【完結】虐げられた男爵令嬢はお隣さんと幸せになる[スピラリニ王国1]

宇水涼麻

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11 湖畔遊び

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 昼食を済ませて、少し休憩した後、5人は再び水辺にむかった。
 クレメンティがセリナージェの手を引き、腰の高さあたりまで進む。イルミネもそれに付き合う。

 エリオはベルティナの手を引いているが、明らかにベルティナは、進む足が遅い。エリオは、あえて急かしたりはしなかった。

 エリオたちよりだいぶ沖の方では、クレメンティがセリナージェの手を持ち、セリナージェがバシャバシャと足を動かしていた。顔はあげたままのセリナージェの状態にイルミネが笑っていて、セリナージェが怒っていた。

 エリオとベルティナが膝の上を越える深さまでくると、ベルティナは、全く動けなくなった。

「エリオ、私、岸へ戻るわ。あなたも、みんなと遊んできて」

 ベルティナは、明らかに顔色が悪い。

「僕はベルティナと一緒で大丈夫だよ。もう少し岸の方へ戻ろう」

 エリオは、ベルティナを気遣い、岸の方へ戻ろうとした。

 その時、ベルティナが何かに躓いて転んだ。ベルティナは両手を湖の底についたとき、顔を水に浸けてしまった。その瞬間、ベルティナはパニックを起こした。まるで、その場で溺れているようだ。
 エリオがベルティナを、即座に抱き上げた。エリオは、ベルティナを横抱きにして、水から離して、水には足もつけさせずに、岸へと急ぐ。ベルティナは、首を振って何かを怖がっているようだ。腕はエリオの首にギュッと絡ませ、体は震えていた。

 後ろからイルミネも駆けつけた。セリナージェとクレメンティも岸へと向かっている。

「ベルティナ、大丈夫だよ。僕がいる!大丈夫だ、ベルティナ!エリオだよ。わかるかい?ベルティナ!」

 エリオは、岸につくまで、ずっとベルティナに話しかけた。そこにいるのは、エリオであると証明し続けるように。

 岸に上がった時にはベルティナはパニックは解消していたが、エリオの首に手を回したまま離そうとしなかった。エリオはそのまま岸のシートにベルティナを下ろす。
 そこにセリナージェが駆けつけて、ベルティナを抱いた。ベルティナの腕も、エリオからセリナージェに移した。
 メイドたちも、ベルティナに何枚ものタオルをかけていた。

 5人は着替えもせずに、屋敷に戻った。馬車が屋敷に到着すると、そこからは、執事がベルティナを横抱きで部屋へと運んだ。セリナージェもそれについていった。

 メイドたちに促されて、3人は着替えのために部屋へと戻った。

〰️ 〰️ 〰️

 その日、夕食にもベルティナは現れなかった。夕食の後、セリナージェは3人をサロンに誘った。4人が丸テーブルに座ると冷たい果実水が給仕された。

「心配かけてごめんね」

 セリナージェは悲しげな顔で、テーブルの縁を見つめていた。

「いや、セリナのせいじゃないよ。僕の不注意でこんなことになってしまって」

 エリオはずっと項垂れたままだった。

「それは気にしないでほしいわ、エリオ。ベルティナも『エリオに迷惑をかけてしまった』ってことばかり気にしていたから」

 セリナージェは顔をあげて、エリオに答えた。

「今、ベルティナは?」

 クレメンティも顔は険しい。

「お医者様がよく眠れるお薬をくれたの。軽くスープを飲んで、お薬を飲んだから、すぐに寝たわ」

「エリオのせいではないと思うよ。おそらく本人もここまで水が苦手だと自覚してなかったんだと思う。膝下の深さまでなら、楽しんでいたんだから」

 イルミネは、遠くからエリオとベルティナを観察していたので、状況を冷静に分析した。

「そうなのよ。確かに小さい頃から、そのくらいの深さしか行ってなかったんだけど、お兄様やお姉様たちが、お止めになるからだって思っていたわ」

 セリナージェは右手を頬に手をあて、昔を思い出していた。

「僕が無理をさせたんじゃないのか?本当は岸から離れなくなかったんじゃないのか?」

 エリオは肘をテーブルについて、頭をかかえた。

「違うわ。ベルティナは、楽しかったんですって。だから大丈夫だって思ってしまったのって。エリオにはとっても感謝していたわ」

「そうか、でも、怖がらせてしまったことは事実だ。ベルティナに謝りたい」

 必死に言い募るセリナージェの言葉に、エリオは少しだけ納得したが、気持ちはおさまらなかった。

「それは、だめよ、エリオ!そんなことしたら、ベルティナは2度とあなたと楽しめなくなるわ。ベルティナはそういうことにも罪悪感を感じてしまう優しい子なのっ!エリオはツラいかもしれないけど、わかって。お願い」

 セリナージェは、最後にはエリオに頭を下げた。

「わかった。セリナ、頭なんて下げないでよ」

 エリオこそ、泣いてしまいそうな顔をしていた。

〰️ 〰️ 〰️

 翌朝には、ベルティナは元気な笑顔を見せた。セリナージェの進言で、エリオはベルティナに謝ったりしなかった。

 それから、3週間は別荘で過ごした。釣りをしたり、乗馬をしたり、買い物をしたり。
 2度ほど泳ぎにも行ったが、ベルティナとエリオは、岸辺で充分に楽しんだ。

 イルミネが冗談で始めたピッツ語限定日や、大陸共通語限定日は、セリナージェとベルティナの語学力を大いにアップさせた。

 こうして、夏休みは、5人でティエポロ領で過ごし、ベルティナから見ても、クレメンティとセリナージェは大変よい雰囲気となっていた。

〰️ 〰️ 〰️

 夏休みが明けた。夏休み前のテストの結果、クラスは変更なしだった。

「え?まさか、俺、8位?うそだろう!!」

 イルミネがショックで頭を抱えていた。

「そんなに自信あったの?」

 ベルティナとセリナージェは、もちろん、ピッツォーネ王国での3人の成績は知らない。

「イルは、確かにあちらでは、5位以下になったことはなかったな」

 クレメンティが落ち込むイルミネに視線を落とした。セリナージェが、イルミネの背中をさする。

「私も順位を落としたわ。イル、気にしないで」

「イルは、負けず嫌いすぎだよ。勉強はレムに勝てたことないくせに」

「セリナとエリオは、いくつだったんだよ」

 イルミネが立ち上がった。

「私は、今回は4位よ」

「僕だって5位なんて、始めてだよっ!」

 クレメンティが、ついでに答えようとする。

「なんだよ、やっぱり二人とも上じゃないかっ。レム、お前のは聞きたくないっ!」

 イルミネは、片手の手のひらをクレメンティに見せて、クレメンティを、ストップさせる。

「たぶん、予想外れてるよ」

 クレメンティは、両手の手のひらを上に向けて、びっくりのポーズをした。

「まさか?ベルティナ?」

 エリオが先程から何も言わないベルティナの方を見た。ベルティナは、何も起こっていないような顔をしていた。

「ベルティナが1位以外取るわけないでしょう?」

 セリナージェが両手を脇にして、胸を反らして威張った。セリナージェにとって、ベルティナは、いつでも自慢の幼馴染なのだ。

「でも、3教科も、ランレーリオに、負けたわ」 
 
 ベルティナは、大きくため息をついた。

「僕も、3位なんて始めてみた数字だよ」

 クレメンティも、ベルティナに負けないため息だった。クレメンティは、ピッツォーネ王国では、いつも1位か2位だったのだ。

 ちなみに、6位キアフール、7位ロゼリンダである。

「学力では、ピッツォーネ王国は負けてるってことかな?」

 エリオがとてもがっかりしていた。まるで国を背負っているようだ。

「上位だけを見て、判断するのはおかしいわ。もし、気になるのなら、両国の生徒200人ほど集めて、共通テストをしなくては、何とも言えないわね」

 ベルティナがとても大きな提案をした。

「さすがにそれは、無理だよねぇ」

 イルミネが即座に答えた。

「そうでしょう。だから、私達の成績で国の優劣を語ってはいけないわ。ピッツォーネ王国は優秀な国だと、あなた達を見ればわかるのだから」

 ベルティナは、エリオに微笑んだ。エリオが個人のこと以上に気にしていることに気がついていたのだ。それに、ベルティナは、実は3人はスピラ語、ピッツ語、大陸共通語以外にも、話せるのではないかと思っていた。それほど、他国語であるはずのスピラ語が流暢であった。

「そうだね。でも、やっぱり、個人としても悔しい思いはあるよ。な、イル?」

 エリオは頭をかきながら、イルミネに振った。

「俺には聞いてくれるな!」

 イルミネが口を尖らせて、横を向いた。いつも笑いの中心であるイルミネの拗ねた姿を始めてみたベルティナとセリナージェは、少し驚いたが、なんとなく安心して、笑ってしまった。
 ベルティナとセリナージェは、今までは、イルミネはいつも余裕があって、すこしだけ大人な感じを受けていた。それが、やっぱり同じ年なのだと感じられたのだ。
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