【完結】虐げられた男爵令嬢はお隣さんと幸せになる[スピラリニ王国1]

宇水涼麻

文字の大きさ
10 / 26

10 末っ子のワガママ

しおりを挟む
 ベルティナとクレメンティが、セリナージェの部屋に行った後、エリオとイルミネの前にはお茶が出された。

「執事長、ベルティナが言うように、執事長の爵位がベルティナより上であることが、理由だと思うかい?」

 エリオは少し厳し目の視線を執事長へ向けた。それは『使う側』の者、独特なものであった。

「僭越ながら、意見を述べさせていただいても?」

「ああ、君の本当の意見を聞きたい」

「ベルティナ様がこちらにいらっしゃったのは、11歳の頃でございました。その頃のセリナージェ様は、それはもう大変なワガママぶりでございまして。侯爵家の末のお子様でありますので、わたくしどもも、甘やかしてしまっていたのでございます」

「へぇ、そんな感じしないけど」

 イルミネは、肘をテーブルについて執事長の顔をジッと見た。

「ええ、それは、ベルティナ様のおかげでございます。何か大きなことがあったわけではないのです。ですが、日々の1つ1つがセリナージェ様を変えていかれたのです」

「どんなことがあったのかな?」

 エリオは幼い頃のベルティナとセリナージェに、とても興味を持った。
 メイド長も執事長の隣にたって、説明を始めた。

「ある日、セリナージェ様が、庭のお花を毟ってしまいまして。庭師もいつものことだと、気にしないでおりましたら、ベルティナ様が、庭師からハサミを借りて、それを小さな花束になさりました。セリナージェ様がベルティナ様に何をしているのかとお聞きになると、『庭師が一生懸命に育ててくれたお花なのだから、1日でもキレイにいさせてあげたい』とおっしゃって、花瓶にさして、セリナージェ様の勉強机に飾りました」

 メイド長は、ハンカチで、目頭を抑えた。

「好き嫌いの激しかったセリナージェ様でございましたが、ベルティナ様が毎日のように『私たちのために作ってくれたお料理は美味しいわね』とおっしゃりながら召し上がるので、いつの間にか、セリナージェ様の好き嫌いがなくなっておりました」

 執事長は昔を思い出して、笑顔になった。セリナージェの好き嫌いには、手を焼いていたのだろう。

「わたくしは、まだ、メイドの一人でございましたが、ベルティナ様は、シーツがいい匂いだと喜び、衣服がキレイだとお礼をおっしゃり、カーテンが変わったと季節を感じてくださり、よく眠れたのだと笑顔を向けてくださるのです」

 メイド長も後ろの少し年を重ねたメイドもなぜか涙を流していた。

「わたくしどもは、ベルティナ様をお守りしたいと、みな、思っております。そして、セリナージェ様を甘やかすだけではいけないのだと、教えてくださったのも、ベルティナ様でございます」

 執事長が、そう言って、頭を下げた。頭を下げたまま、最後に言葉にした。

「爵位が問題なのではなく、ベルティナ様のお優しさそのものと、存じます」

 いつの間にか集まった使用人たちが、泣きながら頷いていた。

〰️ 

 エリオとイルミネは、エリオの使っている客室へ移った。

「いやぁ、ベルティナは、想像以上にいい子だったね」

「ああ、そうだな」

 エリオは、口では賛同しながら、眉根を少しだけ寄せている。

「何、エリオ?納得できないの?」

 イルミネが髪をかきあげながら、少し首を傾げた。イルミネには、エリオが何を気にしているのか、全くわからない。

「うーん、なんかちょっと気になるかな」

「なんで、想像以上ではあったけど、ベルティナのこと知ってるから、俺は、なんとなく納得できちゃったけど」 

「僕も、彼らは嘘はついていないと思うよ。きっとベルティナは、幼い頃から、そういう娘なんだとも思う」

 エリオは両手を前で組んで、そこは納得していると、頷く。

「なら、何?」

「うーーん、わからない」

 エリオは、首を数回振って、難しい顔をした。


〰️ 〰️ 〰️


 翌早朝に遠乗りに出掛けた5人は、夕方少し前には、別荘に着いた。
 別荘の使用人たちは、大歓迎してくれた。セリナージェとベルティナも久しぶりだったのだ。

 さらに翌日、早速湖に出掛けた。
 メイドたちが、木に幕をかけて、着替える場所を作ってくれる。

「レムたちが先にどうぞ」

 ベルティナに譲られて、3人が、中に入り着替えをする。着替えが終わり、クレメンティが先頭で幕の外に出た。が、出てすぐにクレメンティが止まってしまい、動かなくなった。

「レム!邪魔だよ。動けってばっ!」

 エリオがクレメンティを押せば、前が開けた。
 そこには、女神のように立つ女性が二人いた。
 エリオも動けなくなった。エリオの脇から顔を出して、イルミネが見た。

「あっれぇ?二人とも、いつ着替えたんだよ?」

「ふふふ、びっくりさせようと思ったのよ」

 セリナージェがかわいい舌をペロッと出した。

「実は、別荘から下に着てきたの。びっくりした?」

 ベルティナも珍しく、いたずらっ子の顔をしていた。そんなベルティナも眩しい。

「こいつらを見てよ。びっくりしすぎて動けなくなっちゃったよ」

「ふふ、ベルティナ、作戦成功ね!」

「そうね、アハハ」

 ベルティナとセリナージェは、片手を『パチン』とハイタッチした。

「こいつら放っておいて、行こう!」

 イルミネが、二人の手を掴んで湖へと向かった。そのまま、水に入る。

「気持ちいいわねぇ!」

「ええ、とっても気持ちいいわ!」

 イルミネが二人の手を離さないまま、3人ではしゃいでいると、我に返った2人が、走ってきた。

「イル!それは許せないぞ!」

「レム、イルを捕まえるんだっ!」

 3人は追いかけっこを、始めて随分と遠くまで泳いでいってしまった。セリナージェとベルティナは、足を水につけたまま、岸に座り、メイドから日傘を受け取り、クルクル回しながら、3人の様子を見ていた。
 戻り途中で2人の様子に気がついたイルミネが、手を振ってきた。セリナージェもベルティナも手を振る。それを見たクレメンティが、ブクブクと沈んでいき、エリオがクレメンティを助けて、イルミネが笑っていた。
 復活したクレメンティは、イルミネを沈める。エリオはクレメンティを手伝っていた。

 その様子を見ていたベルティナは、少しだけ気が遠くなった。
 だが、3人が岸まで戻ってきた水音で我に返った。

「喉乾いちゃった。メイドさんにもらってこようっと!」

 イルミネがとっとと、岸をあがってしまった。クレメンティがセリナージェに手を伸ばす。セリナージェは、日傘を持ったまま、クレメンティの手を取り、二人で膝上ほどのところまで入って行った。エリオはベルティナの隣に座った。

「3人とも泳ぎが上手なのね」

「ああ、子供の頃から泳いでいるからね。ベルティナは泳げないの?」

「試したことがないの。顔を水につけることが怖くて。セリナは、少しだけ泳げるって言っていたわ」

 ベルティナは、足を水にバタバタさせていて、ベルティナもエリオもなんとなく、それを見ている。

「そうなんだ。ピッツォーネ王国の王都は湖の側なんだよ。王城は湖を背にしているんだ」

「まあ!ロマンチックなのね」

 ベルティナは、目をキラキラさせてエリオを見た。

「ハハハ、そうだね。朝日の時間はとても美しいよ」

「エリオは、朝日の時間に王城と湖を見たことがあるのね。きっと雄大なのでしょうね」

「え!あ、うん。湖から見たら雄大だよ。夕日もキレイなんだよ。湖も真っ紅に染まるんだ」

 少しだけエリオは慌てていたが、ベルティナは気が付かない。

「ステキねぇ」

「あ、あのね、ベルティナ」

「うん?」

「今日のベルティナもとっても、その、ステキだよ。似合ってる。うん、かわいい」

「う、うん。ありがとう」

 ベルティナも水着を褒められるのは照れてしまう。

「そろそろお体を冷やしすぎてしまいます。一度お上がりになってくださいませ」

「わかった」

 メイドに声をかけられて、エリオが、すっと立って、ベルティナに手を伸ばす。ベルティナは、頬を染めたまま、その手をとった。ベルティナが立ち上がっても、エリオはその手を離すことはなく、二人は手をつないだまま、メイドの用意してくれたシートまで戻った。

〰️ 

 昼食に合わせて、屋敷から温かいスープとサンドイッチが届いた。少し冷えた体に、染み渡る。

「私も少し泳いでみようかしら?」

「セリナが泳げていたのって、いくつの時なの?本当に大丈夫?」

 ベルティナはとても不安で、セリナージェの腕に手を置いて、セリナージェの目をジッと見た。

「7歳よ。お兄様に教えていただいたの」

 マイペースなセリナージェは、ケロッと答える。ベルティナの心配があまり伝わっていないようだ。

「俺たちがいるから大丈夫だよ。少しだけやってみたら?」

「でも、笑うのは禁止よ」

 セリナージェは、1番笑いそうなイルミネを睨んだ。

「セリナを笑ったりするもんかっ!」

 セリナージェは、もちろん、クレメンティが笑うなんて、思っていない。

「セリナ、変な前振りやめてよ。俺、もう笑いたくなっちゃったよ」

 イルミネは、本当に笑い出した。

「もう!まだ、何もしてないのに!」

 セリナージェの頬が、膨れるのを見て、みんなが大笑いした。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~

放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」 最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!? ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

悪役令嬢の断罪――え、いま婚約破棄と?聞こえませんでしたわ!

ちゃっぴー
恋愛
公爵令嬢アクア・ラズライトは、卒業パーティーの最中に婚約者であるジュリアス殿下から「悪役令嬢」として断罪を突きつけられる。普通なら泣き崩れるか激昂する場面――しかし、超合理的で節約家なアクアは違った。

処理中です...