世界での私は一応成人年齢だけど、現代日本では未成年だったし。お酒なんて飲んだことないから、今の状況では避けておきたかった。
白いクロスのテーブルにグラスを置き、フレイさんは窓の外を見やる。
「昨日の投降も、部下に無用な犠牲を出させまいとする為のものでした。アモンと共に捕えた魔族は、すべて魔族と他種族の混血種です。魔族の間で混血種は、純血種に蔑まれていると聞きます。それだけに結束力が高いのでしょうね」
「……そっか、だからあんなに怒ったんだ」
「情報を得たいのは確かですが、不興を買いすぎるのも問題です。あの様子では部下を傷付ければ、ますます頑なに口を閉ざすでしょう。時間をかけて粘り強く、情報を聞き出さなくては」
「聖女(わたし)の存在がカードに使えそうなら、いくらでも使ってくださいね」
「ありがとうございます。……が、そのような状態は極力回避したいと思っています」
フレイさんはグラスを傾けて苦笑する。切れ長の瞳がさらに細められて、私を射すくめた。
「――よく考えてみれば、聖女のカードを切る状況って、かなり切羽詰まった状態ですもんね。あんまり軽々しく出していい手じゃないですよね」
「はい」
「それにしても、アモンが聖女聖女って叫ぶから、結局私が聖女だってみんなにバレちゃいましたね」
当然ながら、私が魔王に狙われているということも知れ渡った。だけどみんなは私を責めるどころか、そういう事情ならますます守らなければならないと結束を高めたようだ。
先日の戦いでは、私の支給した装備と回復薬、それに回復魔法のおかげで死者を最小限まで抑えられた。重症を負った人も、今ではピンピンしている。
みんなが私の存在を受け入れてくれたのは、きっとそれも影響しているだろう。
「本当に、いい人たちですね」
「はい。自慢の領民、自慢の部下たちです」
「きっとフレイさんが領主を務め、騎士団を率いているからだと思うんです」
「俺が――ですか?」
「だってフレイさんは、この世界で真っ先に私へ手を差し伸べてくれた。行き場のない私を受け入れてくれた。私のワガママに――魔法を鍛えたいとか、自分も戦いたいとか、そういったワガママも嫌な顔一つしないで受け入れてくれた。私、本当に感謝しているんです。フレイさんがいたから、私はここにいられる。フレイさんは強くて優しくて気高い人だから。そんなフレイさんだから、領民や騎士団の皆さんも影響されていると思うんです」
「エリカ殿……」
テーブルの上に置いた手に、フレイさんの手のひらが重なる。思わず心臓が跳ねる。顔を上げると、フレイさんは真摯な眼差しで私をまっすぐ見つめていた。
「……手、火傷の跡はもうありませんね。綺麗に治って良かった」
「エリカ殿のおかげです。あなたは絶対に死なせません。俺が必ず守ります」
「フレイさんは体を張って私を守ってくれた。でも、あんな無茶はもうしないでください」
「ですが」
「あなたが私を死なせたくないように、私だってあなたに苦しんでほしくないんです。だってフレイさんは――」
私の為に時間も手間も、人員すらも割いてくれるフレイさんに、今はこれ以上負担をかけられない。だから途中まで言いかけた言葉の先は、音にならなかった。
「フレイさんは、いい人だから。とてもとても、いい人だから。私を……助けて、くれたから」
代わりに出てきた言葉を、フレイさんは受け止める。
私の好きな微笑を浮かべて。——今だけはその微笑みが、ほんの少しだけ胸に刺さった。
さながら小規模な街みたいだ。その地下牢に、魔族アモン軍の捕虜たちが捕えられている。
平原での激突の翌日。負傷兵たちの治療を終えた私は、地下牢に向かった。
「フレイさん、クレイトンさん。尋問の進み具合はどうですか?」
「一般兵はめぼしい情報を持っていませんでした。問題はこの男、アモンですが」
「まったく口を割りませんな」
「ケッ!!」
子犬の姿のアモンは、鎖に繋がれたまま舌打ちをする。アモンは檻から出されて尋問部屋に移されているものの、その全身は拘束されている。
狭い室内にはフレイさんやクレイトンさんの他にも2人の兵士がいて、さらに私まで入ったから相当狭い。
それでもやってきたのは、尋問が行き詰っているようなら、私の存在が突破口になるんじゃないかと考えたからだ。
私はアモンの魔力を吸収した。そのせいでアモンは、今や子犬程度の大きさしかなく、魔法は全然使えない。
「おい聖女ォ! 俺様の魔力をとっとと還しやがレ!」
「貴様、今の状況と身の程を弁えていないのか?」
「まあまあフレイさん、そんなに睨まなくても」
「犬は厳しく躾ねばなりません」
「誰が犬ダ、誰ガ!!」
アモンには悪いけどキャンキャン吠える姿は、私としても犬にしか見えなかった。
「魔力を還してほしいのなら、私たちに協力してくれないかな?」
「ケッ! 魔王の情報を売れってんだロ? こいつらから散々言われたゼ! 何度も言うがお断りダ! 俺はこう見えても魔王軍四天王の1人ダ! 魔王軍の情報を売るぐらいなラ、拷問の末に殺された方がマシダ!!」
「ほう……それは貴殿の部下が対象でも、同じことが言えますかな?」
「アァ!?」
クレイトンさんの言葉に、アモンの目の色が変わる。姿形こそは子犬だけど、その瞳に殺意と敵意――凄味が備わる。
「クレイトン」
「はっ、失礼しました……」
「今の失言は詫びよう、アモン。フレイ=パーシヴァルの名前に誓い、我々パーシヴァル騎士団は、捕虜への虐待の類は行わないと約束しよう」
「ケッ。今の状況は虐待じゃねえのかヨ?」
「君が尋問に協力的であれば、待遇改善も吝かではないのだが」
「狡猾な野郎だゼ!」
話は平行線だ。それでもアモンから殺気が消え、軽口を叩けるようになったのは、さすがフレイさんと言わざるを得ない。
結局これといった成果もないまま、今日の尋問は終了した。
***
「あまり成果はなかったですね」
「そうでもありませんよ。あのアモンという男は、相当部下を大切にしているようです」
「え?」
夕食後、フレイさんの部屋で私たちはグラスを傾けている。
フレイさんはずっと働き詰めだから、そろそろ休んだ方がいいんじゃないかなって様子を見に来たら、大歓迎されて飲み物を振舞われた。
カットグラスにブドウ果汁が注がれる。フレイさんのグラスの中身は白ワインだ。この世界での私は一応成人年齢だけど、現代日本では未成年だったし。お酒なんて飲んだことないから、今の状況では避けておきたかった。
白いクロスのテーブルにグラスを置き、フレイさんは窓の外を見やる。
「昨日の投降も、部下に無用な犠牲を出させまいとする為のものでした。アモンと共に捕えた魔族は、すべて魔族と他種族の混血種です。魔族の間で混血種は、純血種に蔑まれていると聞きます。それだけに結束力が高いのでしょうね」
「……そっか、だからあんなに怒ったんだ」
「情報を得たいのは確かですが、不興を買いすぎるのも問題です。あの様子では部下を傷付ければ、ますます頑なに口を閉ざすでしょう。時間をかけて粘り強く、情報を聞き出さなくては」
「聖女(わたし)の存在がカードに使えそうなら、いくらでも使ってくださいね」
「ありがとうございます。……が、そのような状態は極力回避したいと思っています」
フレイさんはグラスを傾けて苦笑する。切れ長の瞳がさらに細められて、私を射すくめた。
「――よく考えてみれば、聖女のカードを切る状況って、かなり切羽詰まった状態ですもんね。あんまり軽々しく出していい手じゃないですよね」
「はい」
「それにしても、アモンが聖女聖女って叫ぶから、結局私が聖女だってみんなにバレちゃいましたね」
当然ながら、私が魔王に狙われているということも知れ渡った。だけどみんなは私を責めるどころか、そういう事情ならますます守らなければならないと結束を高めたようだ。
先日の戦いでは、私の支給した装備と回復薬、それに回復魔法のおかげで死者を最小限まで抑えられた。重症を負った人も、今ではピンピンしている。
みんなが私の存在を受け入れてくれたのは、きっとそれも影響しているだろう。
「本当に、いい人たちですね」
「はい。自慢の領民、自慢の部下たちです」
「きっとフレイさんが領主を務め、騎士団を率いているからだと思うんです」
「俺が――ですか?」
「だってフレイさんは、この世界で真っ先に私へ手を差し伸べてくれた。行き場のない私を受け入れてくれた。私のワガママに――魔法を鍛えたいとか、自分も戦いたいとか、そういったワガママも嫌な顔一つしないで受け入れてくれた。私、本当に感謝しているんです。フレイさんがいたから、私はここにいられる。フレイさんは強くて優しくて気高い人だから。そんなフレイさんだから、領民や騎士団の皆さんも影響されていると思うんです」
「エリカ殿……」
テーブルの上に置いた手に、フレイさんの手のひらが重なる。思わず心臓が跳ねる。顔を上げると、フレイさんは真摯な眼差しで私をまっすぐ見つめていた。
「……手、火傷の跡はもうありませんね。綺麗に治って良かった」
「エリカ殿のおかげです。あなたは絶対に死なせません。俺が必ず守ります」
「フレイさんは体を張って私を守ってくれた。でも、あんな無茶はもうしないでください」
「ですが」
「あなたが私を死なせたくないように、私だってあなたに苦しんでほしくないんです。だってフレイさんは――」
私の為に時間も手間も、人員すらも割いてくれるフレイさんに、今はこれ以上負担をかけられない。だから途中まで言いかけた言葉の先は、音にならなかった。
「フレイさんは、いい人だから。とてもとても、いい人だから。私を……助けて、くれたから」
代わりに出てきた言葉を、フレイさんは受け止める。
私の好きな微笑を浮かべて。——今だけはその微笑みが、ほんの少しだけ胸に刺さった。
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